戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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7章影との戦い

⑧

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朝靄に包まれた森を抜け、フィオラたちの部隊は次なる戦場となる谷へと進軍していた。
目指す場所は、ライナーが指摘した物資ルート付近の要地だった。影が再び現れる可能性が高い場所――それを断定するための行動だった。

フィオラは馬上から周囲を見渡しながら、緊張した面持ちで兵士たちに指示を飛ばしていた。

「この先で影が現れる可能性があるわ。みんな、十分に警戒して。」

ロイドが馬を並べて彼女の隣に来る。

「兵士たちはしっかり準備している。お前も気を張りすぎるな。」

フィオラはロイドの言葉に微笑む。

「ありがとう、ロイド。でも、ここでは絶対に気を緩められないわ。」

ロイドは彼女の言葉に頷きながら、ふと少し後ろにいるライナーの方を見た。
彼は静かに馬を進めており、周囲を見渡しながら冷静に状況を把握しているようだった。

「……お前、本当にこいつを信用しているのか？」

ロイドの低い声に、フィオラは一瞬迷ったような顔を見せたが、すぐに答えた。

「完全には信じていない。でも、彼の情報は確かだし、協力することで進む道が見えるなら、利用すべきよ。」

ロイドはその答えに渋い顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。

目的地の谷に到着したフィオラたちは、険しい崖と複雑に入り組んだ地形に囲まれていた。
その静けさが不気味で、影の存在を感じさせる空気が漂っていた。

「この地形では視界が悪すぎる。影に奇襲されれば厄介だな。」

ロイドが険しい顔で言うと、ライナーが冷静に地図を広げた。

「奴らの痕跡を追うには、中央の岩場に陣を張るのが最善だ。だが、ここは守りが難しい。一度襲われれば逃げ場がない。」

「それでも進むしかないわ。」

フィオラはライナーの言葉を受けて断言した。

「私たちが影を見つけて、その動きを封じる。戦争を終わらせるためには、ここでの戦いを避けられない。」

その言葉に、ロイドも兵士たちも力強く頷いた。

「お前が決めたなら、俺たちは従うだけだ。」

その夜、陣を張ったフィオラたちは、見張りを立てて警戒を続けていた。
フィオラは作戦計画を練るために天幕で地図を見つめていたが、その手は少し震えていた。

「大丈夫か？」

ロイドが天幕に入ってきて、彼女の様子を伺った。

「……大丈夫よ。ただ、少し疲れているだけ。」

フィオラはそう答えたが、その顔には不安の色が見え隠れしていた。
ロイドは彼女の隣に座り、低い声で言った。

「お前は誰よりも頑張っている。それは分かる。でも、全部を抱え込むな。」

「ロイド……。」

フィオラはその言葉に、一瞬だけ表情を緩めた。

「あなたがいるから、私はこうしていられるのかもしれない。」

ロイドはその言葉に微笑み、静かに立ち上がった。

「それなら、俺はもっと強くならなきゃな。」

その言葉がフィオラの胸に温かく響いた。

翌朝、影が現れる予兆が訪れた。
谷全体に黒い霧が広がり、空気が一変する。その異様な気配に兵士たちが緊張を高める中、フィオラは馬を降り、全員に指示を出した。

「全員、防御態勢を取って！影が来るわ！」

その声に応じるように、黒い霧の中から複数の影が姿を現した。それはこれまでに見たものよりも強大で、まるで意思を持って動いているかのようだった。

「来たか……！」

ロイドが剣を抜き、兵士たちを守るように前に出た。ライナーもまた剣を構え、冷静な目で影の動きを観察している。

「フィオラ、今回の影はこれまでのものとは違う。祭壇を破壊されたことで奴らが焦り始めている。」

「ええ、それが分かるわ。」

フィオラは魔力を練り上げ、巨大な水の盾を展開した。

「みんな、私が前に立つわ！この影を止めるために、全力を尽くしましょう！」

彼女の声が戦場に響き渡り、兵士たちの士気を高めた。

戦闘は激化し、影との攻防が続く中で、それぞれが全力を尽くしていた。
ロイドの剣が影の攻撃を弾き、ライナーの戦術が影の隙を突く。フィオラの魔力は影の動きを封じ込め、兵士たちを守っていた。

「ロイド、左側を頼むわ！」

「任せろ！」

「ライナー、中央を抑えて！」

「了解だ。」

三人の連携が影を徐々に追い詰めていく。その中でフィオラは、影の中心にある異様な光に気づいた。

「あそこが……奴らの核かもしれない！」

フィオラが叫び、魔力を集中させる。
次の瞬間、影の中心部に向けて放たれた水の波動が光を貫いた。

影が消え去り、谷に静けさが戻る。
フィオラは息を切らしながらその場に膝をついた。ロイドがすぐに駆け寄り、彼女の肩を支えた。

「無茶をするなと言っただろう。」

「……ごめんなさい。でも、これで一歩進めたわ。」

フィオラの声には疲労の中に確かな達成感が込められていた。
ライナーも剣を収め、静かに二人に近づいてきた。

「君たちの力がなければ、この戦いは乗り越えられなかった。感謝する。」

その言葉にロイドは一瞬だけ険しい表情を見せたが、すぐに口元を緩めた。

「……まあ、今回だけは認めてやる。」

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