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第9話 美少年と犬の奮起
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強くなる! と決意したリアムは、騎士団長に鍛えて欲しいと頼みに行った。
もちろん、俺も一緒だ。
なめた態度をする者は噛みついてやる。
ちなみに、人前に出るときはずっと犬の姿でいる。
人の姿になれるというのは、切り札として取っておくことにした。
騎士団の本部に赴き、騎士団長を呼んだが不在だった。
いつなら会えるのか尋ねても、はっきり答えてくれなかったので、リアムと会ってくれるつもりはないのだと察した。
「騎士団には王妃様派閥の者が多いらしいし、先回りされたのかもね」
リアムが苦笑いで呟いた。
狩猟大会に出ることになったから、騎士団に教えを請いにくることは予想していたのかもしれない。
「まあ、諦めずにお願いしにくるよ。騎士団長を通さなくても、こっそり教えてくれる騎士がいたらいいけどなあ」
「リアム……」
強がっているような笑顔が痛々しい。
おのれ、騎士団め……。
弱い者に手を差し伸べるのが騎士道じゃないのか。
心の中で、騎士団にも動物アタックをすることに決めた。
よし、鳩ども! 騎士が訓練していたら糞を落としにいけ!
リアムは諦めず、何度も騎士団を訪れた。
だが、騎士団長につないで貰えないのはもちろん、一般の騎士たちまでリアムの軽くあしらうようになった。
この国に本物の騎士はいないようだ。滅ぼしてもいいな?
鳩たちはとてもいい仕事をしているようで、この数日、騎士団本部で訓練をすると、鳩に糞を落とされると話題になっていた。
他の場所で訓練をしているようだったが、これからは他の場所でも騎士には容赦なく糞を落とすように指示しよう。
それから数日間――。
リアムは騎士団を訪れて粘ったが、受け入れてくれる騎士はいなかった。
「自己流でやってみるね」
そう言ってリアムは体力づくりを始めた。
走るリアムと一緒に並走しながら決意した。
――騎士団は滅茶苦茶にしよう
国民の平和を守るには必要?
大丈夫、標的は城の近くにある本部勤めの騎士だけだし、殺すわけじゃないから。
なんなら、自警団とかに活躍の場を奪われて、王都民にもポンコツだ罵られるといい。
動物たちとのミーティング、楽しみだなあ。
※
その日の夜、俺は鳥を呼び出した。
『鳥ぃ、リアムを強くするいい方法ない?』
『気軽に呼び出すのはやめて欲しい、と伝えたはずだけれど?』
木の枝にとまった鳥が、美しい尾を揺らしながらうんざりしている。
『だってさあ、人間が俺の可愛いリアムに冷たいんだよ』
『アベルが妨害しているから、人間の協力を得るのは難しいでしょ。あなたは神獣なのよ? あなたが鍛えたらいいじゃない』
確かに俺が人の姿になったら、剣の訓練などもできると思うが……。
『リアムが勇気を出してがんばったんだ。やっぱり駄目か、じゃなくて、勇気を出してよかった! って思って欲しかったんだよ。俺は』
騎士団にお願いする、というのは、ただ鍛えるわけではなく、リアムにとっては自ら社会に参加するという意味もあった。
離れたところでひっそりと暮らしていたリアムが、勇気を出して人の輪に入ろうとしたのだ。
それを台無しにしやがって、殺意しか湧かない。
『その感情は抑えた方がいいわ。あなたを慕うものは、あなたの意志だけじゃなく感情にも従うから』
『え、俺が指示しなくても、人間死ね! って思うだけで、動物たちが人間を攻撃するようになるってこと?』
『願い、になるほど強い感情ならね』
『そうなんだ……』
それは気をつけないといけないな。
物騒なことを強く願うような事態が起こらないといいが……。
『仕方ないから教えてあげましょう。リアムの指導に適している人間がいるわ』
『え、本当か!?』
鳥が教えてくれたのは、城がある王都を離れた村に住む一人の男だった。
その人は、前騎士団長と揉めて、騎士を辞めた者だという。
『噂を聞いて、興味が湧いて見てきたの。人間にしては大したものだったわ。師としても申し分ないでしょう。だから、リアムを連れて行ってあげなさい。根性がなければ相手にされないでしょうけど』
『鳥……ありがとう! でも、アベルの師匠にしなくてもいいのか?』
『根性がなければ相手にされない、と言ったでしょう? それに、権力を振りかざすことを嫌う人物だから、アベルは駄目ね』
『主をシビアに見ているな……』
『所詮人間だもの』
相変わらず鳥は人間を見下しているようだ。
『お願いに行くときは、一人で行かせなさい。王子として行ってはだめよ』
『分かった。親切にありがとう。本当に助かっている』
お礼を言うと、鳥の空気が柔らかになった。
鳥だからあまり表情は分からないが、結構喜んでいるようだ。
『王のお役に立ててなによりだわ。もう呼ばないでくれたら、助かるのだけど』
『極力呼ばないように心がけるよ』
『あなたから来るのはいつでもいいわ』
鳥はそう言うと、夜空に飛び立っていった。
『ツンデレか』
リアムの宿敵といえるアベルの聖獣だが、鳥とはこれからも仲良くしたいものだ。
もちろん、俺も一緒だ。
なめた態度をする者は噛みついてやる。
ちなみに、人前に出るときはずっと犬の姿でいる。
人の姿になれるというのは、切り札として取っておくことにした。
騎士団の本部に赴き、騎士団長を呼んだが不在だった。
いつなら会えるのか尋ねても、はっきり答えてくれなかったので、リアムと会ってくれるつもりはないのだと察した。
「騎士団には王妃様派閥の者が多いらしいし、先回りされたのかもね」
リアムが苦笑いで呟いた。
狩猟大会に出ることになったから、騎士団に教えを請いにくることは予想していたのかもしれない。
「まあ、諦めずにお願いしにくるよ。騎士団長を通さなくても、こっそり教えてくれる騎士がいたらいいけどなあ」
「リアム……」
強がっているような笑顔が痛々しい。
おのれ、騎士団め……。
弱い者に手を差し伸べるのが騎士道じゃないのか。
心の中で、騎士団にも動物アタックをすることに決めた。
よし、鳩ども! 騎士が訓練していたら糞を落としにいけ!
リアムは諦めず、何度も騎士団を訪れた。
だが、騎士団長につないで貰えないのはもちろん、一般の騎士たちまでリアムの軽くあしらうようになった。
この国に本物の騎士はいないようだ。滅ぼしてもいいな?
鳩たちはとてもいい仕事をしているようで、この数日、騎士団本部で訓練をすると、鳩に糞を落とされると話題になっていた。
他の場所で訓練をしているようだったが、これからは他の場所でも騎士には容赦なく糞を落とすように指示しよう。
それから数日間――。
リアムは騎士団を訪れて粘ったが、受け入れてくれる騎士はいなかった。
「自己流でやってみるね」
そう言ってリアムは体力づくりを始めた。
走るリアムと一緒に並走しながら決意した。
――騎士団は滅茶苦茶にしよう
国民の平和を守るには必要?
大丈夫、標的は城の近くにある本部勤めの騎士だけだし、殺すわけじゃないから。
なんなら、自警団とかに活躍の場を奪われて、王都民にもポンコツだ罵られるといい。
動物たちとのミーティング、楽しみだなあ。
※
その日の夜、俺は鳥を呼び出した。
『鳥ぃ、リアムを強くするいい方法ない?』
『気軽に呼び出すのはやめて欲しい、と伝えたはずだけれど?』
木の枝にとまった鳥が、美しい尾を揺らしながらうんざりしている。
『だってさあ、人間が俺の可愛いリアムに冷たいんだよ』
『アベルが妨害しているから、人間の協力を得るのは難しいでしょ。あなたは神獣なのよ? あなたが鍛えたらいいじゃない』
確かに俺が人の姿になったら、剣の訓練などもできると思うが……。
『リアムが勇気を出してがんばったんだ。やっぱり駄目か、じゃなくて、勇気を出してよかった! って思って欲しかったんだよ。俺は』
騎士団にお願いする、というのは、ただ鍛えるわけではなく、リアムにとっては自ら社会に参加するという意味もあった。
離れたところでひっそりと暮らしていたリアムが、勇気を出して人の輪に入ろうとしたのだ。
それを台無しにしやがって、殺意しか湧かない。
『その感情は抑えた方がいいわ。あなたを慕うものは、あなたの意志だけじゃなく感情にも従うから』
『え、俺が指示しなくても、人間死ね! って思うだけで、動物たちが人間を攻撃するようになるってこと?』
『願い、になるほど強い感情ならね』
『そうなんだ……』
それは気をつけないといけないな。
物騒なことを強く願うような事態が起こらないといいが……。
『仕方ないから教えてあげましょう。リアムの指導に適している人間がいるわ』
『え、本当か!?』
鳥が教えてくれたのは、城がある王都を離れた村に住む一人の男だった。
その人は、前騎士団長と揉めて、騎士を辞めた者だという。
『噂を聞いて、興味が湧いて見てきたの。人間にしては大したものだったわ。師としても申し分ないでしょう。だから、リアムを連れて行ってあげなさい。根性がなければ相手にされないでしょうけど』
『鳥……ありがとう! でも、アベルの師匠にしなくてもいいのか?』
『根性がなければ相手にされない、と言ったでしょう? それに、権力を振りかざすことを嫌う人物だから、アベルは駄目ね』
『主をシビアに見ているな……』
『所詮人間だもの』
相変わらず鳥は人間を見下しているようだ。
『お願いに行くときは、一人で行かせなさい。王子として行ってはだめよ』
『分かった。親切にありがとう。本当に助かっている』
お礼を言うと、鳥の空気が柔らかになった。
鳥だからあまり表情は分からないが、結構喜んでいるようだ。
『王のお役に立ててなによりだわ。もう呼ばないでくれたら、助かるのだけど』
『極力呼ばないように心がけるよ』
『あなたから来るのはいつでもいいわ』
鳥はそう言うと、夜空に飛び立っていった。
『ツンデレか』
リアムの宿敵といえるアベルの聖獣だが、鳥とはこれからも仲良くしたいものだ。
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