終わったらバカンスに行くんだ!〜幻想に終わる社畜の夢〜

藤原遊

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昼休憩は幻想

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「お昼休憩? そんなものはなかった」

AM 8:50 — 余裕のある朝

「今日は穏やかですね」

デスクに座りながら、社谷チカは珍しく平和な朝を感じていた。パソコンを立ち上げても未読メールは少なく、本社からの**「急ぎでお願いします!」**もない。

(このまま順調にいけば、今日はちゃんと昼休憩が取れるかも……)

そんな淡い期待を抱きながら、チカは業務を開始した。

AM 10:15 — 予想外のタスク

「チカ、すまん!」

突然、鬼島リョウがバタバタとした足音とともに現れる。その手には大量の書類。

「……まさかまた本社ですか?」
「ああ。本社が『これ、そっちでチェックした方が早いでしょ?』って」
「いや、チェックする時間があるかどうかは別問題じゃないですか?」
「本社はいつだって現場のことなんか考えない」

書類を手に取ると、どう見ても午前中では終わらない分量だ。だが、「できません」とは言えない環境がここにはある。

(まあ……午後に回してもいいか。お昼休憩は取るぞ、今日は……!)

そう思いながら、ひとまず午前の業務を進めた。

PM 12:05 — 昼休憩(予定)

「よし、終わった! 鬼島さん、お昼行きますか?」

時計を見ると12時を回ったところ。いいタイミングだ。チカは立ち上がろうとした——その瞬間、鬼島の携帯が鳴った。

📞 「あ、はい。今すぐ対応します」

嫌な予感しかしない。鬼島は電話を切り、深くため息をついた。

「チカ、悪い」
「言わないでください。わかってます」
「……本社が『今すぐ確認してほしい案件がある』って」
「昼休憩は?」
「本社にその概念はない」

昼休憩は、一瞬の希望を見せた後、跡形もなく消えた。

PM 2:30 — 忘れられた昼食

「……お腹空きません?」

ふと、チカがつぶやく。すでに昼休憩のことなど意識する余裕もなく、次々と届くタスクをこなしていた。

「空いたところで、手が止まるわけじゃないからな」
「鬼島さん、食べてないですよね?」
「昔からな、昼を食べるという行為自体、忘れるんだよ」
「もう人間じゃないですよ、それ」

自分のデスクに置かれたままの弁当を見ながら、チカは思う。

(食べるタイミングを逃しすぎた……これ、もう夕飯にするか……?)

PM 6:00 — 遠い昼休憩

ようやく一段落つき、チカは深く息を吐いた。

「……昼休憩、取れませんでしたね」
「まぁ、毎度のことだ」
「せめてコンビニで何か買ってきます?」
「ああ、いいな。俺、コーヒーだけで一日乗り切れそうだった」
「もう人間じゃないですよ、それ(二回目)」

昼休憩とは、存在するが、実在しない概念なのだ。

そう実感しながら、チカと鬼島はオフィスを出た。

—— なお、その日の夕飯はコンビニのおにぎりで終わった。

終わり(昼休憩は幻想)
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