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本編

第五十二話

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 会長と想いを伝え合ったあと僕は安心したのと泣き疲れたのか、会長にくっつきながら眠ってしまった。
 起きたらちゃんと布団に横になっていたので、会長が寝かせてくれたのだろう。
 目が覚めて一番先に思ったのは「会長がいない!」だった。
 帰ってしまったのかと泣きたくなったが……良い匂いがする?

「起きたか?」

 キッチンの方から会長が顔を覗かせた。

「会長!」

 よかった、帰ってなかった!
 嬉しくなって飛び起きた。
 キッチンまで行くと、会長はどうやら晩ご飯を作ってくれていたようで……。

「生姜焼きだ!!」
「約束していただろう?」
「やったー!」

 既に美味しそうな生姜焼きとサラダ、味噌汁が出来ていた。
 生姜焼き定食だ!

「体調はどうだ? 食べられるか?」
「はい! 今日は何も食べていないのでお腹がすきました!」
「……は? 朝はどうした?」
「食べてません」
「食べろ。朝食には脳や身体機能をウォーミングアップさせる効果が……」
「はい! 分かりましたー!」

 お説教が始まりそうな気がしたので良い子な返事で強制終了させて貰った。

「本当に分かっているか?」
「もちろん!」
「……」

 疑いの目、ってこういう目のことだと思う。
 信じてないなー。

 ちゃぶ台の方に運び、食べる準備を整えた。
 このちゃぶ台は気に入っているけど、複数で使うには小さい。
 新しい物が欲しいな。

「会長、頂きます!」
「おう、食え」

 向かい合って頂ますをして、真っ先に生姜焼きに手を伸ばした。

「美味しい~!」

 思っていた通り、食堂で食べた生姜焼きよりも断然美味しかった。
 この生姜焼きはどんな僕の知らない未知の手法で作られたのだろう。
 僕の中では材料を切って生姜焼きのタレをかけて焼くだけだが、会長のこれはきっと違うんだろうな。

「お前は美味そうに食うな」
「だって本当に美味しいから!」

 あっという間に生姜焼きばかり食べてしまって、他が残った……。
 お皿に残ったタレが美味しいので、ご飯にかけて食べたら駄目かなと思ったのだが行儀が悪いと怒られた。
 お母さんが厳しい、辛い。

「会長に作って貰ってばかりだから、僕も料理が出来るようになって会長に食べて貰いたいなあ」
「それは楽しみだ」
「カップラーメンにお湯を入れるならすぐに出来ますよ」
「それは料理とは言わない」

 食べ物を作るのだから料理に入れてくれたっていいと思う!
 でも、僕も恋人が料理を作るといってカップラーメンを出してきたらキレそうなので抗議を受け入れることにした。

「そうだ。お前またカップラーメンを食っていただろ。後始末もされないまま残っていたぞ」
「あ。片付けるの忘れてました」
「暫くカップラーメンは禁止だ。お前は栄養が偏りすぎだ」
「ええ! じゃあ僕、餓死しちゃいます!」
「何でも良いから作れ。俺も出来るだけ一緒に作る」
「……はい」

 一緒に作ってくれるのなら頑張ろうかな。
 明日料理の本でも探してみようかな。



 ご飯を食べ、片付けが終わると待ちに待った知育菓子作りタイムだ。

「会長! お寿司作りましょう!」
「ああ。やっとだな。もう吹き飛ばすなよ」
「あはは! やりませんよ」

 思い出すと笑ってしまった。
 あれは本当にいい吹き飛ばしっぷりだった。
 駄目だ……ジワジワくる……ふはは。

「そうだ、貴久先輩が勝手に開けたお詫びでいっぱいくれたから会長も何かやりましょうよ」
「ああ、これか。……お詫びにしても多くないか?」
「僕が凄く怒ったからだと思います。一生恨むって言っちゃったんですけど、会長に分かって貰えたからそろそろ許してあげようかな」

 そう呟くと会長が面白そうに笑った。

「いや、そのままでいいだろ」

 そうかな?
 会長がそう言うのならそうしよう。
 ということで貴久先輩は無期懲役となりました。

「どれにするんですか?」
「いや、俺はお前が作るのを見ている」

 一緒に作ればいいのにと思いながらも無理強いをすることもなかと思い、作り始めたのだが……。

「会長、あの……」
「どうした?」
「やり辛い」

 ちゃぶ台に向かって知育菓子の中身を取り出し、作り始めた僕の真後ろに会長が座っている。
 僕は会長の股の間にいる感じだ。

「気にするな」
「します! 動きにくいんですよ」

 二人羽織でも始めるのかなというくらいにくっついているので腕がすぐに当たる。
 会長とくっつくのは嬉しいけど、今は念願の寿司作りに集中させて欲しい。

「おい、ちょっと待て」
「?」
「お前、それは水道水だろ」
「そうですけど」
「飲料水はないのか?」
「これです」
「それは水道水だ」
「飲めますよ?」
「……臭いだろ」
「そうですか? これしかないので、これで作ります」
「……」

 会長が何を言いたげな顔をしているが、見なかったということで。
 会長って割と神経質なのかな。

「おい」
「今度は何ですか?」
「水の分量のラインはそこだろ。超えているじゃないか」
「ほんとだ。でもちょっとだけだし。大体でいいじゃないですか」
「こういうものはちゃんと量れ。料理でもそうだぞ」
「細かいなー。えいっ」
「!」

 面倒なので、そのままシャリの粉に少し多めの水を混ぜた。
 また会長が何か言いたげな顔をしているが気にしません。
 しっかり混ぜて終わり、シャリの部分が出来た。

「シャリ完成!」
「ほら、べちゃっとしているじゃないか」
「……」

 小姑がいる!
 会長がうるさい……。

「じゃあ、会長がマグロをやってくださいよ!」
「いいだろう」

 シャリを貶されてイラッとした僕は会長にマグロの粉を渡した。
 邪魔だろうから避けようとしたのだが、会長は僕を股の間に挟んだままマグロを作り始めた。

「おい、作る順番が違うんじゃないか。一通り粉を出して素材を作ってからシャリを握ると書いてあるじゃなか」
「細かいことは気にしないでください」
「……」

 別に一つ一つ完成させていっても大丈夫だろう。
 僕はシャリを握りたかったのです。

 そして会長の手により完成した握り寿司のネタであるマグロは……。

「凄く綺麗」
「粉を混ぜて伸ばしただけだ」
「そうですけど……」
「むしろこれだけの作業で失敗する方が難しい」
「……」

 もしかして僕は喧嘩を売られていますか?
 勝てないから絶対買わない。

 会長のマグロは少し離れて見ると本物と間違えそうなくらいに綺麗だった。
 悔しい、UMAは何をやってもUMAだった。
 僕が作ったシャリに乗せてみると、完成度の違いが余計に際だった。

「シャリが汚いから寿司としては最悪だな」
「! 汚い……!?」

 一生懸命作ったのに、そんなストレートに言うことないじゃないか!
 本当に楽しみにしていたのに……楽しみにしていたのに!

「楽しくない!」
「くくっ……!」

 拗ねて怒ると、会長が楽しそうに笑った。
 だから僕は楽しくないんだってば!
 たまごも会長に任せると、また完成度の高い綺麗なたまごが出来た。
 UMAの才能が憎い。

 もう止めようかなと思ったけど、残っているいくらは楽しそうな作り方だったので思わず手が伸びた。
 二種類の液を作り、スポイト片方の水を吸ってもう一つの方へ落とすといくらのようなゼリーになるのだ。
 ぽとぽとと水を落とすと……本当にいくらになった!

「いくら楽しい! 凄い!」
「サイズがバラバラだぞ」
「もういいから黙って見てて!」
「面白そうだな。貸してみろ」
「嫌です!」

 僕の楽しみを取らないで欲しい。
 後ろから伸びて来た手をぺしんと叩きスポイトを遠ざけた。

「全く、だから他のをすれば良かったのに……。!?」

 愚痴っていると、叩いた手が脇や脇腹で動いた。
 こちょこちょと動いて……くすぐられている!
 僕はくすぐられるのに弱いのだ。

「ちょ……くすぐったっ、あははっ! かいちょ、ほんとにくすぐった……ああああ!?」
「!!!!」

 くすぐったくて暴れた足が『ガンッ!』とちゃぶ台に当たり、上に乗っていた物が全部落ちてしまった。
 完成していたマグロやたまごのにぎりも分解して落ちている。
 いくらのグミも液と一緒に散らばっている……無残。

「……会長……会長!!!!」

 僕はすぐに振り向いて、会長のシャツを掴んで抗議した。
 どうしてくれるんですか!
 今度は笑い事じゃない!

「俺が悪いのか?」
「そうですよ! くすぐったでしょ!」
「シャリの時点で失敗していただろ!」
「!! ひどい……」

 会長の胸で泣いているフリをしてやった。
 本当は泣いていないとバレているのか、全然慰めてくれないし。

「またリベンジするか?」
「もういいです!」

 知育菓子なんてもううんざりだ。
 完成しているお菓子の方が美味しいんだから!
 こんなはずじゃなかった……。
 上手に出来たね、と二人で笑い合って素敵な思い出になるはずだったのに……!
 ここに来るまでにあんなに大変な思いをしたのに……あんまりだ!



「服も濡れたし。このままお風呂……あ、お風呂一緒に入りましょう!」
「……え」
「今度背中流すって言ったじゃないですか」

 もう忘れてしまったのだろうか。
 言ったのは会長だぞ? と首を傾げながらお湯はりのスイッチを押した。

「そうだな……」
「どうしてそんなに嫌そうなんですか」

 会長は眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。
 これを見るとどうしてもグリグリと解したくなる。
 指を伸ばしたら、鬱陶しそうに避けられた。
 なんでだ……。

「嫌なわけがないだろう……」
「じゃあ、その眉間の皺を取ってください」
「それは無理だ」

 あまり乗り気には見えないが、一応一緒に入ってくれるようで着替えの準備を始めている。

「悟りを開けそうだな……」
「?」

 何か言っているの振り返ると、僕が寝ている間に取ってきたという鞄に頭を突っ込む勢いで項垂れたいた。
 鞄に入るつもりですか?
 鞄に入ることの出来る芸人さんはいるけど、会長の体格だと無理だと思います。

 僕も着替えの準備を済ませ、前の家にはなかった脱衣所に来た。
 会長も鞄に入るのを諦めたのか、とぼとぼとやって来た。
 何も考えずにポイポイと服を脱いでいるとこちらを見ている会長と目が合った。
 何故か脱がずに固まっている。

「どうしたんですか?」
「いや……」
「?」
「今日は駄目だ……あんなことがあったんだ……今日は絶対に……」

 会長が何かブツブツ呪文みたいにつぶやいているけど……恥ずかしいのかな、と思ったところで気がついた。
 男同士であまり気にしなかったけど、僕達は恋人同士だった……。
 会長の、好きな人の裸を見ることになる!
 というか……もしかして僕が誘ってるとか思ったのかな!?
 違うんですよ! と言いたいけれど、そういうことを口にしてしまうと余計に意識してしまいそうで……。

 うん、何も気にしないことにします!
 「気にしない! 気にしない!」と心の中で繰り返しながら全部脱いだ。

「会長、先に入ってますね!」
「あ、ああ」

 タオルを持って、スタスタと浴室に入った。
 ……多分、普通に出来たと思う。
 見るのも恥ずかしいけど、見られるのも恥ずかしいな……。
 早く出るようにさっさと頭も身体も洗ってしまうことにした。

 まず頭から洗い、身体を洗っていると会長が入って来た。
 ドキッとしたけれど……「気にしない、気にしない」。
 サッとシャワーで流し、僕はもう湯船に浸かって出るだけになった。

「会長、ここどうぞ!」

 シャワーの前を会長に譲り、僕は後ろに下がった。
 その時に会長の身体を見てしまった……。

 佐野山のようなゴツさはないけれど、無駄のない筋肉がついた引き締まった身体をしていた。
 カーッと一気に顔が赤くなったが、浴室の熱気とオレンジの光が顔が赤いのを誤魔化してくれそうだ。

「頭も洗いましょうか?」
「どっちもでいい……」
「投げやりはやめてください。じゃあ、洗いますね」

 疲れている様子の会長に風呂椅子に座って貰った。
 まだドキドキして緊張するけど、会長の髪を洗えるなんて嬉しい!

「シャワーの温度、熱かったら言ってください」
「水でもいいぞ」
「風邪ひきます」

 僕も顔から出た熱を冷ますのに水を被りたいから気持ちは分かるけど、会長が風邪をひいたらたいへんだ。
 でも会長の看病とかやってみたいな。

 会長の髪は相変わらず綺麗だった。
 水に濡れると柔らかくてシルクのようだった。

 シャンプーをつけて、ガシガシと会長の頭を洗う。
 ……楽しい!
 会長の世話をしていると思うと、男だけど奥さんになったような気がしてきた!

「痒いところはないですか」
「ない。早く出たい」

 そんなに嫌か?
 照れているだけだと思っていたけど……違うのかな。
 僕は恥ずかしいけど嬉しいのにな。
 拗ねて意地悪をしたくなった。
 凄く時間をかけて洗ってやろう。

「はい、終わりました」
「……」

 思う存分会長の髪の感触を楽しんでやった。

「次は身体ですね」
「自分でやる」
「背中は僕がしますよ」
「……なら先にやってくれ」

 ぐったりしている会長が、「ひと思いに殺してくれ」と言っているような声色で頼んできた。
 まるくなっている会長の背中を、身体を洗う用のタオルでゴシゴシこする。
 僕とは違って男らしい背中が羨ましくなりながら呟いた。

「背中、広いですね。お父さんみたい」
「お父さん!?」
「?」

 一瞬猫背になっていた背中が伸びたが、すぐに戻った。
 背中だけ洗い終わったのでタオルを会長に渡し、僕は湯船に浸かった。
 会長が身体を洗う様子を浴槽の縁にあごを置いて眺めた。

 ドキドキはずっとあるけれど、慣れてきたのか余裕が出てきた。
 今凄く貴重な光景を見ているようで、見逃すのは勿体ない気がして見てしまう。

「見過ぎだ」
「えへへ」

 笑って誤魔化したのだが、会長は居心地が悪いようでまた眉間に皺が出来ている。
 あとでマッサージをしなきゃいけないな。

 居たたまれないのか、雑に身体を洗うと会長も浴槽に入っていた。
 端と端で向かい合うようにお湯に浸かる。
 
「広いと思っていたけど……一緒に入ると狭いですね」
「……」
「会長?」
「……」
「会長ー」

 呼んでも全く反応はない。
 目は開いているけど湯船を睨んでいる。
 そんな姿も格好良いけれど無視をされるのは辛い。

 僕は組んだ手に水を入れて飛ばす、手の水鉄砲が得意だ。
 手を組んだ隙間に沢山お湯を入れ、えいっと会長の方に飛ばすと思い切り会長の顔にかかった。

「あ、ごめんなさい」

 ちょっとわざとです。

「……」

 それでも反応がない。
 え……大丈夫!?

「会長!! 死なないでください!!」
「生きている!! ちょっと黙ってろ!! 俺は戦ってんだよ!!」

 何と!?

 ……煩悩?

 えっと……気軽に誘ってごめんなさい。

「もう僕は出ますね」
「ああ、俺も出る」

 なんだかいつもよりも身体が火照ってしまった。
 熱いなあと思いながらバスタオルで身体を拭いていると、会長の視線を感じた。

「会長?」

 眉間に皺が寄っているのはさっきと一緒だが……空気が変わっている。
 怒っている?

「やっぱりそれは許せないな」
「え? わっ」

 腕を掴まれて会長の近くに引き寄せられたかと思うと両腕をガッチリと掴まれ、固定された。
 急に何だと思っていると、会長の顔が僕の首元にくっついて来て……チクッとした痛みが走った。

「ふわ!?」

 突然のことでパニックになったけど、腕を固定されているので逃げられない。

「なっ……やめっ……!」

 チクッとしたのは首だけじゃなく、鎖骨の辺りや胸元の方まで……。

 腕が解放された瞬間、力が抜けてペタンと床に座ってしまった。

「な、ななっ……」

 顔が熱いのはお風呂のせいじゃない。
 なんで……!?
 見上げて会長を見ると、シラッとした顔をしていた。

「上書きしてやった」
「え?」

 上書き?
 あ……そういえば……今チクッとした場所は全部佐野山に痕をつけられた場所だった。
 そういうことか……。
 でも、でも……!!

「こんなこと、はっ、裸の時にしなくてもいいじゃないですか!!」
「!」

 涙目になりながら叫ぶと、会長も我に返ったのか狼狽え始めた。

「そ、そうだな……」

 オロオロとしている会長にバスタオルを投げつけたい衝動を我慢しながら急いで服を着た。

「自分の首を絞めてどうするんだ!」

 何か叫んでいる会長を放置して、先に脱衣所を出た。
 お風呂に誘ったのは失敗だったかもしれない。



「ドライヤー」
「ありません」

 暫くしてから脱衣所から出てきた会長が呟いたが、前もなかったのだから覚えていて欲しい。

「仕方ない。しっかり拭いておくぞ。お前、まだ濡れているだろう」
「そうですか? これくらいあとは自然乾燥に……わあ」

 喋っている途中だったのに、会長に乱暴に頭を拭かれた。
 ぐらんぐらんと頭が揺れるー。
 揺さぶられっこ症候群という言葉が頭に浮かんだ。
 赤ちゃんじゃないから大丈夫だと思うけど、僕が赤ちゃんだったら危険だったぞ。

「やっぱりお前の髪は綺麗だな」
「会長。前にその台詞はやり直してくださいって言ったでしょ」

 ドキドキさせられる台詞だったので、「そなたは美しい」でリテイクを頼んだはずだ。
 これもちゃんと覚えていて欲しい。

「お前は美しい、だったか」
「わー、偉そう」

 意味的には一緒だけれど……印象が全然違う。
 キャラが変わってしまったじゃないか。

 お茶を飲んでダラダラしていると十一時を過ぎていた。
 まだ早いが布団に入りたくなった。
 会長と一緒に寝るのは好きだ。
 また修学旅行みたいに話したい。

「布団でゴロゴロしてお話ししましょう! 寝落ちしましょう!」
「彩斗に返事をするから先に寝ていろ」
「えー……」

 断られてしまった。
 ショックだ……!
 でも副会長とのやりとりを邪魔するわけにはいかない。
 終わるのを待っていよう。
 ……というかそれ、布団の上でも出来ません?

「会長! ここでやってください」

 僕が寝転がっている隣をバンバン叩くと会長はクスリと笑い、望んだ通りに隣に腰を下ろしてくれた。
 満足して僕は寝転がり、枕に頭を置いた。
 身体を横に向け、スマホを操作している会長の顔をジーと見上げるようにして眺めた。

「なんだ?」
「格好良いなと思って」

 会長に死角はないようで、斜め下から見上げても格好良かった。

「……」
「あはは」

 会長は照れているようでそわそわしている。

「からかうな」

 なんだか会長が可愛くて、座っている会長の腰にぎゅっと抱きついた。
 そんな僕を見て会長がまたクスリと笑った。
 背中をポンポンと叩くと、またスマホに視線を戻した。

 このまま放置ですか。
 いいんだ、このままくっついていてやる。

 会長の体温を感じるまま、何も喋らずにボーッとしながら時間が過ぎた。
 三十分くらい経ったところで、段々瞼が重くなってきた。

「どうしよう……眠くなってきました……」
「寝ろ」
「嫌です。全然喋ってない……」
「話なんてこれからいくらでも出来るだろ」
「そう……ですね……」

 確かに今日はまだ付き合って一日目だ。
 これから時間は沢山ある。
 納得すると余計に眠くなってきた。

「手、握ってください」
「今は無理だ」
「泣いてやる……」

 今日は手を繋いで寝たいなと思っていたのに。
 まあ……でも……それもいつでも出来るなあ。

「泣かれるのは困るな」

 会長が笑っているけど、もう何を言っているか分からなかった。
 僕は先に寝ます……。

 頭を撫でてくれる優しい感触を感じながら眠った。

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