信徒守護官カトリナの辺境ライフ〜魔王討伐後、救済はじめました〜

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封印の間に現れたのは、人型をした黒い影だった。影の形は揺らめいており、確固たる輪郭を持たない。その目に当たる部分だけが赤く輝き、瘴気が立ち込めている。

「な、なんですか、あれ……？」

リリーが震える声で尋ねると、セオが額に手を当てて考え込んだ。

「おそらく、この封印に縛られていた存在だろう。形を持たないのは、呪いそのものが具現化しているからだと思う」

「つまり、倒さないとまた厄介なことになるってことだな」

エドガーが剣を構えながら一歩前に出る。

影が低く唸り声を上げた瞬間、瘴気が一気に広がり、一行を包み込む。視界が遮られ、リリーが慌てて声を上げた。

「み、みんな、大丈夫ですか？」

「平気よ、リリー」

カトリナの落ち着いた声が暗闇の中から響く。「ここは私に任せなさい。あなたは祈りに集中して」

「は、はい！」

リリーは慌てながらも目を閉じ、体力回復の祈りを捧げ始める。その微かな光が暗闇を少しずつ照らし始めた。

「リリーの光が道を作ってくれてる！みんな、協力するぞ！」

エドガーが剣を掲げ、双子のセオとフィオが詠唱を始める。炎と氷の魔法が影に向かって放たれるが、影はすぐに姿を変えて攻撃をかわす。

「こいつ、厄介だな……！」

カインが短剣を構えながら呟く。

「大丈夫よ」

カトリナがハンマーを肩に担ぎながら一歩前に出た。

「こんな影ごとき、光で浄化すれば終わりよ」

「それ、簡単に言いますけど！」

リリーが思わずツッコミを入れる中、カトリナはロザリオを握りしめ、祈りを捧げた。

「聖なる光よ、この地を照らし、全ての理不尽を祓いたまえ！」

彼女のハンマーが眩い光を放ち始めた。その光が封印の間全体に広がり、瘴気を押し戻していく。

「すごい……！」

リリーが驚きの声を上げると、セオが冷静に呟いた。

「さすがカトリナさん。あの光、影にとっては致命傷になるはずだ」

「なら、全力でサポートしよう！」

フィオが笑みを浮かべながら、再び詠唱を始める。エドガーとカインも影の動きを封じるように立ち回り、攻撃を続けた。

「リリー、もう少しだけ光を強められる？」

カトリナが振り返って尋ねると、リリーは緊張しながらも頷いた。

「やってみます！」

リリーは手を合わせ、さらに強い祈りを捧げた。その光がカトリナのハンマーに吸い込まれるように集中し、ハンマーは一層輝きを増した。

「ありがとう、リリー。これで終わりよ！」

カトリナが力強くハンマーを振り上げ、影に向かって振り下ろす。眩い光が爆発し、影は悲鳴を上げながら消滅していった。

「……終わったのか？」

エドガーが剣を下ろしながら呟くと、カインが肩をすくめた。

「どうやらそうみたいだな。でも、随分と手間を取らされたぜ」

「本当よ。カトリナさんがいなかったら、どうなってたことか」

フィオが安堵の息を漏らしながら笑う。

「でも、リリーもよく頑張ったわ」

カトリナが微笑みながらリリーの肩に手を置く。「あなたの祈りがなければ、この光は生まれなかった」

「そ、そんな……私はただ祈っただけで……」

リリーが照れながら言うと、セオが軽く肩を叩いた。

「それが一番大事なんだよ。俺たちもカトリナさんも、リリーの祈りで救われたんだからな」

その場に広がる静寂の中、封印の間に漂っていた瘴気は完全に消え去り、清らかな空気が満ち始めた。

「これで一安心ね」

カトリナがハンマーを肩に担ぎながら呟く。「でも、この封印を作った者の意図は、まだ分からないままね」

「それを調べるのが次の課題ってことか」

エドガーが剣を鞘に納めながら言う。

「そうね。理不尽の元凶が完全に消えるまでは、私たちの仕事は終わらないわ」