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「あー! 時雨さんこのお菓子何ですか⁉」

「ごめん春、どうしても患者さんから断れなくて貰ってきてしまって……」

 時雨さん、やっぱりモテるんだ。
 こんな、バレンタインでも何でもない日にお菓子を貰って帰って来るなんて。お菓子は長方形の箱に一粒チョコが八つ入っていた。

「休憩室に置いてこられなかったんですか?」

「看護師たちが持って帰れってうるさくて……ごめんね?」

 俺は面白くなくてムゥと下唇を上に上げた。
 時雨さんがモテるのはわかっていることだけど、やっぱり面白くない。

「春が食べて?」

「え?」

 俺はキョトンと時雨さんの顔を見つめた。

「僕は食べない。春を裏切ることになるからね」

 その言葉に俺はうるうると感動してしまう。
 パッケージを開けると一粒チョコを口に咥えた。

「ひぐれはん、ひぐれはん」と俺は時雨さんを呼ぶ。

「うん?」

 俺は時雨さんを手招きする。
 傍に時雨さんが近寄って来ると時雨さんの唇にチョコを押し込んだ。
 そのまま舌も絡めとり、二人の舌の上で溶けて行くそれは甘美で。

「んっ、ふ」

 二人の舌の上でチョコを溶かしきると俺はそっと時雨さんから唇を剥がした。時雨さんが名残惜しそうにちゅっと、触れるだけのキスを再度落としてくれた。

「あと七個、キスしよ?」

「それはキスだけで済むのかな?」

 俺はクスクスっと笑った。
 そんなの、愚問だよ時雨さん。

「済まない。抱いて? 時雨さん」

 時雨さんがフッと、いつもの笑みを見せた。

「じゃあ先に春を頂こうかな?」

 そう言って寝室へと手首を引かれるその力強い腕に、俺は時雨さんが愛おしいという気持ちが胸いっぱいに広がった。
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