ろくぶんのいち聖女~仮初聖女は王弟殿下のお気に入り~

綴つづか

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聖女の証明①

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 地魔法で屋敷の一部を倒壊させ、何事かとわらわら外に出てきた誘拐犯一味を広範囲風魔法で一網打尽。それが地震の真相だった。
 ルクス殿下の側近一同も、後から応援に駆け付けたキルギス伯爵と私設兵団もあんぐりと口を開けたそうだ。エマ様など、挽回の機会と意気込んでいたにもかかわらず、活躍の機会が与えられなかったとプンスコしていた。

 あれから、私が目覚めたのは、柔らかなベッドの上。カーテンの隙間から差し込む鈍い光が眩しく、小鳥の囀りすらも愛らしい。酷い環境で寝起きしていたから、地味に感動を覚えてしまった。身を起こし、うーんと背伸びする。まだ少し節々は痛いが、体調もよくなった。
 朝食を持って訪れたエマ様から話を聞くと、ここはキルギス伯爵のお屋敷を間借りしているとのことだ。

 犯人たちのアジトは、キルギス伯爵領とグラハム子爵領の間に広がる黒の森と呼ばれる樹海の中にひっそりとあったらしい。キルギス伯爵は自分の領地のすぐ傍に、人身売買組織が潜んでいたとはとたいそう憤慨されていた。あの屋敷の規模から貴族が手を貸しているのだろうなと思っていたけれど、案の定グラハム子爵がお縄についたという。
 そして、グラハム子爵の口から漏れた人身売買を秘密裏に主導していた貴族の名は、ターナー。側妃様のご実家の侯爵家だった。

 朝食後、誘われた茶の席で、ルクス殿下は私の身に起きた一連の事態を、懇切丁寧に説明し始めた。昨日、私への好意を口にした、やたら色気垂れ流しの姿は見る影もない。やっぱり夢だったか。うん。

「君の魔力は広がりに変化があるから、ブレスレットもネックレスもない中、中心を探すのに苦労した。治癒魔法を使ってくれて助かったよ。おかげで位置が特定できた」
「はあ……」

 元々私が攫われた大まかな方角は魔力の広がりからわかっていたそうで、最も近場のキルギス伯爵に協力を要請しつつ、ルクス殿下は針に糸を通すような探索を進め助けにきてくれた。
 ルクス殿下はさも簡単に言うけれども、たった一人の人間のあやふやな魔力を遠隔で捉えたという辺りがまずおかしい。それに、転移魔法だって、かつて訪れたことのある場所や、あらかじめ魔法陣を用意した方が負担が少ない。それを即興で座標を定め、不安定な中無理矢理飛んできたというのだから、人間業か?と疑いたくなる。ありがたさや感慨深さよりも、並外れた捜索手腕とのインパクトに驚きが込んでしまった。
 が、やはりかなり無茶に無茶を重ねたみたいで、あの後私をベッドに寝かせるとルクス殿下もとうとう膝をつき、側近たちに叱られ寝室に押し込まれたそうだ。
 私とルクス殿下は、お互いベッドでぐっすり寝て元気、側近一同は殿下が派手にやらかした後処理に追われ、ほぼ徹夜で駆けまわり些か憔悴気味である。

「……ところで、私の魔力って、そんなに不思議な状態になっているんですか? 広がる魔力とは一体……。あ、だから、殿下は常々面白いって言っていたんです?」
「うん。君、気づいていないけど、浄化の常時発動魔法スキルが、今もこの周辺を漂っているから。周囲の魔物はたまったものじゃないだろうね」

 今日の天気でも伝えるかのような気軽さで、ルクス殿下は度肝を抜く話を口ずさんだ。
 すぐに咀嚼できなかった私は、しばらく目をぱちりと瞬かせる。

「え、えええ!? 浄化スキルって何ですか!?」
「伝承にある『聖女』にだけ備わる聖魔法だねえ。君にはスキルとして現れたみたいだけど」
「聖魔法って、え、初耳なんですけど!? 聖女イコール治癒魔法じゃないんですか!?」
「残念ながら、治癒は聖女固有の魔法ではないからね。僕は最初から何度も言っているじゃないか。ユユア嬢、君が聖女だと」

 ルクス殿下は、ごく真面目な顔でそう口にする。だけど、そんな簡単に信じられるはずがない。

「……だって、殿下はグラマティク公爵令嬢と抱き合っていたじゃないですか。あれは、彼女が正しく聖女だからじゃないんですか?」
「いや、待って、どうしてそういう思考に? 香水臭いアレと抱き合うとかありえないんだ………………あああ、もしかして庭園!? あれ、見られていたのかい? 凄いタイミングだな……。言い訳させてもらうと、もの凄い勢いで僕に飛び込んできたグラマティク公爵令嬢を、仕方なく抱きとめてエスコートしただけだよ。一応王族に連なる身だから、避けて怪我でもされたらことだし、無碍にもできなくてね。それだけだ」
「ほんと、に……?」
「本当に本当。あの時の僕の表情、めちゃくちゃ無だったんだけど、そこは見てなかったのか……」

 真相がわかると、私が盛大に誤解していただけなのが明るみになった。ミレディ様に気持ちを持っていかれたわけではなかったのは嬉しいが、私はあまりの恥ずかしさに頭を抱えた。

「う、わ………私ったら……。範囲治癒魔法を使えるグラマティク公爵令嬢の魔力が珍しいから、てっきりもう私はお役御免なのかなって……」
「僕が君を手放すなんて、絶対にありえない。それに、グラマティク公爵令嬢の光魔法が効いたのは、ひとえに君の浄化の下地があったからだよ。え、もしかして嫉妬してくれていたの……? それは嬉しい誤算だ」
「ちっ、違います……! 違いますから! そういうんじゃなくて……」

 そういうんじゃないも何も、実際はまがりなりにも嫉妬なので、私はその後の言葉が続けられずにあうあうしてしまった。ルクス殿下は、によによと意地悪そうに、でもとても機嫌よさそうに唇を緩めている。


「役割だからでも冗談でもふかしでも偶像でもなく、紛れもなく君が、この国唯一、僕が見つけた聖女だよ」


 優しく諭すようなルクス殿下の口調が、じんわりと胸に染み渡った。




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