【完結】悪役令嬢アナスタシアは破滅を嗤う

藤原遊

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第三部 王妃教育と幸福の牢獄

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 破滅を望む理由――それは単なる筋書きのなぞり直しだけではない。

 私は、そもそも心のどこかで理解していた。

 ――王妃なんて、やってられない。

***

 ただでさえ、公爵令嬢として育った私は、幼い頃から礼儀、教養、言語、作法、外交、乗馬、刺繍、音楽……
 挙げればきりがないほどの「淑女教育」に晒され続けてきた。

 それだけでも充分に地獄だった。

 それが今、さらに王妃教育という名の名誉ある過労死コースに叩き込まれようとしている。

 王妃教育とは、要するにこうだ。

 「すべての分野において、一切の隙を見せるな」

 王太子妃は国家の顔。常に完璧でなければならない。
 食事のマナー一つ取っても、ナイフの角度、フォークの持ち方、手首の角度、微笑む頻度――すべて監視対象だ。

 正直な話。

 ――現代の会社員のブラック研修の方が、まだ人道的だと思う。

***

「では本日の予定を確認します」

 スケジュール帳を持ったカイが静かに告げる。
 彼が作成した日程表は、もはや芸術的な緻密さで埋め尽くされていた。

「午前は外交儀礼、午後は財務演習、夕刻に神殿参拝、夜間に舞踏会出席。その後、明日の演説原稿の推敲です」

 私は思わず遠い目をした。

「……相変わらず隙がありませんわね」

「隙を作らせないのが私の役目ですから」

 誇らしげに微笑むのをやめてほしい。

***

「本日は新たな護衛ルートの確認を行います」

 レオンは当然のように護衛体制の再編に着手している。
 ついでに、何故か騎士団員たちへの面接も行っていた。

「王妃となるお方を守るには、適切な人選が必要ですので」

 ……もう、騎士団まで私専用仕様にする気らしい。

***

「外交の場では、お気を付けて」

 ユリオは最新の貴族情勢を地図にして差し出してくる。

「必要ならばこちらの社交ネットワークもご活用を。貴族夫人たちのご機嫌取りも万全です」

 いや、それが一番疲れるのよ?

***

「明日は神殿行事が続きます。もしもの時は、私が隣におりますのでご安心を」

 シグルドは柔らかく微笑んで祈りの言葉を添えてくる。

 神の加護より、睡眠時間を与えてほしい。

***

「魔導知識の整理は進んでいますか?」

 アベルが平然と分厚い魔導理論書を積み上げてくる。

「王妃として各学問の基本理解は必須ですので」

 その中に、古代ルーン語の辞書が混ざっているのを私は見逃さなかった。

***

 そして――

「アナスタシア。負担は大きいだろう。でも僕が、君を導き支えるよ」

 包囲の中心、ユリウスがいつもの笑顔で締めくくる。

 ――違うのよ!!!

 私はまた静かに心の中で突っ込んだ。

 誰か。
 本当に、誰か。
 今からでも遅くないから破滅させて。
 ……もう、かなり諦めてはいるけれど。
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