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「――ひじりちゃん、聖ちゃん」

 肩を揺すられる感触に朧気にまぶたを開けると、目の前にどアップで時也ときやさんの顔が近付いていて、頭がじわじわと覚醒していく。

「と、きや……さん? 俺……」

「おはよう。身体大丈夫か? ぐっすり眠ってたけど、そろそろ家に帰んなくて大丈夫かな?って思ってさ。王子様のキスでも起きねぇから揺すぶっちまった。残念。身体は拭いといたけど気持ち悪くねぇか?」

「……あ、大丈夫です。……すみません。俺、時也さんと……っ、は、……ぅ」

 寝たんだ――と改めて思うと、途端に背筋に冷たい汗がしたたりそうになって、軽くパニックになってしまって呼吸が乱れるように浅くなると時也さんが背をさすってくれた。

「大丈夫だから、聖ちゃん。言ったろ? 俺は絶対死なねぇから。むしろ、俺が死ぬ理由がなんもない。自殺するようなタマでもねぇし。何を心配することがある?」

「……で、もっ……事故、とか……色んな可能性……」

 胸を押さえて過呼吸気味になるのを必死に抑えようとするけれど、意識すればするほどに胸が苦しくて。

 荒い呼吸を繰り返す俺を時也さんがそっと腕に収めた。

「もし、俺が死ぬんだとしたら……そうだな、多分……聖ちゃんに刺される時くらいだな。可能性としては」

「お、れ……が、刺す?」

「こんな風に抱いちまった後ですげぇ無神経だけどさ。自分で言うのもなんだけど、俺は〝覇王〟だ。仕事続けてる限り客とアフターとかがある。身体の関係も持つ。もちろん、美聖みさとさんも例外じゃない。聖ちゃんの完璧な恋人になれるかって言ったら多分なれないんだ。使命を果たさずナンバーワンの俺が店に穴を開けるわけにもいかねぇし……しばらく現役は続く。それでも聖ちゃんがそばにいてくれるか、それともこんな最低な男、殺してやるって思うか」

 時也さんの言うことはもっともだ。
 こんな風に抱かれて、俺は完全に時也さんに恋をしてしまっているから、仕事とは言え他の女を抱いているなんて耐えられるだろうか。

(まして、美聖とも……)

「聖ちゃんに刺されんなら本望だ。そんでもって聖ちゃんが罪悪感を抱かないように刺し違えて連れてく。疫病神になんてなりようがねぇんだよ。運命共同体って言っただろ?」

「俺は時也さんを殺しません……。ただ、そばにいて欲しいです……。それは、叶いますか?」

「ったりめーだ。でもな、ムカついたら殺してくれ。これは俺ん中での賭けだな。それくらいの覚悟で手を出したってことはわかって欲しい。どんな女と寝ようが心は聖ちゃんのもんだ」

(今度こそ、俺は疫病神にならない――)
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