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王宮へ
笑う
ピコによって切り揃えられた大きな布。これをトルソーにまとわせ形を作っていく。元が一枚の布というこの上なく単純なものだからこそ、ほんのわずかな妥協でも、仕立て上がりに大きな差ができてしまうだろう。
サーシャは一台のトルソーの正面に立ち、慎重にドレープを作った。一つのひだを何度も作り直し、ようやく形が定まる。
その様子を見ていたピコは、隣のトルソーに違う生地をまとわせ、流れを瞬時に写し取る。迷いのない指先がまったく同じひだを生み、まるでサーシャの目指すものを知っているかのようだ。
サーシャは目の前のトルソーを、ピコはサーシャの手元を、それ以外のものが見えていないかのように注視し続ける。
ただの布がお仕着せという輪郭を現した時、気づけばあたりにはお目付け役の他にも数人のお針子が集まっていた。
彼女たちの目に浮かぶのは驚きと感嘆、そして賞賛の色だった。
「お師匠の仕事を思い出すねえ」
お目付け役のお針子が言うと、みなもうんうんと頷いている。
「お師匠? ネネさんたちのこと、知ってるんですか?」
「知ってるも何も、私らはあの工房で世話になってたんだ。『ローディック姉妹』がまだ赤ん坊だった頃にね」
そう言うとお針子たちはニカッと笑った。
ピコは「先輩たちばっかりズルいズルい」と騒いだが、「その頃はピコも赤ん坊だっただろ」と一蹴されていた。
そんな中、サーシャはあっと気づく。カイがいなくなっていた。
「一緒にいた役人なら、しばらく前に王女宮に戻るって出ていったよ。あそこの感じ悪いのに何か言ってからね」
お針子が示す方を見ると、年かさのお針子が二人、ヒソヒソと話していた口をつぐんで目をそらした。
「まあ気にすることはないよ。あの二人は誰のことも気に入らないのさ」
仮縫いをピコに任せ、サーシャは王女宮に向かった。
つい夢中になってしまったが、やるべきことはお仕着せ作りだけではない。現在ある衣装の管理や、ローラに会って確認したいこともある。
「遅くなってすみません!」
サーシャの声にカイは書類を書く手を止め、顔を上げた。
「……ああ、もう終わったのか? じゃあこれ、時間がある時にでも見といてくれ。すぐじゃなくていい」
カイから手渡されたのは、衣装の管理簿と雇用予定者の名簿だった。
「これ、やろうと思ってた仕事──」
「……なんもかも一人でやろうとするな。上役なんて使ってなんぼだ」
ぼそりと言って、カイは机に戻りながらつけ足した。
「……使う生地が決まったら教えてくれ。すぐに手配をかける」
「ありがとうございます!」
思いがけず大きな声が出てしまい、カイが耳を押さえた。きっと眼鏡の下ではしかめ面をしている──そんな想像をして、サーシャはこっそりと笑った。
◇◇◇
お読みいただき、ありがとうございます。
サーシャは一台のトルソーの正面に立ち、慎重にドレープを作った。一つのひだを何度も作り直し、ようやく形が定まる。
その様子を見ていたピコは、隣のトルソーに違う生地をまとわせ、流れを瞬時に写し取る。迷いのない指先がまったく同じひだを生み、まるでサーシャの目指すものを知っているかのようだ。
サーシャは目の前のトルソーを、ピコはサーシャの手元を、それ以外のものが見えていないかのように注視し続ける。
ただの布がお仕着せという輪郭を現した時、気づけばあたりにはお目付け役の他にも数人のお針子が集まっていた。
彼女たちの目に浮かぶのは驚きと感嘆、そして賞賛の色だった。
「お師匠の仕事を思い出すねえ」
お目付け役のお針子が言うと、みなもうんうんと頷いている。
「お師匠? ネネさんたちのこと、知ってるんですか?」
「知ってるも何も、私らはあの工房で世話になってたんだ。『ローディック姉妹』がまだ赤ん坊だった頃にね」
そう言うとお針子たちはニカッと笑った。
ピコは「先輩たちばっかりズルいズルい」と騒いだが、「その頃はピコも赤ん坊だっただろ」と一蹴されていた。
そんな中、サーシャはあっと気づく。カイがいなくなっていた。
「一緒にいた役人なら、しばらく前に王女宮に戻るって出ていったよ。あそこの感じ悪いのに何か言ってからね」
お針子が示す方を見ると、年かさのお針子が二人、ヒソヒソと話していた口をつぐんで目をそらした。
「まあ気にすることはないよ。あの二人は誰のことも気に入らないのさ」
仮縫いをピコに任せ、サーシャは王女宮に向かった。
つい夢中になってしまったが、やるべきことはお仕着せ作りだけではない。現在ある衣装の管理や、ローラに会って確認したいこともある。
「遅くなってすみません!」
サーシャの声にカイは書類を書く手を止め、顔を上げた。
「……ああ、もう終わったのか? じゃあこれ、時間がある時にでも見といてくれ。すぐじゃなくていい」
カイから手渡されたのは、衣装の管理簿と雇用予定者の名簿だった。
「これ、やろうと思ってた仕事──」
「……なんもかも一人でやろうとするな。上役なんて使ってなんぼだ」
ぼそりと言って、カイは机に戻りながらつけ足した。
「……使う生地が決まったら教えてくれ。すぐに手配をかける」
「ありがとうございます!」
思いがけず大きな声が出てしまい、カイが耳を押さえた。きっと眼鏡の下ではしかめ面をしている──そんな想像をして、サーシャはこっそりと笑った。
◇◇◇
お読みいただき、ありがとうございます。
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