101号室の鍵

藤原遊

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双子の冒険

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重い扉がゆっくりと開くと、冷たい空気が二人を包み込んだ。外の明るさとは対照的に、ホテルの内部は薄暗く、埃っぽい匂いが漂っている。壁紙は剥がれ落ち、床には砕けたガラスや崩れた天井の破片が散らばっていた。

「……思ったよりボロボロだな。」
空が鼻をすすりながら呟く。

「まあ、廃墟だからな。」
蓮は慎重に一歩踏み出し、周囲を見渡した。

エントランスロビーらしき広間は、かつては豪華だったと思わせる作りだった。朽ちたフロントデスクの奥には古い棚があり、鍵のかかったボックスが並んでいる。壁の一部には、色褪せた宿泊者向けの案内が残っていた。

「こっち、受付だったのかな。」
空がフロントカウンターの裏に回り、埃を払いながら覗き込む。

蓮は鍵をポケットから取り出し、手の中で転がした。これが、このホテルの「101号室」の鍵であるならば、その部屋がどこにあるのか確かめなければならない。

「101号室の場所を探すぞ。」

蓮の言葉に、空は肩をすくめた。

「はいはい、兄さんは真面目だなあ。」

軽い調子で言いながらも、空の目は周囲を警戒している。

「フロントに案内図とかないかな?」

「……あった。」

蓮が埃まみれの壁に貼られた古びたフロアマップを見つける。指でなぞると、ホテルは三階建てで、101号室は一階の奥にあるらしい。

「こっちだな。」

蓮が先導し、二人はロビーを抜けて廊下へと進んだ。

廊下は薄暗く、窓から差し込む光もほとんど届かない。壁には古びた絵画が飾られているが、そのほとんどが煤けていて、どんな絵だったのかすら判別できない。床を踏むたびに軋む音が響き、静寂の中で不気味にこだました。

「……なんか、思ったより広いな。」
空が小声で呟いた。

「そうだな。昔はそれなりに立派なホテルだったんだろう。」

二人は慎重に歩を進める。

「でもさ、やっぱりおかしくない?」

「何が?」

「ほら、ここ、廃墟になってどれくらい経ってるか知らないけど、こんなに静かすぎるのって変じゃない?」

蓮はふと足を止めた。

言われてみれば、確かにそうだ。

通常、こういった廃墟には風の音や、どこかから崩れ落ちる物音が響くはずだ。しかし、このホテルの中は異様なほど静まり返っている。まるで、何かに包み込まれているような……そんな感覚。

「……気のせいだろ。」

自分に言い聞かせるように呟き、再び歩き出そうとしたときだった。

カタン。

小さな物音がした。

二人は同時に息を飲む。

音のした方を見るが、そこにはただ廊下が続いているだけだった。

「今の……何?」

「……分からない。」

蓮は警戒しながら歩を進める。

空も真剣な表情になり、いつもの軽い口調は消えていた。

廊下の奥へ進むにつれ、空気が徐々に重くなっていくのを感じる。何かが張り付くような、まとわりつくような感覚。それは、肉眼では見えない「何か」の存在を無意識に意識させる。

蓮はポケットの鍵を握りしめた。

「……行くぞ。」

声が思ったより小さく聞こえたのは、気のせいだろうか。

やがて、二人は101号室の前にたどり着いた。

他の部屋と同じように、木製のドアがそこにある。だが、蓮は一目見た瞬間に違和感を覚えた。

このドアだけ、埃が少ない。

それに、取っ手の部分には、他の部屋にはない「鍵穴」がついていた。まるで、この扉だけが今も使われているかのように……。

空も気づいたのか、微かに眉をひそめる。

「……本当に開けるの?」

「ここまで来たんだ。確かめるしかない。」

蓮はポケットから鍵を取り出し、静かに鍵穴に差し込んだ。

ゆっくりと回す。

カチリ。

鍵がはまり、重々しい音とともに扉が開いた。

中は真っ暗だった。

蓮は一歩、足を踏み入れる。

と、その瞬間――

「ッ……!!」

全身に冷気が駆け抜けた。

部屋の奥から、何かがこちらを見ている。

見えるはずがない。暗闇なのだから。

しかし、確かに「目」があった。

蓮は息を呑む。

背後で、空が小さく声を漏らした。

「……なあ、兄さん。」

「……何だ。」

「今、誰かいたよな?」

その瞬間、部屋の奥から「カタン」と何かが動く音が響いた。

蓮は反射的に扉を閉める。

背筋を駆け抜ける悪寒が止まらない。

静寂。

蓮と空は、お互いに目を見合わせた。

「……出よう。」

蓮のその一言に、空は黙って頷いた。

そして二人は、そっと101号室の前から離れた。

しかし、その背後。

わずかに開いたドアの隙間から、確かに「何か」が二人を見送っていた――。
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