終わったらバカンスに行くんだ!〜幻想に終わる社畜の夢〜

藤原遊

文字の大きさ
7 / 23

無限修正ループ

しおりを挟む
「無限修正ループ」

AM 10:00 — 初稿提出

「チカ、この案件、午前中にクライアントへ提出しておいてくれ」

鬼島リョウがそう言ってきたのは、朝のバタバタが落ち着いた直後だった。
チカは、準備していた広告のビジュアルとキャッチコピーを最終確認し、クライアントに送信した。

件名:「広告案のご確認」
本文:「ご確認のほど、よろしくお願いいたします」

(ふぅ……これでしばらく別の仕事に集中できるな)

そう思ったのも束の間——

📩 【クライアントからの返信】

チカがコーヒーを一口飲む前に、クライアントからの返信が返ってきた。

📩 「全体的に悪くはないんですが……もう少しオシャレにしてください!」

「……おしゃれって、どういうこと?」

鬼島のデスクに駆け寄り、メールを共有する。
鬼島は画面をチラッと見て、無表情のまま言った。

「とりあえず、何かしら変えて送り返せばOKだ」
「何かしらって……?」
「“オシャレ”の定義はクライアントの気分次第だ」
「……つまり、具体的な指示がないまま修正するってことですね?」
「そういうことだ」

(地獄が始まった……)

PM 12:00 — 修正1回目

「フォントを変えて、レイアウトを少し洗練させました!」

修正後のデータを送信し、ランチに行こうとした——その瞬間。

📩 【クライアントからの返信】

📩 「ちょっとポップすぎますね! もう少し落ち着いた雰囲気でお願いします!」

「……えっ?」

「フォントとレイアウト変えたら、ポップになりすぎたって言われました」
「つまり、また直せってことだな」

鬼島はコーヒーを飲みながら、淡々と言い放つ。
チカは、空腹を抱えながら再びデザインを修正する。

PM 3:00 — 修正5回目

📩 「文字をもう少し強調してほしいです!」
📩 「今度はシンプルすぎるので、もう少し華やかに!」
📩 「ここの色味が微妙なので、カラーバリエーションを3案ください!」

「……これ、一回目に近づいてません?」

修正を重ねるたびに、結局、最初のデザインに戻りつつある。

「このまま行けば、最終的に『やっぱり最初のが良かったです!』って言われるぞ」

鬼島の言葉に、チカは震えた。
だが、ここまで来たらもう後には引けない。

PM 6:00 — 修正10回目

📩 【クライアントからの返信】

📩 「やっぱり、最初の案が一番良かったので、それで進めましょう!」

チカの脳内で、何かが弾けた。

「最初ので良かったなら……なぜこの修正地獄を通らせた!?」

「こういうことは、よくある」
「よくあるんですか……!?」

鬼島は疲れた目をしながら、PCの電源を落とした。

「“修正”とは、“変更”ではなく、“確認作業”なんだ」
「確認のために10回も修正する意味って……?」
「クライアントが“満足する”ことに意味がある」

「……仕事って、なんなんですかね?」

— 終わり(そして、また次の修正がやってくる)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...