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波乱
間話 ニック
あの日の彼女は眩しすぎた。
あんなにもたくさんの人の中で、誰よりも輝いていた。
寮に招待状が届いた時、ニックは天にも昇る心地だった。熱心な信奉者でもしつこい客でもない。少なくとも親しい友人くらいには思ってもらえているようで嬉しかったのだ。
実際に相当浮かれていたらしく、友人たちからすぐに問い詰められた。
「ニックすごいな! これはもしかしたらもしかするんじゃないか?」
そう言って一緒に喜んでくれた友人たちを連れて、張り切って展示会へと出かけた。
堂々と、背筋をぴんと伸ばしてたおやかに微笑むサーシャから目が離せない。彼女の美しさに圧倒されたニックは、自身の小ささに気づいてしまった。
自分のような何者でもない一学生が、あの眩しい女性のそばにいることが、本当に許されるのだろうか。憧れと恋しさと卑屈な思いとがせめぎ合って、もう何も考えたくなかった。
だから、あんなことをしてしまったのかもしれない。
「ニック様、お慕いしています」
見え透いた言葉は、心のどこにも引っかかることなく滑って消えた。そもそも、彼女は植物園でニックに会ったことを覚えてもいないようだった。
「僕はサーシャが好きなんだ」
何度そう返しても、彼女は「どうして?」「私の方がニック様にふさわしいわ」と食い下がってくる。
ついには泣き出し、触れ合って何も感じなければ諦めると潤む瞳で訴えた。
一度だけ。これで諦めてくれるなら──そう思ったのは事実だ。けれど本当は、言い募るメリンダに少しの優越感を覚えていたのかもしれない。以前寄越した冷たい視線も忘れて縋ってくる様を、あのときどんな感情で見ていたのか、今はもう思い出せない。
抱き締めたメリンダは華奢で愛らしく、震える体がニックの支えを必要としているようだった。体格だけならばサーシャよりも『ふさわしい』と思える。メリンダのこともかつては可愛いと思っていたその気持ちもほんの少し顔を出して、つい離れがたさを覚えてしまった。
けれどサーシャへの想いは、体の大小で変わることはない。そう我に返った時にはすべてが遅かった。
「サーシャ!」
どれだけ呼んでも、彼女が振り返ることはなかった。
もう手が届くことはないのだろうか。こんな、こんな些細な行き違いで──?
あんなにもたくさんの人の中で、誰よりも輝いていた。
寮に招待状が届いた時、ニックは天にも昇る心地だった。熱心な信奉者でもしつこい客でもない。少なくとも親しい友人くらいには思ってもらえているようで嬉しかったのだ。
実際に相当浮かれていたらしく、友人たちからすぐに問い詰められた。
「ニックすごいな! これはもしかしたらもしかするんじゃないか?」
そう言って一緒に喜んでくれた友人たちを連れて、張り切って展示会へと出かけた。
堂々と、背筋をぴんと伸ばしてたおやかに微笑むサーシャから目が離せない。彼女の美しさに圧倒されたニックは、自身の小ささに気づいてしまった。
自分のような何者でもない一学生が、あの眩しい女性のそばにいることが、本当に許されるのだろうか。憧れと恋しさと卑屈な思いとがせめぎ合って、もう何も考えたくなかった。
だから、あんなことをしてしまったのかもしれない。
「ニック様、お慕いしています」
見え透いた言葉は、心のどこにも引っかかることなく滑って消えた。そもそも、彼女は植物園でニックに会ったことを覚えてもいないようだった。
「僕はサーシャが好きなんだ」
何度そう返しても、彼女は「どうして?」「私の方がニック様にふさわしいわ」と食い下がってくる。
ついには泣き出し、触れ合って何も感じなければ諦めると潤む瞳で訴えた。
一度だけ。これで諦めてくれるなら──そう思ったのは事実だ。けれど本当は、言い募るメリンダに少しの優越感を覚えていたのかもしれない。以前寄越した冷たい視線も忘れて縋ってくる様を、あのときどんな感情で見ていたのか、今はもう思い出せない。
抱き締めたメリンダは華奢で愛らしく、震える体がニックの支えを必要としているようだった。体格だけならばサーシャよりも『ふさわしい』と思える。メリンダのこともかつては可愛いと思っていたその気持ちもほんの少し顔を出して、つい離れがたさを覚えてしまった。
けれどサーシャへの想いは、体の大小で変わることはない。そう我に返った時にはすべてが遅かった。
「サーシャ!」
どれだけ呼んでも、彼女が振り返ることはなかった。
もう手が届くことはないのだろうか。こんな、こんな些細な行き違いで──?
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