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第3話 代わりは、安くついたらしい
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聖女は、誰にでもなれる役目ではない。
それは王国に生まれた者なら、誰もが知っている事実だった。
少なくとも――かつては。
祈りの資質は先天性のもので、
生まれつき“向いている者”は、百年に一人いるかどうか。
代々、聖女の家系が大切に保護され、
高い待遇で迎えられてきたのも、そのためだ。
祈りが王国にとって“代えのきかない機能”であることを、
過去の為政者たちは理解していた。
けれど、今の王国は違った。
「聖女の維持費は高すぎる」
「効果が目に見えない」
「平和な時代には、無駄だ」
そう判断した結果、
彼らは“代替策”を選んだ。
私が追放されてしばらくしてから、
王都では新しい聖女が選ばれたという。
――選ばれた、と言っていいのかどうか。
「神殿で働いていた女給に、
それらしい衣装を着せただけらしい」
そう教えてくれたのは、
王都と交易のある商人だった。
「祈祷文を覚えさせて、
決まった時間に声を出させる。
それで“問題ない”と判断したそうです」
私は、何も言わなかった。
言葉にすれば、
それだけで“負け惜しみ”のように聞こえるからだ。
ただ、その話には、
彼らの認識がはっきりと表れていた。
――祈りは、演出だ。
――聖女は、象徴だ。
――ならば、安く用意できる。
賃金は、私の十分の一以下。
生活も、神殿の一室を与えられるだけ。
「これで十分だ」と、
王城は胸を張ったらしい。
結果は、すぐには出なかった。
表向き、王国は平穏だった。
新しい聖女は、決まった時間に祈り、
民衆はそれを見て安心する。
だが、裏側では、数字が変わり始めていた。
治癒院での回復日数が、平均で一日延びた。
穀物の収穫量が、わずかに落ちた。
境界付近の魔物討伐の回数が、増えた。
どれも、致命的ではない。
だが、“偶然”で片づけるには、重なりすぎている。
「聖女を変えたせいだ、とは言えないでしょう?」
王城では、そう結論づけられたという。
祈りは続いている。
形式も守られている。
民衆も、不安を口にしていない。
ならば、問題はない――と。
私は、町の診療所で、薬を煎じながらその話を聞いた。
安く雇えるから。
分かりやすいから。
管理しやすいから。
それらはすべて、
“機能しているかどうか”とは、別の基準だ。
祈りは、才能だ。
演技ではなく、技能だ。
才能を、衣装で代替できると考えた時点で、
王国はすでに一線を越えていた。
それでも彼らは、気づかない。
なぜなら、
まだ“耐えられている”からだ。
崩壊は、いつもそうだ。
最初は、コスト削減に成功したように見える。
本当に代償が見えるのは、
――その先だ。
私は、煎じ終えた薬を瓶に詰めながら、
静かに思った。
王国は、
聖女を失ったのではない。
理解を失ったのだ、と。
それは王国に生まれた者なら、誰もが知っている事実だった。
少なくとも――かつては。
祈りの資質は先天性のもので、
生まれつき“向いている者”は、百年に一人いるかどうか。
代々、聖女の家系が大切に保護され、
高い待遇で迎えられてきたのも、そのためだ。
祈りが王国にとって“代えのきかない機能”であることを、
過去の為政者たちは理解していた。
けれど、今の王国は違った。
「聖女の維持費は高すぎる」
「効果が目に見えない」
「平和な時代には、無駄だ」
そう判断した結果、
彼らは“代替策”を選んだ。
私が追放されてしばらくしてから、
王都では新しい聖女が選ばれたという。
――選ばれた、と言っていいのかどうか。
「神殿で働いていた女給に、
それらしい衣装を着せただけらしい」
そう教えてくれたのは、
王都と交易のある商人だった。
「祈祷文を覚えさせて、
決まった時間に声を出させる。
それで“問題ない”と判断したそうです」
私は、何も言わなかった。
言葉にすれば、
それだけで“負け惜しみ”のように聞こえるからだ。
ただ、その話には、
彼らの認識がはっきりと表れていた。
――祈りは、演出だ。
――聖女は、象徴だ。
――ならば、安く用意できる。
賃金は、私の十分の一以下。
生活も、神殿の一室を与えられるだけ。
「これで十分だ」と、
王城は胸を張ったらしい。
結果は、すぐには出なかった。
表向き、王国は平穏だった。
新しい聖女は、決まった時間に祈り、
民衆はそれを見て安心する。
だが、裏側では、数字が変わり始めていた。
治癒院での回復日数が、平均で一日延びた。
穀物の収穫量が、わずかに落ちた。
境界付近の魔物討伐の回数が、増えた。
どれも、致命的ではない。
だが、“偶然”で片づけるには、重なりすぎている。
「聖女を変えたせいだ、とは言えないでしょう?」
王城では、そう結論づけられたという。
祈りは続いている。
形式も守られている。
民衆も、不安を口にしていない。
ならば、問題はない――と。
私は、町の診療所で、薬を煎じながらその話を聞いた。
安く雇えるから。
分かりやすいから。
管理しやすいから。
それらはすべて、
“機能しているかどうか”とは、別の基準だ。
祈りは、才能だ。
演技ではなく、技能だ。
才能を、衣装で代替できると考えた時点で、
王国はすでに一線を越えていた。
それでも彼らは、気づかない。
なぜなら、
まだ“耐えられている”からだ。
崩壊は、いつもそうだ。
最初は、コスト削減に成功したように見える。
本当に代償が見えるのは、
――その先だ。
私は、煎じ終えた薬を瓶に詰めながら、
静かに思った。
王国は、
聖女を失ったのではない。
理解を失ったのだ、と。
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