戦乙女の選ぶ道

藤原遊

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7章 影との戦い

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フィオラとライナーが向き合う祭壇の中央では、影が異様な形に変貌していく。
それは次第に巨大化し、複数の腕を持つような異形へと姿を変えた。影の身体は黒い霧をまとい、その中から低く響く唸り声が漏れ出している。

「まるでこの場所そのものが影の一部みたい……!」

フィオラは水の盾を展開しながら呟いた。
ライナーは剣を構え、冷静な声で応じる。

「祭壇が奴らの力を増幅しているのは間違いない。この場所を破壊しなければ、影の力を完全に抑えることはできない。」

「破壊……でも、その方法は?」

フィオラが問い返す間にも、影の触手のような黒い霧が彼らに向かって伸びてくる。
ライナーはその攻撃を剣で弾きながら叫んだ。

「俺が奴の注意を引く。その間に君が祭壇の中心を狙え!」

「分かったわ!」

フィオラは杖を握りしめ、全ての魔力を集中させ始めた。その目には強い決意が宿っている。

一方、ロイドは森の中で影と向き合っていた。
彼の周囲には黒い霧が広がり、視界を奪うような圧迫感があった。それでも、彼は剣を握りしめ、一歩も引かずに影を見据えている。

「何度でも現れるんだな……。だが、これ以上好きにはさせない!」

ロイドの剣が影の身体を切り裂くたびに、黒い霧が一瞬だけ薄れる。だが、影はその度に形を変え、再びロイドに迫ってくる。

「お前が何であろうと、俺の邪魔はさせない……!」

ロイドの目に浮かぶのは、フィオラの姿だった。
彼女を守るため、彼女が信じる道を支えるため、ロイドは全力で剣を振るい続けた。

「フィオラ、お前が帰ってくる場所を守る。それが俺の役目だ!」

影が放つ攻撃をかわしながら、ロイドは全ての力を込めて一撃を放った。
剣が影の中心を貫き、黒い霧が一瞬だけ大きく揺れる。

祭壇では、フィオラが魔力を解放する準備を整えていた。
彼女の周囲には水の波動が渦巻き、杖の先が青白く輝いている。

「これで……終わらせる!」

彼女の声と共に、水の魔法が祭壇の中心に向かって解き放たれた。その一撃が石柱を直撃し、祭壇全体が揺れ始める。

「いいぞ、そのまま続けろ!」

ライナーが剣を振るい、影の攻撃を防ぎながら叫ぶ。フィオラはさらに魔力を注ぎ込み、祭壇を破壊するための最後の一撃を放った。

その瞬間、石柱が崩れ落ち、祭壇全体が轟音と共に崩壊していった。影の身体が激しく揺れ、黒い霧が徐々に薄れていく。

「終わったの……?」

フィオラが息を切らしながら呟くと、ライナーが剣を収め、静かに頷いた。

「一つの戦いは終わった。だが、これで全てが終わったわけではない。」

森の中では、ロイドもまた影を消し去ることに成功していた。
影が霧散していくのを見届けたロイドは、深く息を吐き、剣を収めた。

「これで……少しは前に進めるか。」

彼は兵士たちに目を向け、静かに指示を出した。

「これ以上の影の痕跡がないか調べろ。もし新たな動きがあれば、すぐに報告しろ。」

部下たちが動き出すのを見届けながら、ロイドは心の中でフィオラを思った。

「無事でいてくれ……。あいつが戻ったら、俺はもう少しマシな男になっているはずだ。」

フィオラとライナーが戻る道中、二人の間には静かな空気が流れていた。
祭壇での戦いが終わったとはいえ、影の脅威が完全に消え去ったわけではない。それが二人を無言にさせていた。

「フィオラ、君はこの戦争が終わった後、何を望む?」

突然の問いに、フィオラは少しだけ歩みを止めた。

「私が望むのは……平和よ。誰も傷つけられず、誰も犠牲にならない世界。」

その言葉に、ライナーは小さく笑みを浮かべた。

「君らしい答えだな。」

「あなたは違うの?」

フィオラの問いに、ライナーは視線を遠くに向けた。

「俺は……ただ、この戦いを終わらせることしか考えられない。それが俺にできる全てだ。」

その言葉に、フィオラは複雑な感情を抱きながらも静かに頷いた。

「なら、私たちは同じ目標に向かっているわね。」

「そうだな。」

二人の間に生まれた短い共感の瞬間が、次なる戦いへの準備を心に刻ませた。
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