処刑を望んだ悪役令嬢ですが、幼なじみの騎士が手放してくれません

藤原遊

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第1章 悪役令嬢の自覚

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辺境伯領に入り、あと少しで城なのだとお母様が言ってしばらくして、それは起こった。

馬車の車輪が軋んだと思った瞬間、耳をつんざく咆哮が響いた。
護衛の騎士が慌ただしく剣を抜く――が、迫り来る魔物の群れはその数を遥かに上回っていた。

「アメリア! 下がりなさい!」

お母様の声。けれど、揺れる馬車の中では体が思うように動かない。
次の瞬間、馬が怯え、車体が大きく傾いた。車輪が外れ、石畳を削りながら馬車は横倒しになる。

(――死ぬかも)

そんな直感が胸を貫いた。
それでも、私の体は自然と動いていた。崩れた座席の中で、お母様の身体を覆うように庇う。
目の前に迫る牙。魔物の影が振り下ろされる刹那――。

鋭い閃光が夜闇を裂いた。
轟音と共に魔物の巨体が弾き飛ばされる。立ち上がった影が、次々と迫る魔物を切り伏せていった。
剣筋は正確無比、容赦なく、流れるように。あまりに速く、気がつけば周囲には魔物の死骸だけが残されていた。

息を呑む。
そこに立っていたのは――黒髪、青い瞳の青年。
剣を手に、冷ややかで鋭い眼差しを向けながらも、こちらに視線を落としたその姿。

(……ルシアン様)

噂で幾度も耳にした、グラシア辺境伯家の嫡男。
母のかつての想い人にして、聖女エリシアの夫。

そして――。
その色。黒髪に、深い青の瞳。

(これは……確かに、疑われるわね)

自分の相貌がお母様に似ていることは自覚している。けれど色彩だけを見れば、目の前の青年と同じ系譜にしか見えない。
そのことを悟った瞬間、背筋に冷たいものが走った。

ルシアン様もまた、わずかに目を見開いていた。
その視線が私の顔を確かめるように一瞬止まったことを、私は見逃さなかった。
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