悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません

3章 ヒロインとの出会い

③

翌朝、修道院の鐘が響く中、私はいつも通り中庭で祈りの時間を過ごしていた。エリーナと過ごした昨日の出来事が頭から離れない。あの純粋な笑顔、まっすぐな言葉――。

「頼られる存在でいてほしい、ですか……」

思わず呟いてしまう。彼女の言葉が、胸の奥に少しずつ根を下ろしているような気がしてならなかった。

そこへ、修道女の一人が近づいてきた。

「リリアナ様、少しよろしいでしょうか？」

「はい、どうされましたか？」

「昨日いらしたエリーナ様から、お手紙が届いております。」

驚きながら受け取った封筒には、彼女の可愛らしい字で私の名前が書かれていた。封を開くと、そこには彼女らしい前向きな言葉が綴られている。

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リリアナ様

昨日は本当にありがとうございました。お話しできて、とても嬉しかったです。

私にはまだわからないことがたくさんありますが、リリアナ様とお話しすることで、少しずつ未来が見えてきたような気がします。

次にお会いするときには、もっとたくさんのことを学んで、リリアナ様に胸を張ってお話しできるようになりたいです。

またお会いできる日を楽しみにしています。

エリーナより
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手紙を読み終えた私は、思わず微笑んでいた。彼女の真っ直ぐな言葉が、いつの間にか私の心に深く染み込んでいる。

「……わたくしも、変わらなくてはならないのかしら」

独り言を呟きながら手紙を机に置いたそのとき、またもや修道院の門からざわめきが聞こえた。何事かと外に出ると、そこには見慣れた顔があった。

「エドガー……？」

弟が立っていた。驚きと緊張が入り混じった表情で私を見つめている。

「姉さん、話がしたい。」

彼の真剣な様子に、私は軽く頷いた。どうやら逃れることはできそうにない。

中庭のベンチに並んで腰を下ろすと、エドガーはしばらく黙ったままだった。その様子に私も何を言えばいいのか分からず、静寂が二人の間を満たす。

「姉さん、どうしてここにいるんだ？」

ようやく口を開いた彼は、私をまっすぐに見つめていた。その目には、怒りとも悲しみともつかない感情が宿っている。

「どうしてって……平穏を求めて、よ。」

「嘘だ。」

その短い言葉に、私は思わず息を呑んだ。

「姉さんは、そんなことで逃げる人じゃない。僕が知ってる姉さんは、いつも堂々としてて、誰にも負けない強さを持ってる。」

「……それは昔のわたくしの話よ。」

「違う。姉さんは変わってない。ただ、自分で気づいてないだけだ。」

エドガーの言葉は真剣そのものだった。それが私の胸に深く刺さる。

「僕は、姉さんが修道女になるなんて耐えられない。」

「エドガー……」

「姉さんにはもっとできることがある。もっと多くの人を助けられるはずなんだ。」

彼の言葉は、昨日エリーナが言ったことと重なる。それが、私にどれほどの重みを持って響いているのか、彼は知る由もないだろう。

「……わたくしは、ただ穏やかに過ごしたかっただけよ。」

「本当にそれだけか？」

彼の問いに、私は言葉を詰まらせた。平穏を求めること。それだけを望んでいたはずなのに、彼やエリーナの言葉が、私の中に新たな疑問を生んでいる。

「姉さんが何を決めても、僕は応援する。でも、逃げる姉さんは見たくない。それだけは言っておく。」

そう言い残して立ち上がるエドガー。その背中を見つめながら、私は自分の胸に湧き上がる感情に戸惑っていた。

その夜、私は再びエリーナの手紙を読み返していた。

「頼られる存在……」

エリーナとエドガー。二人の言葉が、私の中で静かに響き合う。どちらも、私を否定するのではなく、背中を押してくれている。

「わたくしにも、できることがあるのかしら。」

呟いたその声は、夜の静けさの中に溶けていった。