悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません

5章 過去の陰謀

①

夜の修道院は静寂に包まれていた。私は机に向かい、手紙をじっと見つめていた。

「貴女の行動は波紋を呼び起こしている。平穏を望むならば、これ以上真実を追求しないことです。」

書かれている言葉はどこかぞっとするものだったが、それ以上に、この手紙に隠された意図を見抜きたいという気持ちが強かった。

「これは……あの陰謀の続き……？」

記憶の奥底でぼんやりと浮かんでくる名前――オルフ公爵。処刑される直前、彼の名前を耳にしたことを思い出す。彼の存在が再び私の前に現れるということは、過去と現在の陰謀が繋がっている可能性がある。

翌朝、修道院の中庭で、私はエリーナにその考えを打ち明けた。

「リリアナ様、大丈夫ですか？顔色が少し悪いような……」

エリーナが心配そうに声をかけてきた。私は少し間を置いてから口を開いた。

「エリーナ、実は……わたくし、調べたいことがあります。」

「調べたいこと？」

「ええ。過去の記憶を手繰り寄せるような出来事がありました。オルフ公爵という人物が、わたくしにとって重要な鍵を握っているのかもしれません。」

「オルフ公爵……？」

エリーナは首を傾げ、真剣に考え込んだ。

「私、社交界でその名前を聞いたことがあります。少し怖い噂を聞いたこともありますけど……」

「怖い噂？」

「ええ……彼はいつも影で誰かを操っているとか。表向きは善人でも、裏では何をしているか分からないって。」

エリーナの言葉に、私は確信を強める。

「その噂が真実であれば、わたくしが調べていることと繋がっているかもしれません。」

「どうやって調べるんですか？」

エリーナが少し不安そうに尋ねる。私は静かに答えた。

「修道院を出て、実家に戻り、家族に話を聞きます。」

その言葉に、エリーナは驚いた表情を浮かべた。

「リリアナ様、修道院を出るなんて……危険じゃありませんか？」

「危険かもしれません。でも、ここにいるだけでは何も解決できないわ。」

「なら、私もお供します！」

エリーナの決意に満ちた瞳が私を見つめている。その強さに、私は少しだけ微笑んだ。

「ありがとう、エリーナ。あなたがいてくれると心強いわ。」

修道院を後にした馬車の中で、私は再び不安を覚え始めていた。家族にこの話をどう伝えるべきなのか、そして彼らがそれをどう受け止めるのか。未来を変えようとする私の行動が、どんな波紋を生むのか全く分からなかった。

ヴァレンシュタイン家に到着すると、玄関には父が立っていた。彼は私を見つけると、眉間に深い皺を寄せた。

「リリアナ、突然どうしたんだ？」

「少し話したいことがありまして……お時間をいただけますか？」

私の隣に立つエリーナに目をやった父は、ほんの少し驚いたようだったが、すぐに頷いた。

「わかった。書斎に来なさい。」

父の書斎に通されると、私はその場に立つエリーナを見て、彼女に軽く目で合図を送った。

「エリーナ、少し待っていてくださる？」

「分かりました。でも、無理はしないでくださいね。」

エリーナが扉を閉めた後、父は椅子に腰を下ろし、真剣な目で私を見つめた。

「さて、話というのは何だ？」

「父様……わたくし、オルフ公爵について調べたいのです。」

その名前を聞いた瞬間、父の顔に険しい影が落ちた。

「なぜまた、そんな名前を？」

「……少し気になることがありまして。」

過去に何があったかを口にするわけにはいかない。それでも私は、なるべく自然に話を進めることを心がけた。

「オルフ公爵は、過去にヴァレンシュタイン家とも接触があったのではないでしょうか？」

「確かに、彼は社交界でも影響力を持つ人物だ。だが、なぜお前が彼に興味を持つ？」

「……なんと言えばいいのか分かりませんが、彼がわたくしの周りで何かを企んでいるような気がしてならないのです。」

父はしばらく黙り込んだが、やがて重い声で口を開いた。

「リリアナ、オルフ公爵には決して近づくな。」

その言葉に、私は思わず息を呑んだ。

「父様、それは……」

「彼は表向きは善人だが、裏では何をしているか分からない男だ。ヴァレンシュタイン家も一度彼の策略に巻き込まれたことがある。……それ以上は話せない。」

父の言葉が私の胸に突き刺さる。これ以上話せない――その裏に隠された真実が、私をさらに追い立てる。

「分かりました。でも、これ以上放置するわけにはいきません。」

父は私の目をじっと見つめ、ため息をついた。

「リリアナ、お前の好きなようにするがいい。ただし、気をつけろ。オルフ公爵のことを追えば、お前が狙われるかもしれない。」

「ありがとうございます、父様。」

私は頭を下げると、部屋を後にした。その瞬間、自分の胸に新たな決意が芽生えていた。