戦乙女の選ぶ道

藤原遊

文字の大きさ
54 / 60
7章 影との戦い

しおりを挟む
塔の中央にある黒い石の台座を前に、フィオラたちは慎重に動いていた。
その台座から漂う青白い光は静かに脈打ち、影が塔を覆っていた霧と同じ不気味な気配を放っている。

「これは……ただの魔力じゃない。」

フィオラは魔力の波動を感じ取りながら呟いた。台座に近づこうとしたその時、ライナーが短く息を吐きながら彼女を引き止めた。

「フィオラ、下がれ。これは影の本体に繋がっている可能性が高い。」

「でも、これを調べなければ次に進めないわ。」

フィオラの言葉に、ロイドが一歩前に出た。彼の手は剣の柄を強く握りしめていた。

「俺がやる。お前に危険なことはさせられない。」

「ロイド……でも……」

フィオラが迷うような目で彼を見た瞬間、ロイドは静かに微笑んだ。

「俺がいる限り、お前を危険に晒さない。それだけは譲れないんだ。」

その言葉に、フィオラは一瞬だけ迷ったが、やがて頷いた。

「分かった。でも、無理はしないで。」

ロイドは短く頷き、剣を構えたまま台座に近づいた。その手を伸ばし、黒い石に触れると、突如として塔全体が揺れ始めた。

黒い霧が再び塔を包み込み、台座からは影の形をした何者かが現れた。
その姿は人間のような輪郭を持ちながらも、目も口もなく、ただの暗闇そのものだった。

「また現れたか……!」

ロイドが剣を振り上げると同時に、影が鋭い音を立てながら彼に向かって突進してきた。
その動きはこれまでの影よりも素早く、ロイドは剣で受け止めながらも後退を余儀なくされた。

「ロイド!」

フィオラが叫びながら魔力を練り、水の波を影に向けて放つ。
その攻撃が影の動きを一瞬だけ封じるが、すぐに霧がそれを飲み込む。

「なんてしつこさ……!」

ライナーが剣を振るい、影の中心部を狙う。だが、その攻撃もまた霧によって弾かれた。

「この影……台座そのものが力の源になっている!」

ライナーの言葉に、フィオラは再び台座を見つめた。

「なら、あれを破壊するしかないわ!」

三人は再び力を合わせ、影を抑えながら台座の破壊を目指した。
フィオラが魔力で影の動きを封じ、ロイドが剣でその防御を削る。ライナーはその隙を突き、台座に向けて力を放った。

「今だ!」

フィオラの声と共に、三人の力が台座を貫いた。台座が砕けると同時に、塔全体が激しい振動と共に崩れ始めた。

「外に出るぞ!」

ロイドがフィオラの腕を掴み、塔の出口へと駆け出した。ライナーもその後に続き、三人は崩壊する塔を間一髪で脱出した。

塔の外で、フィオラたちは息を切らしながら振り返った。
崩れた塔の中心部からは、黒い霧がゆっくりと消えていく。その光景に、フィオラは小さく呟いた。

「これで、影を少しは弱らせることができたのかしら……。」

ロイドが彼女の隣で短く笑った。

「少なくとも、俺たちが無事ならそれでいい。」

その言葉に、フィオラは微笑んだが、その目にはまだ不安が残っていた。

その夜、キャンプに戻ったフィオラは、得られた情報を基に次の行動を考えていた。
黒い石から発せられた力が、影の中心に繋がる手がかりとなることは間違いなかった。

「次は……影の本拠地を探らなければならない。」

フィオラが独り言のように呟くと、ライナーが天幕に入ってきた。

「君の決断は間違っていない。ただ、影を追うには大きな犠牲を伴うかもしれない。それでも進むのか?」

「もちろんよ。この戦争を終わらせるためには、それしかないもの。」

フィオラの強い意志に、ライナーは少しの間黙り込んだ後、静かに言った。

「君がその道を選ぶ限り、俺も協力する。だが、俺にはまだ隠さなければならないことがある。」

「隠す?」

フィオラが問い返すと、ライナーはわずかに目を伏せた。

「影を追うことで、戦争は終わるかもしれない。だが、君がその後どうなるかは分からない。それだけは覚えておいてくれ。」

その言葉にフィオラは胸がざわついたが、静かに頷いた。

「分かったわ。でも、私は進むしかない。それが私の選んだ道だから。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...