処刑を望んだ悪役令嬢ですが、幼なじみの騎士が手放してくれません

藤原遊

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第1章 悪役令嬢の自覚

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辺境伯領に入ったのは、旅も半ばを過ぎた頃だった。
馬車の窓外には、王都では見られない濃い緑が広がっている。どこまでも伸びる大地、風に揺れる草花、そして――遠くに見える、黒々とした森。

(……あれが、“最果ての森”)

噂に聞いた場所。
設定集で読んでいた。「悪役令嬢アメリア」が魔族と接触し、破滅の運命を背負うきっかけとなった地。
実際にその影を目にした瞬間、胸が妙にざわついた。

「アメリア。遠くに行っては駄目よ」
隣でお母様――イリーナが優しくも厳しい声をかけてくる。
「はい、お母様」と答えながら、私は笑みを貼り付けた。

馬たちが水を飲むために止まった小川のほとり。
人々が少し離れた場所で休憩している隙に、私はそっと足を動かした。ほんの少し、ほんの覗き込むだけ――そう自分に言い訳しながら。

森の入り口に差しかかると、空気がひどく冷たく感じられた。
そして、視線の先に――それはいた。

血塗れの姿。白銀とも黒ともつかぬ髪、透き通るような異形の美貌。
人ならざる存在――魔族。
彼は今にも力尽きそうな様子で、地に片膝をつきながら、ゆるやかにこちらへ手を伸ばした。

(……これが、私を“悪役”にするきっかけ)

わかっていた。そうでなければ、この物語は動かない。
私は“悪役令嬢”でなければならない。私が破滅へ向かわなければ、この世界は救われない。

脳裏に浮かぶのは、優しい家族の姿だった。
いつも笑って抱きしめてくれるお母様。
誰よりも真っ直ぐに接してくれる父。
両親に瓜二つな弟、エドワードの無邪気な笑顔。

(……大切だから。守りたいから。だから私は――)

ゆっくりと差し伸べられた魔族の手を、受け入れた。

次の瞬間、冷たいものが胸の奥へと滑り込んでくる。
声もなく息を詰めた。焼け付くような熱と氷のような冷たさが同時に広がり、心臓を貫いた。
目を見開いたまま、ただ立ち尽くす。

魔族は――ふっと微笑んだ気がした。
そして霧のように掻き消え、そこにはもう誰もいなかった。

「アメリア?」
振り返れば、お母様の声。
驚いて瞬きをし、私は慌てて馬車の方へ歩き出す。

「はい、今行きます」

胸の奥にまだ冷たい痕跡を抱えながら。
誰にも知られぬまま、私は元の場所へと戻っていった。
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