社畜OLが黒魔術で幼女化しましたが、騎士団副団長の番として囲われています 〜死ねば元の世界に帰れるらしいけど、あなたを置いて死ねません〜

藤原遊

文字の大きさ
34 / 71
第3章 崩れる心と選択

第30話 誘拐

気づいたとき、私は冷たい布の上に横たわっていた。鼻の奥に、甘くてどろっとした匂いが残っている。息を吸うと胸がちくりと痛んだ。
視界がゆれ、耳の奥でコトコトと規則的な音が響く。馬車の車輪の音だと、少し遅れて理解した。

「……ここ、どこ……?」

口にすると、自分の声がかすれていた。馬車の揺れが、体の奥までむりやり流し込まれるみたいで気分が悪い。

油の灯りがゆらゆら揺れる中、向かい側には二人の男が座っていた。黒い布で顔の下半分を覆い、目だけがぎらぎらしている。
聞きたくなくても、会話は耳に刺さった。

「成功例が手に入った。これで研究は完成に近づく」
「やっと“素材”が戻ってきたんだ。今回こそ逃がすな」

成功例。素材。
言葉の意味を理解した瞬間、背中に冷たいものが走った。

――私のこと、そんなふうに呼んでたんだ。

胃がひっくり返るみたいに気持ちが悪い。
ここにいるだけで、体の感覚がどんどん冷えていく。

でも、それと同じくらい強く、胸の奥を別の考えが掴んだ。

“死ねば元の世界に戻れるかもしれない”

本に書かれていた一文が、勝手によみがえる。
黒魔術師たちは私を「成功例」だと信じている。なら、きっとまた儀式みたいなことをするつもりだ。

そこで死ねば——私は、帰れるかもしれない。

胸がぎゅっと痛む。
でも、考えてしまった。

ここまで攫われたのなら、内部に協力者がいたって国も騎士団のせいだけじゃないと、認めざるをえないだろう。
もし私が死んでも、お咎めは少なく済むんじゃないか。
バルドやカイルの責任が、少しは軽くなるんじゃないか。

いやだ。
そんなふうに考える自分が、一番いやだ。

揺れる馬車の中で、私は拳をぎゅっと握りしめる。
死ねば本当に帰れるのだろうか。
帰って、あの残業だらけの生活に戻るのだろうか。
でもこの世界に残れば、私は“異物”として、また誰かを危険に巻き込むかもしれない。

どうしたらいいのか分からない。
ただ、胸の奥がきしむように痛くて、呼吸が少しずつ浅くなる。

そして、揺れる灯りの中で思う。

――こんな考えをする私は、きっとどこへ行っても傷つけてしまうんだろう。
感想 0

あなたにおすすめの小説

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

護衛対象が番だったのですが? 〜お茶とおにぎりで外堀を埋められています〜

tamameso
恋愛
 筋骨隆々で顔まで良い第一王子ソウの護衛に就いたレン・ハクトウ。  けれど護衛対象は強すぎる上に距離感までおかしい。護衛から始まる、じれ甘ラブコメ。 これは、「暗殺対象が番だったのですが?」のユエン×ティオと同じ空の下の、いつかのお話。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。