悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません

3章 ヒロインとの出会い

④

数日後、修道院の庭で静かに本を読んでいると、修道女の一人が慌てた様子でやってきた。

「リリアナ様、大変です！またお客様がいらっしゃいました！」

「お客様？」

最近、修道院には何かと来訪者が多い。胸に嫌な予感を覚えつつ、私は立ち上がった。

案の定、門の前に立っていたのはルシアンだった。

「また、殿下……？」

彼はどこか険しい表情で私を見つめる。その目には、心配と何かしらの疑念が浮かんでいるようだった。

「リリアナ。君と最近会っている平民の少女について聞きたい。」

いきなりの質問に、私は思わず目を瞬かせた。

「エリーナのことですか？」

「そうだ。その少女は、一体何者なんだ？」

「何者と言われましても……ただの平民の娘ですわ。」

「君と彼女が会っているのを聞いて、少し気になる話を耳にした。」

「気になる話……？」

「彼女が君に影響を与えて、修道女を目指す理由に関係しているのではないか、と。」

「そんな……」

私は思わず笑ってしまった。エリーナは私に影響を与えたかもしれないが、彼女が原因で修道女を目指したわけではない。

「殿下、エリーナはそんな立場ではありません。彼女はただ、わたくしにとって少し特別な平民の友人になりつつあるだけです。」

しかし、その言葉がルシアンの表情をさらに険しくした。

「君が平民と特別な関係を築いていること自体が、危険だとは思わないのか？」

「危険……ですの？」

「君が平民と親しくすることで、君を取り巻く状況がさらに複雑になる可能性がある。エリーナという少女が君に近づいている理由が純粋なものだとしても、君の立場を考えれば、周囲はそう見ないかもしれない。」

「……殿下、わたくしの行動をそんな風に捉えないでください。」

「ならば、もっと慎重に振る舞ってほしい。」

ルシアンはため息をつきながら、私をまっすぐに見つめた。その目には、どこか苛立ちと焦りが混ざっているようだった。

彼が帰った後、今度はエドガーが訪ねてきた。

「姉さん、あの平民の娘って誰なんだ？」

また同じ話か、と内心苦笑しながらも、私は冷静に答えた。

「彼女はエリーナ・ベッカー。ただの平民ですわ。」

「ただの平民……ね。」

エドガーは少しだけ眉をひそめた。

「姉さん、あの娘に何か吹き込まれたんじゃないのか？」

「どうしてそうなるの？」

「だって、修道女になるって言い出した頃から、姉さんの周りで妙なことが増えてる。それに、そのエリーナって子が頻繁に来るようになった。」

「エリーナはわたくしに悪影響を与えるような子ではありません。」

「姉さんがそう言うなら信じるけど……僕には、あの子が姉さんを利用しているように見える。」

「エドガー……」

彼の真剣な顔を見ていると、言い返す気力が少しずつ失われていく。家族として心配してくれる気持ちはありがたいが、エリーナに対してこんな疑念を抱かれるのは心外だった。

「姉さんを守るためなら、僕は何だってする。」

その言葉に、私は少しだけ困惑した。

エドガーもルシアンも、エリーナのことを完全に誤解している。そして、その誤解が彼らの中で妙な方向に膨らんでいるようだった。

翌日、エリーナが修道院を訪れたとき、私は思い切って彼女にこの話を伝えてみた。

「エリーナ、少しお聞きしたいのですが……」

「はい、何でしょう？」

「殿下と弟が、あなたのことを勘違いしているようですの。」

「勘違い……？」

エリーナは困ったように首を傾げた。私は続ける。

「彼らは、あなたがわたくしに悪影響を与えているのではないかと考えているようです。」

その言葉に、エリーナは目を丸くした。

「そんな！私がそんなことをするなんて……」

「わたくしも、そう思います。だから安心してください。ですが……」

「ですが？」

「その誤解を解くためには、もう少しあなたのことを彼らに知ってもらう必要があるかもしれません。」

エリーナは少し考えた後、笑顔を見せた。

「わかりました！私、殿下や弟様にもお会いしてみたいです！」

その瞬間、私は軽い頭痛を覚えた。エリーナの善意がまた新たな誤解を生む気がしてならない。