サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば

文字の大きさ
7 / 32
芽生え

再会2

しおりを挟む
 サーシャは驚いていた。
 最初見かけた時には平民のような格好だった少年が、次に会った時には上等な服を着ており、さらには貴族の子息が通う学園で再会するなどと、誰が想像できるだろうか。


「ニックあなた、貴族のご子息様だったの?」

 サーシャの言葉に驚いたのは番頭だ。
 隣から小声で「様をつけるんですよ!」と聞こえる。
 それはもちろんニックにも聞こえていて、彼は苦笑いをこぼした。

「ニックでいいよ。僕もサーシャって呼ばせてもらうから。それより、何があったんだ? 寮長からネチネチやられてるって友達が教えてくれたんだけど」

「いえ、それはうちの不手際だからお叱りを受けるのは当然なの。……です」

 また番頭の視線を感じ慌てて言い直すが、あまり意味はなかった。

「そうなのか。仕事のことは僕にはわからないけどさ、学園長が出てきてないってことは、きっとそんなに問題視されてないってことだから。元気出してよ」

 屈託なく笑うニックの笑みと言葉に、サーシャは涙が出そうになる。
 『あなたは悪くない』でもなく、『頑張って』でもない。飾り気のない、『元気出してよ』というそのたった一言が、今のサーシャにはとても温かく響いた。

「寮長さ、ものすごくしつこかっただろう? あいつ寮生100人中120人から嫌われててさ。ほんと気にしない方がいいよ」

「ふふっ、なあにそれ」

 思わず笑ってしまったサーシャを見て、ニックは眩しそうな顔をした。


 それから車寄せまで歩きながらニックと話をした。番頭は3歩ほど後ろをついてきている。
 話し方も前のままでいいとニックに言われたが、背後から時々咳払いが聞こえるため、サーシャは番頭に聞こえないように小さな声で話すことにした。

 ニックの方へ体を傾けて近づくと、彼は少し驚いた様子て頬を赤くする。

「ニックはどうしてあの日お忍びの格好をしていたの?」

「先輩から言われたんだ。女の子を見に行くのに貴族とわかる格好をしていたら恥ずかしいぞって」

「あら、そうなの? 別に気にしなくても良さそうなのにね」

「うん、僕もそう思う。いつもの服を着ていたらきっとあんなふうになることは──」

 そこまで言うと、ニックは寄せていた眉をハッと戻した。

「でも膝を擦りむいたおかげでサーシャと知り合えたんだから、先輩には感謝しないとな!」

 ニックは気持ちを切り替えるようにははっと笑った。



 商会の馬車に乗り込むと、番頭がほうっと息を吐く。

「サーシャさん、余計なお世話かもしれませんが、令息との距離にもう少し気をつけるべきです」

「そんなに近かったかしら? でもニック…様が畏まってほしくないって言うのよ?」

 番頭は頭を振る。いかにも嘆かわしいと言わんばかりの仕草だ。

「あの方のカフスを見ましたか? バルケス伯爵家の紋章でした。かの伯爵家は王家にも連なる古い名家です。万一おかしな噂でも立てば、商会はただでは済みませんよ」

「そんな、大丈夫よ。疑われるようなことなんてしないもの」


 ニックの明るさに上向いた心が、少し重くなった気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

悪女アフロディーテの裏の顔

甘糖むい
恋愛
――幾多の男を手玉に取る悪女アフロディーテ。 誰もが彼女を恐れ、魅了され、そして――貪りつくされた末に彼女に捨てられる。 彼女の全てを知るのは、ごくわずか。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

観客席のモブは、恋をする予定じゃなかった

しろうさぎ
恋愛
「鏡よ鏡よ鏡さん、私はだぁれ?」 花屋の娘として、両親に愛され、町に愛されて育った少女・アイリスは、ある日突然前世の記憶が蘇る。 鏡に映る美少女は、どうみても乙女ゲームのヒロインなのに、思い当たるキャラクターがいない。 よくある転生じゃないのかも…?? 前世の記憶が戻っても、何一つ変わらない日常を過ごしていた。 けれどある日、両親は花の買い付けに向かったまま、事故で帰らぬ人に。 身寄りのない13歳。 この町で生きていくには、あまりにも幼く、あまりにも美しすぎた。 そんな彼女の前に現れたのは―― 見ず知らずの伯爵夫妻。 「養子として迎えたい」 そう告げられ、伯爵邸に着いた瞬間アイリスは思い出してしまう。 ここが“乙女ゲームの世界”だということを。 ……でも、おかしい。 ヒロインでもない。 悪役令嬢でもない。 名前すら出てこない、 シルエットだけのモブキャラ。 なのに。 攻略対象の貴族たちが、 なぜか彼女から目を離さない。 「私は観客席のはずなのに?」 モブのはずの少女が、 知らないうちに物語を狂わせていく―― これは、 “選ばれる予定のなかった少女”が、 運命に見つかってしまう物語。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。 兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。 異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。 最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。 やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。 そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。 想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。 すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。 辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。 ※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。 ※8万字前後になる予定です。

あざとさを捨てた令嬢は、若き公爵に溺愛される

古紫汐桜
恋愛
婚約者の裏切りを目撃し、命を落とした“私”が目を覚ましたのは、 見知らぬ貴族令嬢の身体の中だった。 そこは、誰かの悪意によって評判を地に落とした世界。 かつて“あざとさ”で生きていた彼女の代わりに、 私はその人生を引き受けることになる。 もう、首を揺らして媚びる生き方はしない。 そう決めた瞬間から、運命は静かに歪み始めた。 冷酷と噂される若公爵ユリエル。 彼もまた、自らの運命に抗い続けてきた男だった。 そんな彼が、私にだけ見せた執着と溺愛。 選び直した生き方の先で待っていたのは、 溺れるほどの愛だった。 あざとさを捨てた令嬢と、運命に翻弄される若公爵。 これは、“やり直し”では終わらない、致命的な恋の物語。

処理中です...