3 / 26
第一部 聖女セラフィーナと幸福の罠
2
しおりを挟む
「アナスタシア様、お久しぶりですわ!」
弾けるような明るさで、セラフィーナが立ち上がった。
相変わらず絵に描いたような完璧さだ。
ふわりと揺れる薄桃色のドレス。金色の髪は柔らかなウェーブを描き、宝石のように輝く翡翠の瞳が真っ直ぐこちらを見つめている。
まったく、神の加護というのは手加減というものを知らないらしい。
「ごきげんよう、セラフィーナ様。お変わりなくお過ごしのようで何よりですわ」
私は微笑を返す。表情は穏やかに、声色は丁寧に。こういう挨拶は、もう何度も繰り返してきた。
内心では、いつものように思っている。
――まったくもって隙がないわね。
この手のヒロインにありがちな、少し天然でドジっ子な場面だとか、嫉妬に揺れる不安定な表情だとか、そういう要素は彼女には存在しない。
優しく、朗らかで、誰に対しても分け隔てなく微笑む。周囲の貴族たちは彼女の一挙手一投足にうっとりとした顔を向けている。
これが“聖女”。まさに、そういうキャラクターだ。
私が彼女に嫉妬しているとでも思っているのかしら。
違うわよ。むしろ、その徹底ぶりに軽く感心してるくらいよ。
けれど、私の役目はここからだったはずだ。
本来ならここで私は、彼女に皮肉のひとつも言い放ち、周囲の男たちの怒りを買い、破滅の道が始まる。
それが、筋書き通りの流れ。
……の、はずだった。
「実は、アナスタシア様にぜひご挨拶を申し上げたくて。本当にお会いできて嬉しいんです!」
セラフィーナは、わざわざ私の手を取ってきた。
柔らかな手のひらが触れる。
きらきらした笑顔。まるで私が友人でもあるかのように。
「まあ……それは光栄ですわ」
私は自動的に微笑んだ。けれど内心では、思わず目を細めたくなった。
……何なの、この新展開?
王太子だけじゃなく、聖女までが妙に好意的に絡んでくるなんて、聞いてない。
私の記憶しているシナリオとは完全に違う流れに突入している。
隣で王太子ユリウスが優雅に微笑みながら言葉を添えた。
「アナスタシア、君とセラフィーナはすぐに打ち解けられるだろうと思っていたよ」
だから、それ、原作であなたが言う台詞じゃないから。
私は心の中でそっと突っ込む。
……いや、まあ、いいわ。
筋書きが崩れたのなら、それはそれで。
私の破滅が遅れるだけ。
いずれどこかで、予定通り破滅は訪れるはず。
――たぶん、ね。
弾けるような明るさで、セラフィーナが立ち上がった。
相変わらず絵に描いたような完璧さだ。
ふわりと揺れる薄桃色のドレス。金色の髪は柔らかなウェーブを描き、宝石のように輝く翡翠の瞳が真っ直ぐこちらを見つめている。
まったく、神の加護というのは手加減というものを知らないらしい。
「ごきげんよう、セラフィーナ様。お変わりなくお過ごしのようで何よりですわ」
私は微笑を返す。表情は穏やかに、声色は丁寧に。こういう挨拶は、もう何度も繰り返してきた。
内心では、いつものように思っている。
――まったくもって隙がないわね。
この手のヒロインにありがちな、少し天然でドジっ子な場面だとか、嫉妬に揺れる不安定な表情だとか、そういう要素は彼女には存在しない。
優しく、朗らかで、誰に対しても分け隔てなく微笑む。周囲の貴族たちは彼女の一挙手一投足にうっとりとした顔を向けている。
これが“聖女”。まさに、そういうキャラクターだ。
私が彼女に嫉妬しているとでも思っているのかしら。
違うわよ。むしろ、その徹底ぶりに軽く感心してるくらいよ。
けれど、私の役目はここからだったはずだ。
本来ならここで私は、彼女に皮肉のひとつも言い放ち、周囲の男たちの怒りを買い、破滅の道が始まる。
それが、筋書き通りの流れ。
……の、はずだった。
「実は、アナスタシア様にぜひご挨拶を申し上げたくて。本当にお会いできて嬉しいんです!」
セラフィーナは、わざわざ私の手を取ってきた。
柔らかな手のひらが触れる。
きらきらした笑顔。まるで私が友人でもあるかのように。
「まあ……それは光栄ですわ」
私は自動的に微笑んだ。けれど内心では、思わず目を細めたくなった。
……何なの、この新展開?
王太子だけじゃなく、聖女までが妙に好意的に絡んでくるなんて、聞いてない。
私の記憶しているシナリオとは完全に違う流れに突入している。
隣で王太子ユリウスが優雅に微笑みながら言葉を添えた。
「アナスタシア、君とセラフィーナはすぐに打ち解けられるだろうと思っていたよ」
だから、それ、原作であなたが言う台詞じゃないから。
私は心の中でそっと突っ込む。
……いや、まあ、いいわ。
筋書きが崩れたのなら、それはそれで。
私の破滅が遅れるだけ。
いずれどこかで、予定通り破滅は訪れるはず。
――たぶん、ね。
23
あなたにおすすめの小説
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?
輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー?
「今さら口説かれても困るんですけど…。」
後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о)
優しい感想待ってます♪
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる