十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊

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儀式から数日が経った。
けれど、私の胸にはあの日の光が、いまもはっきりと残っていた。

エルセリア・ノクターン嬢が祈りを捧げた瞬間、
空が裂け、陽が降り注いだ――

神学書には「徴(しるし)」という言葉がある。
それは、神が人に与える無言の啓示。
天意は言葉で語らず、ただ自然を通して示される。

あれは、まさしく“徴”だった。

私は確信していた。
けれど、その確信を軽々しく口にするつもりはなかった。

信仰は熱に駆られてはならない。
宗教は激情の旗ではない。

私は私のやり方で、静かに――けれど確実に、
教会を変えてゆくための歩みを始めることにした。



第一に動かすべきは、同輩の若き神官たちだった。

古きしきたりを金科玉条のように信じ、
高位者の顔色ばかりを窺う者たちではなく、
神意に耳を澄ませることを忘れぬ者たち。

彼らと、私は毎夕祈祷のあとに語らいを持つようにした。
会話のすべては穏やかなものだった。

「……あのときの光は、不思議だったな」
「まるで、神があの方に触れたように……」

そんな呟きを、私は否定しない。
だが肯定もせず、こう返す。

「奇跡というものは、見る者の心の中にまず起こるのです。
天が示した徴を、信仰として受け取るか否か……それは信者の自由でしょう」

私はただ、芽が芽吹く土を耕すだけでいい。

誰かの信仰が芽を出すそのとき、
それが“個人”の中に根付くのなら、それで十分だ。



次に、記録である。

神意とは再現されず、しかし記録されることで後の証となる。
私は儀式当日の天候、時刻、参列者の顔ぶれ、そしてあの“光”について、
私的な記録として綴った。

公文書にはならぬ。
だが、いつか必要となるそのときのために。

神官としての記録は、証言以上に重くあるべきだ。

私は書を閉じ、筆を拭きながら、窓の外を見やった。

風が雲を押し流し、空は今日も澄んでいた。



最後に――
私はひとりの若者を訪ねた。

彼の名はアレクト。
神学校を出て間もない、真面目で物静かな青年だ。

だが、彼はかつて、王都の下層街で自警団として働いていたことがある。

「私にできることがあれば、なんなりと」

彼の返答に、私はただ頷いた。

「いまは何もせずにいてくれ。
……だが、いずれ“声を上げる者”が現れたとき、
きみはその声に、耳を塞がないでいてほしい」

アレクトは深く頷いた。
それだけで、私は満足だった。



何も変わっていないように見える世界の中で、
信仰の種は、確かに根を張り始めていた。

私は騒がず、告げず、ただ祈りながら動いてゆく。

この国に、
この世界に、
あの方に――ふさわしい新しき聖堂を、築くために。
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