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双子の冒険
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翌日、蓮は学校の昼休みに図書室へ足を運んでいた。101号室の鍵を受け取ってから、どこか落ち着かない気持ちが続いている。何の変哲もない古びた鍵のはずなのに、陽介の言葉が妙に引っかかっていた。
「何が起きても、お前自身の剣を信じろよ。」
意味深な一言。それに、彼の目の奥に一瞬だけ浮かんだ、あの妙な表情。
蓮は図書室の隅に座り、スマートフォンで「101号室の鍵」と検索してみた。当然、そんなピンポイントな情報が出てくるはずもない。次に、「101号室」と「ホテル」を組み合わせて検索する。すると、一つのリンクが目に留まった。
『○○ホテル 廃墟』
蓮は無意識に息を呑んだ。
リンクをタップすると、都市伝説や心霊スポットを紹介するブログが開かれた。記事には、山奥にある廃ホテルの写真が載っている。天井は崩れ、壁には黒い染みが広がり、窓ガラスはほとんど割れていた。
「かつては観光地として栄えたが、数十年前に営業を停止。以来、放置され続け、現在は地元でも近づく者はいない。特に101号室にまつわる噂が多く、幽霊や奇妙な現象が報告されているが、詳細は不明。」
101号室。
蓮は思わずポケットの中の鍵を握りしめた。まさか、陽介が言っていた「冒険」って、このことなのか?
その時、突然、背後から覗き込むような視線を感じた。
「兄さん、何してんの?」
驚いて振り向くと、そこには空が立っていた。
「うわっ!……お前、いきなり覗くなよ。」
「いやいや、何か面白そうなこと調べてるっぽいからさ。」
空はニヤリと笑い、蓮のスマホを覗き込む。
「へえ、廃ホテル?心霊スポット巡りでもするつもり?」
「いや、そういうわけじゃ……。」
言葉を濁す蓮の目が、思わず手元の鍵へと向いた。空はそれを見逃さなかった。
「ん?もしかして、それ……陽介先輩にもらった鍵?」
蓮は黙って頷いた。
「……もしかして、このホテルの鍵だったりする?」
蓮は否定しようとしたが、そう言われると、確かめるまではっきりしたことが言えない。
「だったら、見に行けばいいじゃん。」
空が軽い調子で言った。
「え?」
「だって気になるんでしょ?兄さんがこんなに調べてるなんて、めちゃくちゃ珍しいし。」
「いや、だからって実際に行くのは……。」
「いいじゃん、暇だし。週末、ちょっと行ってみようぜ。」
空の軽薄な態度に、蓮は苛立ちを覚えた。
「お前、何でも軽く考えるなよ。ただの廃墟かもしれないけど、危険な場所かもしれないんだぞ。」
「分かってるって。兄さんがそんなに怖がるなら、俺が先に行ってあげようか?」
空はふざけたように笑うが、その無邪気さがどこか不安を掻き立てた。
「……分かった。ただし、絶対に無茶はするなよ。」
蓮はため息をつきながらそう言った。
「よし決まり!じゃあ週末、廃ホテル探検だな!」
空は楽しげに笑ったが、蓮はどうしても胸騒ぎが止まらなかった。
週末、二人は自転車を走らせ、廃ホテルへと向かった。
道中は晴天で、穏やかな風が吹いていた。二人は他愛のない話をしながら、自転車のペダルを漕ぐ。
「なあ、兄さん、マジで怖がってる?」
「別に怖がってねえよ。ただ、無駄に騒がしくするなよ。」
「おっけーおっけー。」
空は陽気に笑い、軽くハンドルを切る。
しばらくして、山道に入ると、空気がひんやりと冷たくなった。辺りは木々が生い茂り、木漏れ日が揺れている。
そして、道の先に――それはあった。
古びた看板が傾きかけ、建物の一部が森の中に溶け込むように佇んでいる。
「……ここか。」
蓮は思わず息を呑んだ。
空が自転車を降り、ホテルの正面へと近づく。
「うわー、思ったよりボロいな……。」
ホテルの入口は壊れた回転扉が歪んでいて、中の様子はよく見えない。
蓮は、再びポケットの鍵を握りしめた。
「これで……本当に開くのか?」
試しに鍵を回してみる。
カチリ。
音が響くと同時に、蓮の背筋に寒気が走った。
「……開いた?」
空が驚いたように覗き込む。
重い音を立てて扉がゆっくりと開く。
薄暗いホテルの中に、一歩足を踏み入れた瞬間――空気が変わった。
まるで、誰かに見られているような感覚。
外の晴天とはまるで違う、冷たく、湿った空間。
「……なあ、兄さん。」
空の声が妙に小さく聞こえる。
「ここ……本当に入るの?」
蓮は喉を鳴らしながら、静かに頷いた。
「ここまで来たんだ。確かめるしかない。」
二人は互いに顔を見合わせる。
そして、一歩。
闇の奥へと足を踏み入れた。
「何が起きても、お前自身の剣を信じろよ。」
意味深な一言。それに、彼の目の奥に一瞬だけ浮かんだ、あの妙な表情。
蓮は図書室の隅に座り、スマートフォンで「101号室の鍵」と検索してみた。当然、そんなピンポイントな情報が出てくるはずもない。次に、「101号室」と「ホテル」を組み合わせて検索する。すると、一つのリンクが目に留まった。
『○○ホテル 廃墟』
蓮は無意識に息を呑んだ。
リンクをタップすると、都市伝説や心霊スポットを紹介するブログが開かれた。記事には、山奥にある廃ホテルの写真が載っている。天井は崩れ、壁には黒い染みが広がり、窓ガラスはほとんど割れていた。
「かつては観光地として栄えたが、数十年前に営業を停止。以来、放置され続け、現在は地元でも近づく者はいない。特に101号室にまつわる噂が多く、幽霊や奇妙な現象が報告されているが、詳細は不明。」
101号室。
蓮は思わずポケットの中の鍵を握りしめた。まさか、陽介が言っていた「冒険」って、このことなのか?
その時、突然、背後から覗き込むような視線を感じた。
「兄さん、何してんの?」
驚いて振り向くと、そこには空が立っていた。
「うわっ!……お前、いきなり覗くなよ。」
「いやいや、何か面白そうなこと調べてるっぽいからさ。」
空はニヤリと笑い、蓮のスマホを覗き込む。
「へえ、廃ホテル?心霊スポット巡りでもするつもり?」
「いや、そういうわけじゃ……。」
言葉を濁す蓮の目が、思わず手元の鍵へと向いた。空はそれを見逃さなかった。
「ん?もしかして、それ……陽介先輩にもらった鍵?」
蓮は黙って頷いた。
「……もしかして、このホテルの鍵だったりする?」
蓮は否定しようとしたが、そう言われると、確かめるまではっきりしたことが言えない。
「だったら、見に行けばいいじゃん。」
空が軽い調子で言った。
「え?」
「だって気になるんでしょ?兄さんがこんなに調べてるなんて、めちゃくちゃ珍しいし。」
「いや、だからって実際に行くのは……。」
「いいじゃん、暇だし。週末、ちょっと行ってみようぜ。」
空の軽薄な態度に、蓮は苛立ちを覚えた。
「お前、何でも軽く考えるなよ。ただの廃墟かもしれないけど、危険な場所かもしれないんだぞ。」
「分かってるって。兄さんがそんなに怖がるなら、俺が先に行ってあげようか?」
空はふざけたように笑うが、その無邪気さがどこか不安を掻き立てた。
「……分かった。ただし、絶対に無茶はするなよ。」
蓮はため息をつきながらそう言った。
「よし決まり!じゃあ週末、廃ホテル探検だな!」
空は楽しげに笑ったが、蓮はどうしても胸騒ぎが止まらなかった。
週末、二人は自転車を走らせ、廃ホテルへと向かった。
道中は晴天で、穏やかな風が吹いていた。二人は他愛のない話をしながら、自転車のペダルを漕ぐ。
「なあ、兄さん、マジで怖がってる?」
「別に怖がってねえよ。ただ、無駄に騒がしくするなよ。」
「おっけーおっけー。」
空は陽気に笑い、軽くハンドルを切る。
しばらくして、山道に入ると、空気がひんやりと冷たくなった。辺りは木々が生い茂り、木漏れ日が揺れている。
そして、道の先に――それはあった。
古びた看板が傾きかけ、建物の一部が森の中に溶け込むように佇んでいる。
「……ここか。」
蓮は思わず息を呑んだ。
空が自転車を降り、ホテルの正面へと近づく。
「うわー、思ったよりボロいな……。」
ホテルの入口は壊れた回転扉が歪んでいて、中の様子はよく見えない。
蓮は、再びポケットの鍵を握りしめた。
「これで……本当に開くのか?」
試しに鍵を回してみる。
カチリ。
音が響くと同時に、蓮の背筋に寒気が走った。
「……開いた?」
空が驚いたように覗き込む。
重い音を立てて扉がゆっくりと開く。
薄暗いホテルの中に、一歩足を踏み入れた瞬間――空気が変わった。
まるで、誰かに見られているような感覚。
外の晴天とはまるで違う、冷たく、湿った空間。
「……なあ、兄さん。」
空の声が妙に小さく聞こえる。
「ここ……本当に入るの?」
蓮は喉を鳴らしながら、静かに頷いた。
「ここまで来たんだ。確かめるしかない。」
二人は互いに顔を見合わせる。
そして、一歩。
闇の奥へと足を踏み入れた。
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