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 時雨さんがまた形の良い眉をハの字にして、どこか呆れたように笑って見せるから。俺は一瞬、その表情を見て不安になってしまう。

 だけど──。

「春はバカだね。そんなの、好きに決まってる」

 時雨さんが困ったように笑いながら好きだと言ってくれたけれど。でも俺はまだ、どうしても胸の中がモヤモヤしたままで。

「泰史さんのこと、忘れられてないんじゃないですか……?」

 すると時雨さんが俺をベッドの横に座らせてぎゅっと抱きしめた。頭から抱え込まれるように肩にうずめられて抱きしめられる。
 先ほどまでの口淫で熱く疼いている身体がビクッと震えた。

「もう僕には、春だけだよ?」

 その言葉が嬉しくて俺の瞳から涙がこぼれた。

「俺も、俺も時雨さんが好きなんです……離れていかないで……お願い……」

 時雨さんが俺の頭を撫でた。
 そのまま手が頬に滑り親指の腹で涙を拭いながら、そっと撫でられる。

「離れるわけがない。むしろ、春が離れていかないで?」

「俺が離れるわけないじゃないですか……」

 俺は涙を拭って床に置いたままだったお粥を手に取る。
 すっかり冷めてしまったそれをレンゲに乗せて時雨さんの口元に運んだ。時雨さんがそっとそれを制して。

「春、愛してるからね?」

 確認するように再び頬を撫でられた。

「俺も愛してます。時雨さん」

 その言葉で時雨さんが口を開けてくれて、お粥を完食させると薬を飲ませてそっと布団をかけた。
 眉根を寄せて俺を見つめてくる。

「ごめんね、春。僕だけしてもらって構ってあげられなくて……春を抱いてあげたいんだけど、風邪、感染うつしちゃうから……」

「大丈夫です。元はと言えば俺の風邪なんですから。ゆっくり休んでくださいね。リビングにいるので何かあったら呼んでください」

 そう言って俺は寝室を出た。
 泰史さんっていう不安材料はあるけれど、それでも今、時雨さんが見てくれているのは確かに俺だってわかったから。

 嬉しくなってダイニングテーブルに座ってニコニコしていた。
 時雨さんがどうか、ずっと俺を見てくれますように。
 飽きたらポイなんて、するはずがない。

 そう願ってやまなかった。
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