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第一部 地球編

49 王

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 戦士で生き残ったのは、マスターウェザー、レッドマジシャン、トリックスター、スノーメロディー、ソーン、ヘドロ、ブルズアイ、ワイルドエコー、バルドル、コールドアイの十人だった。しかし、みんな勝った気がしなかった

「兵士は?」

「コールドアイと避難させました」
 
 その時、通信機に連絡が入った

「宇宙船を壊し、コンピューターが復活したのか」

「ガンドルドから連絡です」

「こちら、ガンドルド。南極の海の戦艦から、連絡してます。勝ちましたか?」

「あぁ。何人、兵士は生き残ったか、連絡してくれ」

「数分お待ちください!」

 ガンドルドからの通信が切れた

「コンピューター!医班を寄越せ」

「了解」

「俺は、これから南極にエイリアンが残ってないか、見回る」

「少し、休憩しましょう。バルドルは火傷を再生できてませんし、みんな傷を癒さないと。あなたも能力が無いでしょ?」

「そうだな」

 生き残ったことを喜ぶ奴は誰一人居なかった。何で、自分が生き残ってしまったのだろうと考えてしまい。会話が休憩の時になく、静かだった

「そろそろ行ってくる。『ゴッドウィンド』」

 マスターウェザーが飛びだった



 ガンドルドから通信が入った。みんな、生き残った兵士の数を報告するために連絡したのだろうと思ったが違った

「大変です!核ミサイルが、南極に向けて、発射されました!」

「エイリアンは倒したと報告したんだよな?」

「はい!」

「何発だ」

「十発です」

 マスターウェザーは南極横断中に連絡が入ったが、すぐに理解した。国連は、エイリアンに関係するものを全てを抹消するつもりなのだと。目障りで危険な自分達も抹消対象の一部だと

「俺が対処する!」

 マスターウェザーは核ミサイルの方に飛んでいった



 レッドマジシャン達は、自分達の無力に落胆してた

「どうすることもできない」

 その時、レッドマジシャン達の元に装甲車に乗った、医班が到着した。みんな、傷を負っていたため、全員連れていかれそうになったが、レッドマジシャンとトリックスターはビーストソウルの死体と、もう少し一緒に居たいと言ったので、二人以外が連れていかれた。残された二人は、マスターウェザーに連絡を入れた

「核ミサイルをどうするの?」

「十発も、どこに持っていくんだ?」

「トリックスター!一度連絡を切ってくれ。レッドマジシャンと二人で話したい」

 トリックスターは言われるがまま、連絡を切った

「レッドマジシャン。核ミサイルをお前なら、どうする?」

「宇宙にでも持っていく?」

「分かった」

「本当にやるの!?」
 
「レッドマジシャン。最強とは、どんな方法を使ってでも、守ることだ」

「自分が犠牲になるの?ダメよ!あなたが死んだら、誰が地球を守るの?」

「お前がいる。トリックスターがいる。戦士や兵士がいる。全員で守っていくんだ!俺なんかいなくても守れるさ!エイリアンは消えたんだから」

「あなたには価値がある。あなたが、地球を守ってきた。誰よりも、地球に必要なの!」

「違うぞ、レッドマジシャン。価値があるのは、次世代の奴らだ。俺のような老人は、若い奴らの為なら喜んで命を捧げる。エドガーを見たろ?」

「嫌。最強を失うわけにはいかない!地球の未来のために」

「俺は、誰よりも強い。そして、賢い。だが、価値はない。体に鞭打って働いてきた。もうそろそろ休ませてくれ」

「南極にこのまま落として!」

「ダメだ。もうミサイルを風で無理やり引き連れてる。地球を託す。トリックスターに代われ」

 レッドマジシャンが渋々、通信を切った。そして、トリックスターが繋げた

「トリックスター。今から、宇宙にミサイルを持っていくが、君に頼みたいことがある。レッドマジシャンには地球の未来を託したが。君には、レッドマジシャン達を支えてほしい」

「命令ですか?」

「いや。老人の戯言だと思って聞け。君は、レッドマジシャンやビーストソウルにいつも合わせてるが、自分の意思と違ってたら、間違ってると言って欲しい。どんなに、天才でも。どんなに、強くても。誰だって、間違える。間違えを教えてやることは、人間一人一人が持ってる権利だ」

「はい」

「間違えて、間違えて、何回も間違えてきた人類は、成長した。レッドマジシャン達に、間違えを指摘できるのは君しかいない。君と俺は似ている。俺も、グランドとクリスタルという同僚に憧れ、背中を追いかけてた。劣等生の俺が強くなれたんだ。だから、君も最強になれるさ!ここからは二人に聞いて欲しい」

 レッドマジシャンに通信を繋げろと、トリックスターは言った

「二人とも、そろそろ通信が途切れるほど上空にいくが、最後に聞いて欲しい。ビーストソウルの事は残念だったが、未来を託したぞ!俺の可愛い子供達」

 マスターウェザーとの通信が切れた



 マスターウェザーは、十発の核ミサイルを風で無理矢理、自身に引き寄せながら、大気圏を抜けていた。あまりの高さに、ゴーグルを含め、修道服のいろんな箇所が凍りつき始めた

「能力がもう。もっと先に」

 自分自身の心と会話していた。風でミサイルを引き寄せるのは、結構無茶なことをしていると自分でも分かっていた

「なぜ、俺は地球の為に命を捨てるんだ?グランド、クリスタル教えてくれ」

 宇宙空間に突入した。自分の周りにだけ、空気を無理矢理生み出している

「どうして、命を地球の為に捨てるのか。簡単だ!私は最強だから」

 能力の消費がすごく。もう、飛べないと分かってるマスターウェザーは凍りつきながらミサイルと飛んでいる。酸素もない、無限の空間で。ただ一人、地球を背後にしながら

「能力が限界だ。いや、人は死んだときに初めて、限界に達したと言えるだろう。もっと先へ!」

 心の中で、何回も何回も、自分を鼓舞しながら、消えていった。一瞬だけ、マスターウェザーは振り返った。青く美しい地球が、その目に映った。そして、笑っていた



 核ミサイルの爆発は、一瞬で分かった。宇宙ステーションよりも先に行ったマスターウェザーと核ミサイルは、爆発すると、赤い光が空一帯にオーロラのように広がり、通信機を含めた、地球の大半の電子機器は機能停止となった

「さすが。マスターウェザー!」

「人類の限界を唯一越えれた男!」

 二人は、膝から崩れた。お互いを支えあっている

「兵士達は全員、帰還したかな?」

「えぇ。私達も帰りましょう」

「その前に、ビーストソウルや、他の遺体を弔ってあげよう」 

「全員?エイリアンも?数がすごいよ」

「分かってるさ。だけど、弔いこそ、生き残った僕らができる、罪滅ぼしだろ?」

「そうね。やりましょうか。どれだけ時間がかかっても」 

 そこから二人は、一人一人遺体を南極の大地に横にしていった。体が、半分しか無い者、人間かどうかも分からない者達を。やがて、二人とも動けなくなった

「体が動かないな」

「ずっと明るいけど、何日も寝ずに戦ってたもん」

 その時、南極の空を覆うほどの宇宙船が現れた

「嘘!?」
 
「終わった。もう、無理だ!」

 二人とも、空の宇宙船を見つめながら動けずにいた。すると、二人が座り込んでる間に、いつの間にかエイリアンが一人いた

「遺体を弔っているのですか?」

 あまりに急に現れたので、二人とも体が硬直するくらい、ビビって動けなかった

「気配を感じなかった」

「エイリアン!?」

「地球人だけじゃなく、私達のことも弔っている。どうしてですか?」

「殺られる。倒さないと!」

「お二人さん。私は、あなた達を殺したりしませんよ。もちろん、地球人の事は嫌いですが。一緒に来てください!」

 男が、二人の体に触った。すると、二人は違う所に飛ばされていた
  


 二人は、宇宙船内に空間移動させられていた。そこは二人と、先ほどの男しかいない広い部屋だった

「お二人さんの名前は何ですか?」

 二人とも、何も言わない。恐怖心が、二人を動かせなくさせた

「怖いですか?」

 二人とも、ゆっくりと頷いた。能力も無いし、殺しにかかる体力すら残ってなかった

「私は、地球に提案しに来たのです!この唯一王自ら」

「唯一王?」

「私の星では、一人の王を決めて、星を統治しています。なぜだと思いますか?」

 二人とも小さく首を振った。すると、部屋内の景色が変わった。干からびた都市のようだ

「私の能力は幻術を見せることです。今から、その能力で見せましょう」

 二人とも、視覚だけじゃなく。五感全てが、その場にいるような気がしてた

「私の星は、技術力の発展に伴い、人口増加していきました。しかし、技術力が向上した反面。星から、資源は消え。食料や水も無くなった。そして、星は戦争を起こし始めた。そこで、元老院が考えたのが、一人を星の王とし、安定をもたらすことにしたのです。しかし、初代唯一王が死に、息子の私が引き継いだのですが、私のやり方は父のようにはいかず、弟に星を半分にした反乱を起こされました。その時、地球に使節団を送ってたのですが」

「バリオン達?」

「知ってましたか。反乱を静めた後、地球でも虐殺が起きてしまいました。反乱に参加したものは全員、違う星に、星流しにさせたのですが。地球への報復に来る途中で、星流しした弟が、宣戦布告してきました。その対処を考えるために本隊は、地球には行かず、第一部隊だけで報復に行かせたのですが、見事に返り討ちにあいましたね」

 淡々と喋る男を二人はただ聞いてるしかなかった

「そこで、提案です。私達は、宣戦布告してきた弟と戦争しないといけません。地球には手を出さない代わりに、弟との戦、協力していただきたい。そうだ!言い忘れてましたが、先ほど見せた幻術は、私の星ではなく、地球の未来ですよ。この星は私達と同じ末路を辿っています。手遅れになる前に対処を」

 そういうと、男は二人に触った。一瞬で、南極に戻ってきた

「では、一ヶ月ほど南極を勝手に使わせていただきますね。もちろん、拒否権はありません。最悪、本隊で地球を征服してもいいので」

 男は一瞬で消えた
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