処刑を望んだ悪役令嬢ですが、幼なじみの騎士が手放してくれません

藤原遊

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第1章 悪役令嬢の自覚

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今日、私は王都を離れる。
母イリーナに連れられて、グラシア辺境伯領へ向かうのだ。表向きの理由は簡単――母の親友である辺境伯家のエリシア様に挨拶するため。

けれど、心の奥には別の囁きがこびりついている。

「アメリア様の本当の父は、辺境伯家の方だそうよ」
「母上の元恋人で、今は“聖女”エリシア様の夫になられた次期辺境伯、ルシアン様だとか」

心無い噂の断片が、頭の中で勝手に繋がっていく。

黒髪に青い瞳の美丈夫――まるで自分の姿をそのまま大人にしたような人物の名が、胸の奥で冷たく響く。

(……母の元恋人。噂に過ぎないとわかっている。けれど、侯爵家で唯一色の違う私が、辺境伯家の血筋だと囁かれてしまうのも無理はないのかもしれない)

だから、今日の旅は複雑なものだった。
母に微笑みかけられても、素直に頷けない。

馬車に揺られ、窓外の景色が王都から徐々に緑に変わっていく。
母イリーナは隣で穏やかに座っている。淡い金茶の髪が光を受け、優しく揺れる。その横顔を見ると、胸の奥でわずかに痛むものがあった。

(母は何を思っているのだろう。辺境伯領に行くこと、かつての想い人に会うこと、私を伴うこと――)

わからない。
でも、わからないからこそ、私はいつも通りの笑顔を貼り付けた。

「長旅になりますわね、お母様」
「そうね。でも、あの方ならきっと喜んで迎えてくださるわ。辺境は少し空気が違うから、アメリアにも良い刺激になるでしょう」

母の言葉は柔らかい。
その柔らかさに触れるたび、心の奥に沈んだ棘がちくりと疼いた。

(――この旅の先に、私の“筋書き”は変わるのかしら。原作のアメリアはここでどうしていた? 最果ての森に踏み入ったのは、いつ?)

知らない未来のページが、目の前でめくられていくような感覚。
それでも私は、何事もない顔で馬車の窓越しに流れる景色を見つめ続けた。
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