信徒守護官カトリナの辺境ライフ〜魔王討伐後、救済はじめました〜

藤原遊

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魔王が討たれてから三年の月日が流れた。かつて世界を覆っていた恐怖と闇は消え去り、残されたのは戦火で焦土と化した大地と、疲れ果てた人々の姿だった。

教会の鐘が鳴り響くたびに、誰もが思い出す。あの日、異世界から召喚された勇者が、いくつもの勇者パーティを率いて魔王を討ち果たした奇跡を。英雄たちの名は歌になり、物語になり、やがて人々の記憶から光として昇華されていく。

だが、鐘の音が届かない場所があった。辺境と呼ばれる土地だ。

ここはかつて魔王軍との最前線だった。城壁は崩れ、村々は焼き払われ、荒野には魔物の残党が今も蠢いている。人々は乏しい収穫で飢えを凌ぎ、勇者の歌よりも日々の生存に執着する。辺境は世界の「終わり」であり、救済の手が届かない場所だった。

そんな地に、一人のシスターが降り立つ。

「これが教会直轄領ってやつですか?」

小柄な少女が馬車から飛び降り、荒れ果てた村を見回した。空腹そうな子どもたちがぼんやりと立ち尽くし、風に吹かれた埃が舞い上がる。教会から派遣された信徒守護官の助手であるリリアナは、ため息をつきながら振り返った。

「ねえ、本当にここを収めるんですか?カトリナさん」

「もちろんですとも」

村の中央に降り立った女性が、大地にしっかりと足をつけた。白いシスター服はどこかボロボロで、しかしその姿には不思議な威厳がある。シスター・カトリナ。かつて魔王討伐の最前線で戦った、伝説のシスターだ。

「理不尽に苦しむ人々を見捨てるなんて、私にはできません」

「いや、やる気はわかるんですけど、ここ……完全に終わってますよ?」

リリアナが嘆息混じりに肩をすくめた。

「家も半分壊れてるし、作物も全然取れなさそうだし。むしろここに来た教会がすごいですよね、送る人間間違ってません?」

「救済はいつだって、理不尽との戦いから始まるものです」

カトリナは堂々とした口調で答えた。続けて、まるで自分に言い聞かせるかのように呟く。

「破壊なくして、救済なしです」

「いやいや、その考え方がすでにおかしいんですけど!」

リリアナが慌てて突っ込むが、カトリナは気にする様子もなく歩き出す。その背中を追いかけるように、村の子どもたちがぞろぞろと付いてくる。

「お腹が空いているのかい?」

カトリナが柔らかい声で尋ねると、子どもたちは警戒しながらも小さく頷いた。

「ならば少し待っていなさい」

カトリナは村の片隅に放置された倒木を見つけると、その前で祈るように目を閉じた。そして次の瞬間、彼女の両手が光り輝き、倒木がまるで煙のように消えていく。その下から現れたのは、少しばかりの土と生き残った作物だった。

「大地が持つ力を浄化して、こうして少しずつ復興させるのです」

リリアナはその様子を見て呆れたように頭をかいた。

「いや、やってることはすごいけど、それで復興するにはどれくらいかかるんですか?一生じゃ足りなくないです?」

「一歩ずつ進むことが大事なのです」

カトリナが静かに微笑む。

「それが、私たち信徒守護官の使命ですから」

「はいはい、頑張りましょうね」

リリアナがぼやきながらもカトリナを追う。その姿は、辺境という絶望の地に小さな希望の光を灯し始めていた。
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