【完結】悪役令嬢アナスタシアは破滅を嗤う

藤原遊

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第三部 王妃教育と幸福の牢獄

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 私は、今こそ僅かな希望に賭けていた。

 ――少しくらい失敗すれば、諦めてくれないかしら?

 完璧に応え続けるから期待が高まるのだ。
 ならば、ほんの少し、絶妙に失敗してみよう。

 もちろん、大きな失敗は逆効果。
 ただの駄目な王妃候補として叩き落されるのは避けたい。

 だが、軽く「王妃としては足りない」くらいに思わせれば、もしかすると……。

 ――皮肉なことに、これがまた難易度が高かった。

***

 最初の舞台は――社交辞令講座 by ユリオ

「ではアナスタシア様、こちらの場面で適切な返答をどうぞ」

 ユリオが用意したのは、貴族間で頻出する慇懃な挨拶の受け答えだ。

 私は意図的に、少しだけ間違えてみた。
 通常なら「光栄に存じます」と返すべき場面で――

「……恐縮ですわ」

 微妙に謙遜方向にズレた答え。
 これなら、少しは「気疲れして判断を誤ったのでは?」と思ってもらえるかも。

 だが。

「……素晴らしい謙譲の美徳です」

 ユリオは感嘆したように手を打った。

「この場面であえて謙譲に出られるとは、完璧な柔軟性ですわ!」

 ――そう来る!?

 私は内心でまた頭を抱えた。

***

 次は――礼法実技 by カイ

「ではカップの角度は?」

「ええと……これくらい?」

 わざと微妙にズラしてティーカップを持つ。
 通常よりわずかに深すぎる角度。完璧ではない、はず。

 だが。

「さすがアナスタシア様。やや深めの角度は“親しみと敬意の調和”を体現しています」

 カイまで平然と褒めてきた。

「意図的に場の空気を和ませる配慮を自然に盛り込めるとは……努力の賜物です」

 ――だから違うのよ!!!

***

 さらに――礼拝指導 by シグルド

 神前での祈りの姿勢。
 わざと手の合わせ方を微妙に上下ズラしてみる。

「アナスタシア様……やはり貴女は柔軟でいらっしゃいます」

 すぐさまシグルドが微笑んでくる。

「完璧を目指すあまり形式に縛られず、神の慈悲を身近に感じる祈り方を体現しておられる……」

 ――いや、普通に間違えただけなんですけど!?

***

 アナスタシアの内心は、すでに静かに叫び出していた。

 失敗すれば評価が下がるはず。
 なのに、微妙な失敗は「努力と工夫の表れ」として逆に賞賛されてしまう。

 努力家認定が、どんどん固まっていく。
 私はただ静かに紅茶を啜るしかなかった。

 ――誰か、本当に破滅を……。
 ……もう、少しだけ諦めてはいるけれど。
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