14 / 19
14
しおりを挟む
七斗学院の中庭は、いつもと変わらぬ穏やかな光に包まれていた──はずだった。
だが、俺とククルの胸には重く冷たい不安が降り積もっていた。
最近、学院の中でも妙な噂が飛び交っていたのだ。
「ラグエンティ伯爵家が妙に静かだ」
「宰相派と聖女派の対立が再燃している」
「レイドとフェーゲではまた戦争準備の動きがあるらしい」
──レイド王国とフェーゲ王国の間で、大きな戦争が始まろうとしていた。
俺たちが今まで身を寄せてきたラグエンティ伯爵家も、その渦中にある。
そして──それは、ニコラウス商会を支える立場でもある。
***
「──ジム、ククル」
声をかけてきたのは、青いマントの青年──ウェバルだった。
学院の裏庭で俺たちを呼び止めると、珍しく真剣な顔をしていた。
「……良いかい?少し、率直な話をしよう」
ウェバルは周囲を見回してから静かに口を開く。
「情勢が、かなり危うくなってる。戦争は避けられない段階だ」
俺は無意識に拳を握った。
「……やっぱり、ですか」
「ラグエンティ伯爵家が聖女派として強く支えていたけど……今、その立場が危うくなってる。さらに──」
彼は声を潜める。
「──ニコラウス商会がフェーゲ王国の間者と繋がっていたと、明らかになったらしい」
ククルが小さく息を呑んだ。
それが事実なら──
ラグエンティ伯爵家は、間者に資金提供をしていたと見なされる。
国を裏切った大罪だ。
「……嘘、だろ……?」
「本当にそうなら、裁きは重くなる」
ウェバルは苦しげに眉を寄せた。
「伯爵家当主殿は、怪我で療養中のまま公の場に出ておられない。王宮内の動きも速い。取り潰しは時間の問題だろう」
そう呟いたウェバルの目が、静かに俺たちを見据えた。
「君たちも……備えておくべきだ」
***
そして──その日は、突然訪れた。
学院の掲示板に、王国からの通達が貼り出されたのだ。
──ラグエンティ伯爵家、爵位剥奪及び断絶処分。
──当主、ユリージスは七色の虹を通った。
張り詰めた空気の中、ざわつく学生たち。
その場にいたククルの肩がわずかに震えた。七色の虹を通る、これはレイドで人が亡くなったを婉曲に表現するものだ。
「……あんなに、良くしてくださったのに……」
ククルの涙を、俺はそっと袖口で拭った。
「……ククル、大丈夫だ。俺がいる。絶対に、お前を守る」
「……うん……うん……」
震えながらも、ククルは俺の腕をぎゅっと抱き寄せた。
***
その夜、学院寮にウェバルが駆け込んできた。
「──ジム、ククル!」
俺たちは黙って頷く。
もう、決意はできていた。
「……ノイトラール共和国へ亡命します。受け入れていただけますか」
「もちろんだよ」
ウェバルは優しく笑った。
「……準備は整っている。今夜のうちに、学院から脱出しよう。落ち着くまでレイド王国の手が届かない方が良い」
こうして──
俺たちの第二の祖国が決まった。
ノイトラール共和国──混血の民の国。
俺たちの新たな未来が、そこから始まる。
だが、俺とククルの胸には重く冷たい不安が降り積もっていた。
最近、学院の中でも妙な噂が飛び交っていたのだ。
「ラグエンティ伯爵家が妙に静かだ」
「宰相派と聖女派の対立が再燃している」
「レイドとフェーゲではまた戦争準備の動きがあるらしい」
──レイド王国とフェーゲ王国の間で、大きな戦争が始まろうとしていた。
俺たちが今まで身を寄せてきたラグエンティ伯爵家も、その渦中にある。
そして──それは、ニコラウス商会を支える立場でもある。
***
「──ジム、ククル」
声をかけてきたのは、青いマントの青年──ウェバルだった。
学院の裏庭で俺たちを呼び止めると、珍しく真剣な顔をしていた。
「……良いかい?少し、率直な話をしよう」
ウェバルは周囲を見回してから静かに口を開く。
「情勢が、かなり危うくなってる。戦争は避けられない段階だ」
俺は無意識に拳を握った。
「……やっぱり、ですか」
「ラグエンティ伯爵家が聖女派として強く支えていたけど……今、その立場が危うくなってる。さらに──」
彼は声を潜める。
「──ニコラウス商会がフェーゲ王国の間者と繋がっていたと、明らかになったらしい」
ククルが小さく息を呑んだ。
それが事実なら──
ラグエンティ伯爵家は、間者に資金提供をしていたと見なされる。
国を裏切った大罪だ。
「……嘘、だろ……?」
「本当にそうなら、裁きは重くなる」
ウェバルは苦しげに眉を寄せた。
「伯爵家当主殿は、怪我で療養中のまま公の場に出ておられない。王宮内の動きも速い。取り潰しは時間の問題だろう」
そう呟いたウェバルの目が、静かに俺たちを見据えた。
「君たちも……備えておくべきだ」
***
そして──その日は、突然訪れた。
学院の掲示板に、王国からの通達が貼り出されたのだ。
──ラグエンティ伯爵家、爵位剥奪及び断絶処分。
──当主、ユリージスは七色の虹を通った。
張り詰めた空気の中、ざわつく学生たち。
その場にいたククルの肩がわずかに震えた。七色の虹を通る、これはレイドで人が亡くなったを婉曲に表現するものだ。
「……あんなに、良くしてくださったのに……」
ククルの涙を、俺はそっと袖口で拭った。
「……ククル、大丈夫だ。俺がいる。絶対に、お前を守る」
「……うん……うん……」
震えながらも、ククルは俺の腕をぎゅっと抱き寄せた。
***
その夜、学院寮にウェバルが駆け込んできた。
「──ジム、ククル!」
俺たちは黙って頷く。
もう、決意はできていた。
「……ノイトラール共和国へ亡命します。受け入れていただけますか」
「もちろんだよ」
ウェバルは優しく笑った。
「……準備は整っている。今夜のうちに、学院から脱出しよう。落ち着くまでレイド王国の手が届かない方が良い」
こうして──
俺たちの第二の祖国が決まった。
ノイトラール共和国──混血の民の国。
俺たちの新たな未来が、そこから始まる。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
砂の揺籠
哀川アルマ
ファンタジー
ハーブロート公爵家の愛人の子、レイラ・ハーブロート公爵令嬢は、典型的な我儘令嬢でどうしようもないと噂される。
義母も相当な放蕩な女で、苦労している姉のシローヌ・ハーブロート公爵令嬢に同情の声が寄せられ、ハーブロート公爵の名声は地に落ちつつあった。
王太子妃の開いたお茶会でも暴れるレイラだが…?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
初の投稿です。
楽しんでいただければ幸いです。
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる