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第一部 地球編

44 君の元へ

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 マスターウェザー、タンク、ガントンの能力が少し回復したので、戦場に復帰した

「マスターウェザー。三人の帰りが遅い。宇宙船の近くに様子を見に行ってくれ。三人を見つけたら、必ず連れ戻せ」

 エドガーにそう言われたマスターウェザーは本部から飛んでいった



 第四軍団は順調に敵を倒していき、宇宙船に少しずつ近づいていた。クイックとコールドアイの連携と、カーナによって兵士達を失うのが少ないからだ。やがて、センスからカーナに連絡が入った

「レッドマジシャン達が、本部に帰還し、向こうのリーダーは九人いるそうです」

「九人!?強いの?」

「一対一だと、負けるそうです」

「分かった」

 カーナは、クイックとコールドアイ、ガンドルド。そして、遅れてきたタンクに伝えた

「強敵とは会いたくないな」

「けど、倒さないといけない」

「分かってるさ」

「みんな、何十時間も動いてるから、限界よ」

「休憩させるか」

 休憩後、宇宙船の近くまできた。すると、エイリアンの大軍と戦うことになった。いつも通り、コールドアイが止めてる間に、クイックが敵の中心に走って、敵を一掃していると。クイックが走るのをやめた

「フラン?」

 クイックにはゆっくり動いて見える周りの中に、死んだ恋人の姿が見えた

「勘違いだ。もう、死んだ!」

 クイックが少し止まった隙を、エイリアン達は攻撃したが、全員返り討ちにあった。タンクが敵の前線を倒してる間に、クイックが内側から倒していく作戦は上手くいき、敵は混乱している。また、クイックが急停止した

「いる!フランがいる!?」

 フランの姿の方に全速で駆け寄ると、恐る恐る声をかけた

「フラン?」

「あら、クイック。どうしたの?」

 敵がクイックに攻撃をしかけた

「邪魔するな!」

 クイックが襲ってきた敵をバラバラに引き裂いた。あまりのクイックの雰囲気に敵は怖じ気付いている

「どうしてここに?君は死んだろ?」

「私は死んだの?」

「日本での任務でライガーと一緒に」

「何で、死んだの?」

「殺されたんだよ!」

「あなたは、その時何してたの?何で助けてくれなかったの?」

 クイックはあの日、フランへのプレゼントを買いに行っていた

「ごめん」

 クイックは分かっていた。これが、敵の能力であると。しかし、分かっていても喋っていたい。クイックへの攻撃を仕掛けるエイリアンは全員殺された。フランとの時間を邪魔されたくなかったから

「どうしてすぐに私の所に来てくれなかったの?」

「あの時は、君の母国のフランスにいたから、間に合わなかった」

「違う。何で、後を追って死んでくれなかったの?待ってたのに!」

「えっ」

 クイックはあの日、フランが死んだと聞かされて、自殺を考えてた

「けど、こうしてまた・・・」

「えぇ。会えたわ」

 だが、フランは悲しい顔をしてる。クイックの異変をカーナが敵味方がごちゃごちゃしてる戦場で見つけた

「クイック!何止まってるの!」

「カーナ。フランが会いに来てくれた」

 クイックがフランを指差したが、カーナには何も見えていない

「フラン?何言ってるの?」

「ほら!そこに」

「誰も居ないわ。誰かの能力で見えてるだけでしょ?」

 カーナはクイックに喋りかけながら、敵を素手で一秒触って即死させてる

「クイック。戦って!あなたがいないと~」

 カーナは後方に能力で吹き飛ばされていった

「クイック。私が死んでからカーナに乗り換えたの?」

「違う。僕は君だけしか愛してない!また、一緒に」

「クイック。私は死んで、あなたは生きてる。私は悲しいわ。自分だけが死んでるなんて」

「戦争が終わったら、すぐに君の元へ」

「嫌。今来てよ!私を愛してるのなら!今、死んで一緒になろう」

 フランがクイックに手を差し出した。クイックがその手をゆっくり握った。クイックのゴーグルの中は、涙でいっぱいだ

「今、殺すよ」

「良かった」

「フランを見せた能力者を!フランは俺にそんなことを言わない!」

「能力者?何言ってるの?私を愛してないの?」

「愛してるさ!」

 クイックは自らの手で、フランを引き裂いた。フランは最後まで悲しい表情をして消えていった

「誰だ!フランを侮辱したのは!」

 クイックが走りだそうとしたが、足が動かない。すると、二人のエイリアンがクイックに近づいてきた

「動かないだろ」

「お前らが、フランを見せたのか」

「えぇ。私は死者を蘇らせる能力。ただし、能力にかかってる本人と私にしか見えないけど」

「幻か?」

「違う。本物よ。あの国のフランを呼び出したのよ。呼び出されたフランは、状況が分かってないけど」

「彼女は俺に死んでくれと言った。彼女はそんなこと言わん!」

「生きてたら言わないでしょうね。ただ、死者からすれば生きてる人を見るのは辛い。ましてや、恋人を見るのはもっと辛い。それを知っても言わないと断言できる?」

「それは・・・。ていうか、何で殺さないんだ?」

「殺しますよ。絶望した顔をして死んでほしい。私の能力で、自ら死を望む人は多い。死者を見てる人は、気を取られ動かなくなる」

「そこで、俺の能力だ。三秒間その場から動かない相手を拘束することができる」

 クイックは体を動かし始めた。上半身は動かさすことができるのに、下半身が全く動かせない

「速さしか才が無い奴が走れないとは」

「あの女の所に送ってやるよ」

 クイックがゴーグルを取った

「速さこそ、最強の攻防。速さは強さだ!」

「そのスピードは封じられて可哀想に」

 クイックはニッコリ笑って腕を二人に向けて、振り回した

「下半身しか拘束できないとは、残念な能力だな!」

 クイックの腕から強風が生まれた。風はだんだん強くなっていき、二人のエイリアンを吹き飛ばした。また、二人以外にも、敵味方関係なく、突風で吹っ飛ばした。五分間、腕を振り回し続けて、やがて腕の回転のスピードが落ちた

「長くやると、能力消費が凄いな。やだな~。寒い所で死にたくないな~」

 強風が吹いている間はクイックの周囲に誰も居なくなったが、強風が吹き止むと、エイリアンは殺しに来た。味方は、クイックを守ろうと集まり出した

「クイック。動けないのか!?」

 タンクがクイックに叫んだ

「あいつの能力だ!」

 クイックが、拘束した二人のエイリアンを指差した

「分かった!兵士ども!必ず、クイックを死なせるな!」

 タンクはクイックが指差したエイリアンに向かっていった。エイリアン達はクイックを殺そうと、兵士達をどんどん倒していく。兵士達と、カーナやコールドアイ、ガンドルド達も頑張って応戦するが、劣勢だ。やがて、クイックがカーナを呼んだ

「退却させろ。兵を失う」

「タンクがもう少しで倒してくれる。そうすれば、あなたは動ける」

「俺一人のために、兵をこれ以上失うな!」

「あなたは、この戦いに必要なの!あなたがいないと戦いに勝てない!」

「いいから退かせろ!」

「やだ!」

「もう、いいんだよ。俺は十分よくやった」

 クイックがカーナの背中を押した

「分かった。退却ー!」

 カーナの震えた大声に、兵士達は不服ながら退いていった。コールドアイとガンドルドは最後まで救おうとしたが、カーナに無理やり退却させられた。クイックは、エイリアン達から、斬りつけられる直前に足が動いた

「タンク。倒してくれたんだな」

 最後は安堵した顔で、首を切り落とされた



 フランスのパリ。お店の開店と同時にクイックは店に入店した。商品を物色してると、店員に喋りかけられた

「お客様。婚約指輪をお求めですか?」

「えぇ。どんなデザインがいいですかね?シンプルな物か、派手な物か」

「恋人さんは、どんな方なのですか?」

「花のように美しい人です」

「花ですか。では、こちらはいかがですか?少し、他より高価ですが」

 店員が、指輪の一つを取り出して見せてくれた

「繊細なデザイン。いいですね。サイズもピッタリだ。買います」

「プロポーズはいつですか?」

「明日、仕事でアジアに行ってる彼女が帰ってくるので、その時に」

「それは、彼女さんは喜びますね」

 その後、クイックは指輪を手に、A.C.T アクトの本部に帰ってきた。本部に帰るとすぐに、マスターウェザーが駆け寄ってきた

「クイック。すぐに、日本に行きますよ!」

「日本?」

「フランとライガーが死にました」

 指輪をその場に落として、マスターウェザーと共に駆け出した



 東京支部に着くと、フランとライガーの死体が回収されていた。二人とも体全体が、原型をとどめていない

「フラン」

 フランの美しかった顔を撫でながら、クイックは崩れた。そこに、サンストーンが入ってきた

「クイック。来てたのか」

 クイックは一瞬で、サンストーンを壁に押し付けた

「何で!何でお前がいながらフランが、二人が死ぬんだよ!」

「すまない。必要なら、責任を取って、腹を斬るが」

「殺す!殺す!殺す!お前を殺す!組織を殺す!自分を殺す!」

 異変に気付きマスターウェザーが入ってきて止めた

「冷静に。フランとライガーの死は無駄ではありません」

「は?」

「適合者がいます。三人も」

「二人は用済みか・・・」

 クイックは部屋から出ていき、気付いたら個室で首吊りをしようとしていた。首を吊ろうとした瞬間、クイックにフランの声が聞こえた

「生きて!」

 

 クイックが目を開けると、そこには花がたくさん咲く丘にいた。丘の上には小さな小屋がある

「ここは?」

「やっと来た!」

 フランが後ろから、声をかけた

「フラン!」

「あなた。私を引き裂いたわね」

「悪い。偽物かと思った」

「けど、本当に会いに来てくれた」

 二人は、小屋の中に入った。普通の家と変わらない部屋だ

「ここが家?」

「あなたが付き合い始めた頃に言ってたじゃない!」

「何を?」

「いつか、二人で姿を消して、誰もいない所で、家族になりたいね。って」
 
 クイックはフランを抱きしめた

「あぁ。やっと二人きりだ!」



 クイックは、フランと共にあの世で、ゆっくりと過ごした。誰にも邪魔されない二人だけの場所で
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