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第4章 危うい日々
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戦闘訓練の日。
王都の学園では珍しい魔物相手の授業――もっとも、辺境伯領に比べれば取るに足らないほど弱い個体だ。
「この程度なら、訓練用にちょうど良いだろう」
教師がそう説明し、魔道具に封じられた小型魔物が放たれる。
もちろん、辺境伯領出身の者たちは参加を禁じられていた。
「彼らにとっては訓練にならないし、すぐ討伐してしまうからな」との理由だ。
だからユリウスとエリアスは見学席にいる。
私は、王都の貴族令嬢。例外ではない。
渡された小さな防御用の魔道具を手に、構えを取る……はずだった。
(……ああ、そういえば。あのときの“魔族”、結局なにもしてこないな)
胸の奥に潜む存在を思い出し、ぼんやりと意識が逸れる。
次の瞬間。
「危ない!」
教師の声と、魔物の爪が同時に迫った。
慌てて起動すべき魔道具は、まだ私の掌で沈黙している。
(……あ、やっぱり、ここで――)
その瞬間、透明な壁が目の前に現れた。
鋭い爪は触れることなく弾かれ、魔物が後方へと跳ね返る。
結界。
私を護るように展開したそれは、見覚えのある気配を持っていた。
「……ユリウス様」
視線を上げると、観覧席からこちらを睨むように見つめる銀髪の青年がいた。
緑の瞳には怒りと、焦りと、何より――私への強い執着が宿っている。
胸が詰まる。
助けられたのに、心臓が軋むように痛む。
「……また、私……」
呟きは誰にも届かない。
王都の授業で、ただ身を守るだけの訓練すら、私はまともに果たせなかった。
ユリウスの結界に護られながら、私は自分自身の無防備さを思い知らされていた。
王都の学園では珍しい魔物相手の授業――もっとも、辺境伯領に比べれば取るに足らないほど弱い個体だ。
「この程度なら、訓練用にちょうど良いだろう」
教師がそう説明し、魔道具に封じられた小型魔物が放たれる。
もちろん、辺境伯領出身の者たちは参加を禁じられていた。
「彼らにとっては訓練にならないし、すぐ討伐してしまうからな」との理由だ。
だからユリウスとエリアスは見学席にいる。
私は、王都の貴族令嬢。例外ではない。
渡された小さな防御用の魔道具を手に、構えを取る……はずだった。
(……ああ、そういえば。あのときの“魔族”、結局なにもしてこないな)
胸の奥に潜む存在を思い出し、ぼんやりと意識が逸れる。
次の瞬間。
「危ない!」
教師の声と、魔物の爪が同時に迫った。
慌てて起動すべき魔道具は、まだ私の掌で沈黙している。
(……あ、やっぱり、ここで――)
その瞬間、透明な壁が目の前に現れた。
鋭い爪は触れることなく弾かれ、魔物が後方へと跳ね返る。
結界。
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「……ユリウス様」
視線を上げると、観覧席からこちらを睨むように見つめる銀髪の青年がいた。
緑の瞳には怒りと、焦りと、何より――私への強い執着が宿っている。
胸が詰まる。
助けられたのに、心臓が軋むように痛む。
「……また、私……」
呟きは誰にも届かない。
王都の授業で、ただ身を守るだけの訓練すら、私はまともに果たせなかった。
ユリウスの結界に護られながら、私は自分自身の無防備さを思い知らされていた。
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