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2章-学園入学と大事件-

43話 鉱石メダルの実力

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ダンジョンを生成する列に並ぶユリスとレイラは最終的にロックゴーレムの出現条件も同時に探るために6時の位置に嵌めるメダルを円から鉱石に変更することに。
ちなみに先程入手したアイテムは広場に一時預かり所があったのでそれを利用している。
現在は生成されたダンジョンが道中が先程と変わらなさそうだったため、雑魚敵をユリスが速攻で沈めて先を急いでいるところだ。

(最後の入ダンの締切時間は5時半だし、確実にもう一回潜るために急がないとな。目標は一周1時間ってとこか)

ダンジョンの入場に制限時間があるため急がないと次の探索が今日中に出来そうにないというのもあるが、道中のゴブリンやスライムは単純に身入りが不味いのだ。
それならばボスを周回した方が経験値的にもドロップ的にも美味しいのである。
しかし、ここでユリスは急ぐあまりに重要なことを見落としてしまっていた。
入ダンしてからおよそ1時間、ユリスの想定通りの時間で前回の半分の時間でボス部屋の前に到着していた。
ちなみにここまでのドロップ品には大した物がなかったので全スルーである。
ボスはロックゴーレムであったため、円のメダルは関係ない事が判明。しかし、さっさと次の周回に入りたいとユリスがものの数秒で倒してしまった。

「よし!
 これなら時間には間に合いそうだから、ここからはゆっくり行こうか」
「…は、はい」

(ちょっと速過ぎたか?
 だが、中級は規模も大きくなるし、今後を考えるとスタミナ強化はさせておかないと…)

ユリスは戦闘もこなしておきながら平然としているが、レイラには厳しいスピードだったようで、ついて来ただけで息が切れている。
ステータスでスタミナも強化されるが、基本的に素の能力を強化する作用の仕方なため、しっかり走り込みなどの基礎訓練をしていないとアビリティが同じでも差が如実に出るのだ。

「ドロップはさっきと同じか。
 レイラ、先に宝箱を開けておこう」
「ふぅ…分かりました。
 では、私はこちらにしますね」

2人は同時に開けるが、その瞬間レイラが飛び上がるようにして喜び始める。

「ユリスさん!やりました!鉱石ですよ!多分銅です!」
「おお、来たか!なるほど…3つね。
 サイズはこれでどんなレベルなの?」

(前回ドロップした魔鉱石よりもでかいが、汎用鉱石のスタンダードが分からないし、まだ判断は出来ない)

「そうですね、家で見たのよりも2回りほど大きいので、かなり大きなサイズだと思います。
 市場に出回っているサイズ3つ分くらいはあるんじゃないでしょうか?」
「なら9個分か…攻略報酬であることを考えると、これで王国全体を賄うのは大変そうだね。
 個人や小さい商会レベルだったら何とかなるかもしれないけど」
「そうですね…鉱石が採取できるダンジョンだと一度にもっと「採取?」……あ」
「……忘れてたね」

(確か道中の採取素材は5時の位置だったか。
 なら空いた6時には念のため円のメダルを戻すか。)

「よし、それなら次はちゃんと探索しながら行こう。
 幸いなことに、今回急いだおかげで時間には結構余裕があるからね」

(まだ5時前だから入ダン出来るだろう)

「採掘用装備なんて持っていませんが、大丈夫でしょうか…?」
「……今回は探すだけにしよっか。
 鉱脈が見つかれば、同じレシピならまた機会はすぐに来るさ」

気を逸らせているためか記憶力も強化されているはずなのに色々と抜けているユリス。それもそのはずで、記憶は出来てもそれを取捨選択するのはユリス生来の能力のままなので、無意識に必要ないと記憶の海に投げ捨てた情報の中に重要なものが混ざっているなんて事はザラなのだ。ただ気が利かないだけと言ってしまえばそれまでだが。

「そうですね。
 …ピッケルなんて購買で売ってるのでしょうか?」
「部屋に戻れば簡単なものなら用意できると思うから、なくても何とかするよ。
 そうと決まればさっさとゴーレム石を詰めて戻ろう」

(無かったら鋼樹で作ろう。
 あれなら下手な金属より硬いし、低ランクの鉱石くらいなら簡単に砕けるだろうからな)

とにかく確認はしておきたいと半ば強引に話を切り上げてダンジョンから出ていくのであった。
ちなみにユリスの方の宝箱には人形のメダルが入っていた。

本日3度目の入ダン。
配置については、レイラには初めの配置に鉱石を足したやつから確認していくと説明して半ば強制的に決定。
今日の探索はこれで最後になる。入団した時間からそう判断した2人は道中も周囲を注意深く観察していく。

(見つからん…!
 もしかして下級だと採取は出来ないのか…?)

すると、4階層目の行き止まりで他とは色の違う壁を見つける。

「壁の色が違う部分がありました!
 ユリスさん、鑑定を!」
「ようやくかぁ…!
 うん、銀鉱脈みたいだね」

なんと、有ったのは銅よりランクが上の銀鉱石の鉱脈である。そして続け様に別の行き止まりで鉄鉱脈も発見する。
どうやら鉱脈は行き止まりに有る傾向が見られるようだ。今回は見つからなかったが何処かに銅鉱脈もあるのだろう。

(全部の探索が出来たわけでもないし、まだ何処かに鉱脈はあるんだろう。とにかくこの配置で採取が出来ることを確認できたのは大きい)

鉱脈の存在を確認出来たユリス達は上機嫌でボス部屋に向かっていく。

「後は鉱脈1箇所でどれだけ採掘出来るかだね」
「明日が楽しみです♪
 量によってはベルクトに対抗できる手段になりますね」
「そうだね…」

(でも、僕達がこれだけトントン拍子に解明できているのに、学園が全く把握していないなんて事があるのか…?)

ユリスは疑っているが、実のところ学園は全く把握していない。それどころか歴代の生徒の中にも鉱石のメダルを手に入れた者が1人も居ないのだ。
それは何故か。ユリスの幸運もさることながら、1番の要因は円のメダルを特定の場所に配置していた事である。これによってレアを含めたメダル自体の入手率が上がっていたのだが、これまで入手した者達はこのメダルに価値を見出せなくてすぐに売ってしまうか死蔵するしかなかったのだ。
なんだかんだでメダルを完全ランダムにセットしてダンジョンを生成するという生徒はそう多くない。ある程度メダルが集まったら、局所的に変えることはあっても大体は似たような構成でしか挑まない保守的な思考が蔓延しているのである。

ボス部屋に到着したところでユリスがどうせ今日最後の探索だしと実験を始めることを宣言。レイラに出した指示は攻撃せずに逃げ回り続ける、だった。

「はい…?分かりましたが、何をするのですか?」
「…?だから逃げ回るんだけど。
 ああ、言ってなかったっけ?ゴーレムは移動するのにも魔力を消費するんだ。
 だから、それだけで倒すとどうなるかと思って実験を」
「なるほど…!
 それでどのくらい逃げ回るのでしょうか?」
「あー…そうだなぁ…動き回らせ続けて、大体1時間弱といったところかな?前回の感じだと歩くだけで魔力がおよそが1%減るのに1分ちょっとだったからそのくらいだろうね」

予想以上の長時間にレイラは「……えー…」と明らかな不満をこぼす。

(まあ、あの遅い動きから逃げるだけで1時間は精神的にキツイか…暇だし)

「見るからに嫌そうな顔…なら何回か攻撃を避けてダッシュで離脱を繰り返す?
 それなら消費は激しそうだから多分時間が短くなるよ。交代でやればそこまで負担もないだろうし」
「やるならそっちですかね…」
「ならそうしようか。
 まあ、初めは僕がやるから参考にして」

(さてはレイラ、走り込みとかの単純な訓練は嫌いなタイプだな?絶対に必要になるし体力づくりの方法を考えておかないと)

まだ微妙に嫌そうな雰囲気を出しているが、ここで押し問答をしても仕方ないと思ったのだろう。ユリスは気づかないフリをしてボス部屋に進み、レイラもそれに続く。
ボス部屋にいたのは予定通りロックゴーレム。
そして事前の打ち合わせ通りの戦闘じっけんが始まる。
まずはユリスが近づいて行き、頭上から振り下ろされる手を横っ飛びで避ける。それを右左と何度も続ける様を観察するレイラにはとある疑問がよぎる。それは、攻撃が片手の振り下ろしだけなのかというものだ。
実はゴーレム系は特定のアルゴリズムに従って動く特殊な魔物のため、考えて行動すれば同じ攻撃を誘発する事は比較的容易なのだ。特に今回は下級であるロックゴーレムなので動きのバリエーションも少ない。
疑問を抱えるレイラの元に10回目の攻撃を避けたユリスが戻ってくる。

「まあ、こんな感じだね。
 この後こっちまで歩いてくるのを待って、回り込んだら交代っていう流れで」
「分かりました」

ロックゴーレムの動きが遅いこともあり、1サイクルでおよそ5分。攻撃を避けるフェイズは3分かかるため、その間は常に集中し続ける必要がある。
レイラも初めは腕の振り回しや踏みつけなど様々な攻撃を場当たり的に避けて、交代時には疲労困憊といった様相だった。が、何度か交代する内に攻撃にアルゴリズムがあることを理解し始めたのか、ユリスと同様に左右交互に振り下ろしを避けるようになっていた。
しかし、同じ動作を続ける事で集中力が散漫になってきたのだろう。回を重ねるごとにレイラの立ち位置に少しずつ乱れが生じてくる。
そして慣れが出てきた8回目の交代でちょっとした事件が起きてしまう。

レイラが左手の攻撃を避けた後、動き出しに合わせて再度横っ跳びで避けようとする。
が、ゴーレムが繰り出したのは両手での振り下ろしだった。

「…え?きゃあ!?」

レイラは予想外の出来事に身体が固まり、迫る巨大な石の手をもろに受けてしまった。

(ちっ…気を抜き過ぎたな。
 初撃をカバーするのは間に合わなかったか)

ユリスも距離的に間に合わなかったが、追撃からは救助する事が出来た。咄嗟だったためにレイラを抱えて安全圏まで離脱したがレイラは固まったままである。
心配したユリスが顔を覗き込むとレイラは顔を真っ赤にして縮こまっていた。こういった魔物からの攻撃に恐怖してリタイアする学園生もそれなりにいるのだが、レイラはお姫様抱っこをされている事にしか気が向いておらず、被弾に対してはなんら痛痒を感じなかったようである。

「ゆ、ユリスさん…もう大丈夫です。
 今度こそは油断しません!」
「ん…わかった。
 ただ、意気込んでいるところ悪いんだが戦闘は終わりだよ。
 こっちに来る間に魔力切れになりそうだからね」
「…えー……それならもうちょっとあのままでいれば…」

地面に降ろされたレイラはボス戦前と同様に不満顔になってしまう。
それをスルーしてユリスは崩れ落ちたロックゴーレムの残骸を調べる。すると、そこには前回までは砕け散って消えていたはずの水晶が。
まさかの成果に早速鑑定すると
―――
【名前】ノーマルコア(空)
【効果】
品質:A
MP:0/3000
【詳細】
ゴーレムの心臓部。
コアの中では最もポピュラーなもので、無機物に嵌め込むことでゴーレムを作ることが出来る。
しかし、容量が小さいため複雑なアルゴリズムや高性能なスキルを設定することは出来ない。
また、ゴーレムコアとしての設定をしなければ魔石として運用することも可能。
マスターなしの状態で内包されている魔力が空になっているため、魔力を充填した者がマスター登録される。
マスター登録:なし
―――
という結果が出てくる。

(へえ…これは面白そうだな。
 ゴーレムの造り方が分からないから今のところは保留だけど、色々試したいな。
 にしてもステータスウィンドウのアビリティ欄はランク形式だし、このMP数値の基準が分からん…3000は多いのかどうか)

「レイラ、ちょっと調べたいからこの水晶は貰ってもいい?次は譲るからさ」
「ええ、構いませんよ。
 使い方がよく分からないものよりも、こっちのゴーレム石の方が私にとっては価値がありますから」

さっきの不満顔はどこへいったのだろうか。少しワクワクした様子を見せるユリスに微笑みながら譲るレイラ。
今回も攻略報酬の宝箱は2つで、中身はユリスが魔鉱石1つでレイラが2回目と同じ大きさの鉄鉱石2つであった。
今回で今日のダンジョン探索は終わりだが、広場に戻ると辺りは既に暗くなり始めていた。

(ちょっと時間かけ過ぎたか…?)

若干利用時間を過ぎてしまったらしく、もう少し時間に余裕をもつようにと一時預かり所の受付から注意を受けてしまう。が、ギリギリまで探索して利用時間を過ぎる生徒は多い。そのためか多少の小言を言われるくらいで済んだようだ。実際に小言を言われている最中に何組ものパーティーが預かり所に列を作っていた。
それでも大幅に時間を過ぎたり回数が多かったりすると、ブラックリストに入って評価が落ちる上にダンジョン自体の利用も制限されてしまうらしい。もちろん預かり所も利用できなくなる。名前と時間だけだがダンジョン制御機構経由で学園側に利用記録が残るので誤魔化すことは出来ないのだ。
ユリスは第1種なので評価が落ちても影響はあまり無いが、レイラに迷惑をかけるつもりはないので「今後は時間にも気をつけよう」と、レイラと話しながら寮への道を歩いていくのであった。
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