亡命した混血の俺と天使の幼馴染、七斗学院で新しい人生を始めます

藤原遊

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七斗学院の中庭は、いつもと変わらぬ穏やかな光に包まれていた──はずだった。

だが、俺とククルの胸には重く冷たい不安が降り積もっていた。

最近、学院の中でも妙な噂が飛び交っていたのだ。

「ラグエンティ伯爵家が妙に静かだ」
「宰相派と聖女派の対立が再燃している」
「レイドとフェーゲではまた戦争準備の動きがあるらしい」

──レイド王国とフェーゲ王国の間で、大きな戦争が始まろうとしていた。

俺たちが今まで身を寄せてきたラグエンティ伯爵家も、その渦中にある。
そして──それは、ニコラウス商会を支える立場でもある。

***

「──ジム、ククル」

声をかけてきたのは、青いマントの青年──ウェバルだった。
学院の裏庭で俺たちを呼び止めると、珍しく真剣な顔をしていた。

「……良いかい?少し、率直な話をしよう」

ウェバルは周囲を見回してから静かに口を開く。

「情勢が、かなり危うくなってる。戦争は避けられない段階だ」

俺は無意識に拳を握った。

「……やっぱり、ですか」

「ラグエンティ伯爵家が聖女派として強く支えていたけど……今、その立場が危うくなってる。さらに──」

彼は声を潜める。

「──ニコラウス商会がフェーゲ王国の間者と繋がっていたと、明らかになったらしい」

ククルが小さく息を呑んだ。

それが事実なら──
ラグエンティ伯爵家は、間者に資金提供をしていたと見なされる。
国を裏切った大罪だ。

「……嘘、だろ……?」

「本当にそうなら、裁きは重くなる」

ウェバルは苦しげに眉を寄せた。

「伯爵家当主殿は、怪我で療養中のまま公の場に出ておられない。王宮内の動きも速い。取り潰しは時間の問題だろう」

そう呟いたウェバルの目が、静かに俺たちを見据えた。

「君たちも……備えておくべきだ」

***

そして──その日は、突然訪れた。

学院の掲示板に、王国からの通達が貼り出されたのだ。

──ラグエンティ伯爵家、爵位剥奪及び断絶処分。
──当主、ユリージスは七色の虹を通った。

張り詰めた空気の中、ざわつく学生たち。

その場にいたククルの肩がわずかに震えた。七色の虹を通る、これはレイドで人が亡くなったを婉曲に表現するものだ。

「……あんなに、良くしてくださったのに……」

ククルの涙を、俺はそっと袖口で拭った。

「……ククル、大丈夫だ。俺がいる。絶対に、お前を守る」

「……うん……うん……」

震えながらも、ククルは俺の腕をぎゅっと抱き寄せた。

***

その夜、学院寮にウェバルが駆け込んできた。

「──ジム、ククル!」

俺たちは黙って頷く。
もう、決意はできていた。

「……ノイトラール共和国へ亡命します。受け入れていただけますか」

「もちろんだよ」

ウェバルは優しく笑った。

「……準備は整っている。今夜のうちに、学院から脱出しよう。落ち着くまでレイド王国の手が届かない方が良い」

こうして──
俺たちの第二の祖国が決まった。

ノイトラール共和国──混血の民の国。
俺たちの新たな未来が、そこから始まる。
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