悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません

藤原遊

文字の大きさ
18 / 34
5章 過去の陰謀

しおりを挟む
父との会話を終えた後、私はエリーナが待つ部屋へと戻った。彼女は窓辺で庭を眺めていたが、私の姿を見るなり、すぐに駆け寄ってきた。

「リリアナ様、大丈夫ですか?」

「ええ、少しだけ手がかりを掴みました。」

「本当ですか?」

私は小さく頷くと、父から聞いたオルフ公爵の話を簡潔に伝えた。

「父様も、オルフ公爵が危険な人物であることを認めています。ただ、具体的な証拠や詳細については話してくれませんでした。」

「それって……やっぱり危険なんじゃないですか?」

エリーナの顔に浮かんだ不安を前に、私は静かに言葉を続けた。

「そうね。でも、だからこそ調べる価値があるのよ。」

「でも、どうやって調べるんですか?」

その問いに、私はしばらく考え込んだ。修道院にいた頃から感じていた違和感や、社交界に戻ったときの噂。それらの断片を繋ぎ合わせるように思考を巡らせる。

「……社交界の情報が必要ね。」

「社交界?」

「ええ。噂の中に真実の糸口が紛れていることが多いわ。わたくしが戻ってきたことを聞いて、誰かが何かを漏らすかもしれない。」

「それって、すごく大胆な計画ですね……」

エリーナは少し戸惑いながらも、私の目を見つめる。その目には、私を支える覚悟が宿っていた。

「でも、リリアナ様が行くなら、私も一緒です!」

「ありがとう、エリーナ。心強いわ。」

数日後、私はエリーナを伴い、ヴァレンシュタイン家の招待状を手に、ある貴族の邸宅を訪れた。そこで開催される夜会は、社交界の情報が集まる場として最適だった。

会場に到着すると、華やかな衣装を纏った貴族たちが談笑する声が響いていた。私は久しぶりに見るこの光景に、胸の奥で微かな懐かしさと緊張を感じていた。

「リリアナ様、何か手がかりを見つけられるといいですね。」

「ええ。ただし、周囲には気をつけて。誰が敵で誰が味方か、まだ分からないわ。」

エリーナと一緒に会場を歩き回るうちに、ふと耳に入ってきた名前があった。

「……オルフ公爵、最近また何か裏で動いているらしい。」

「本当か?あの男、表向きは善人の顔をしているが、裏では何をしているか分からないと噂だ。」

「ええ、特に最近、ある貴族の家が突然没落した件にも彼が関与しているとか……」

その言葉に、私は耳を澄ませた。噂の詳細を聞き取ることはできなかったが、少なくともオルフ公爵がまだ何かを企んでいるのは明らかだ。

「リリアナ様、どうされました?」

エリーナが小声で問いかける。私は小さく首を振り、耳にした言葉を彼女に伝えた。

「やはり、オルフ公爵はまだ動いている。裏で何かを企んでいるのは確実よ。」

「それを止める方法は……?」

「まずは、彼の近くにいる人物に接触する必要があるわ。」

私がそう言った直後、会場の隅で誰かがこちらを見ている視線を感じた。振り返ると、そこに立っていたのは一人の青年――以前社交界で何度か見かけた顔だった。

「……彼、確か公爵の秘書だったはず。」

「本当ですか?」

「ええ。彼を追ってみましょう。」

私はエリーナを連れてその青年に近づいた。彼が私に気づくと、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑みを作った。

「お久しぶりです、リリアナ様。」

「お久しぶりです、アラン。」

名前を呼ぶと、彼は少しだけ表情を緩めた。だが、その目は警戒を解いていない。

「わたくしに少し時間をいただけますか?お話ししたいことがあるのですが。」

「もちろんです。」

私たちは会場の隅へと移動し、短い挨拶を交わした後、本題に入った。

「オルフ公爵について、何か知っていることはありませんか?」

その質問に、アランは明らかに動揺した。彼は一瞬視線を彷徨わせたが、すぐに冷静を装って答えた。

「どうしてそのようなことをお尋ねになるのですか?」

「ただ、少し気になることがありまして。」

アランは沈黙したまま、しばらく考え込んでいた。そして、ようやく口を開いた。

「……今はここで話すべきではないかもしれません。」

「それでは、後日お話しいただけますか?」

「分かりました。場所を指定していただければ伺います。」

私は彼に日時と場所を告げ、話を終えた。彼が何を知っているのかは分からないが、これが新たな手がかりになることを期待していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

処理中です...