極彩色の恋

やらぎはら響

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無理矢理に発情期を起こされ何人もに犯
されたあと、揚羽は妊娠が確認されるまで狭い部屋に監禁されていた。
発情期が終わって初めての検診日。
久しぶりに部屋の外に出され、いつかのように父や重鎮がいる座敷の真ん中に晒しものにするように揚羽は座らされていた。
父の脇に控えた医者が言いにくそうに妊娠していない事を告げると、座敷の中が一斉に騒めきに包まれる。

「何故だ!」
「我々の子種を与えてやっているのに!」
「優秀な遺伝子でも孕まないなんて揚羽は不能だ!」

 プライドの高いアルファたちの罵詈雑言が響くなか、揚羽はぼんやりと座っていた。
 妊娠しなかった事を喜ぶ感情すら麻痺したように動かない。
 自分の処遇が話されていることも、もうどうでもよかった。
 そして、その日。
 揚羽は一冊の通帳だけを渡され屋敷を追い出された。
 渡されたと言っても、手切れ金のつもりなのだろう。
 ぼんやりとした揚羽の着物の合わせにねじ込み、屋敷から離れた街中に揚羽を放り出した。
 歩く気力も沸かずに放り出された道の路肩に蹲って膝を抱えていた。
 着物姿の男がそんな所にいれば、何か厄介事かと周りの人間たちが揚羽を避けていく。
 そうこうしているうちにポツポツと雨が降り出し、ついには土砂降りになった。
 どれくらいそこにいただろう。
 息が荒くなり冷えているはずなのに、熱い。

「熱、出てきたかな」

 そう思ったけれど、それももうどうでもいいような気がした。
 本当に、もうどうでもよかった。
 ただ、奈夏ともっと話したかったと思う。

「会いたいな……」

 けれど本家になど会いになんて行けるわけがなかった。
 こんなにも汚い自分が次期当主と会っていたこと自体が奇跡なのだ。

「でも、会いたいよ」

 視界が雨のせいだけでなく滲んで、熱い指先でそれを拭った。

「……そういえば猫」

 奈夏になついていた子猫のことを思い出した。
 あんなに小さくて大丈夫だろうかと思い、しびれた足でよろよろと立ち上がった。
 ここから公園までは十分ほどの距離だったが重い体と濡れた着物が言う事をきかず、のろのろと倍の時間をかけて公園へとたどり着いた。
 入口のチューリップが撤去されていて、花壇は茶色い土がむき出しになっている。
 公園のなかへ入り二人で過ごした大木の前まで来ると、それはすでに葉桜になっており雨粒を弾いている。
 きょろりと周囲を見渡したが、子猫の姿はなく鳴き声もしない。
 もしかしたらちゃんと寝床があるのかもしれない。
 それならそれでよかった。
 脳みその沸騰しそうな熱さに視界がぐらぐらする。

「ななつ」

 もう立っていられなかった。
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