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3章
11. 再びポポガーディアン発動!
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ギルバートの作った具沢山の山菜入りスープはお世辞抜きにとても美味しかった。彼はジャガイモやニンジンといった野菜に加えて燻製肉も持参していて、それらで出汁を取ったスープは薫り高く、ローズが今まで食べたどんなスープよりも美味しかった。それにギルバートのスープの効能は他にもあった。春とはいえまだ冷えることもある森の中の道中を、ぽかぽかになった体で元気よく冒険を続けることができたのだ。
体力気力ともにチャージされた一行は、再びシャーロットの先導で森の奥へと進んだ。何やら彼女の足取りが早くなってきたところ、フィリップが心配気に言った。
「そろそろ引き返さないと、暗くなるまでに森から出られないぞ……」
「でももう少し、もう少しなんです、フィリップ殿下! 気配が、もうすぐ、そこに……しっ!!」
シャーロットは背をかがめて前方の藪の中を見つめている。そろそろと、斧を振りあげながら。
そして次の瞬間。
立ち上がったシャーロットの服の下で上腕二頭筋が唸り、斧が振り下ろされた。
そこには小振りなマジリスク――長い尻尾を除いて体長15cmほど――がいて、シャーロットの一刀両断で尻尾の先を切り取られたそれは、悲鳴を上げて前方の藪の中に逃げて行った。
シャーロットは素早く尻尾の断面を紐で縛って血が零れないようにすると、持参してきた瓶に入れて封をした。そしてその瓶を掲げ持ち、喜びの声を上げた。
「やった! やりましたよ!! 二番目の材料も無事に手に入りました!!」
ローズは一緒に喜ん――だりできなかった。なぜならさっきのマジリスクが逃げ帰った藪の中から、大きなマジリスクが飛び出してきたのだから。藪に背を向けているシャーロットは気付いていない。ローズはとっさにシャーロットの体を横に突き飛ばした。マジリスクは攻撃対象を一瞬見失い勢いを失くしたが、すぐに対象をローズに変えて向かってきた。
「あっ……!!」
ローズはしまった、と思った。正面からまともにマジリスクの邪眼を見てしまったのである。その赤い目と視線を交わした者はたちまち石化するといわれている。
ローズは体が硬直してゆくのを感じた。
(そんな! 世にも美しい石像が出来てしまうわ! 最高の芸術品として美術館に飾られてしまう!)
冗談ではなく真剣にそう思ってしまった自画自賛なローズは、自分の思い付きに笑ってしまった――更に、「石像のタイトルは『永遠の微笑――高貴なる美しき乙女』かしら……いいえイマイチね。もっと魂を抉るような強烈な美を感じるタイトルでないと、私に相応しくありませんわ!」などと思い悩む。そしてすぐさま、「なんでやねん! 悩むとこ、そことちゃうやろ!」とセルフツッコミを入れた。
ローズの脳内にそんな一人コントが炸裂する間も、状況は目まぐるしく展開していた。
持ち主の危機を察したローズの右耳のイヤリングが弾け、「ポポガーディアン」の魔法が発動する。シュリはローズを抱きかかえて後方に下がると共に、「マジリスク避け」の笛を吹きならした。それらと同時にギルバートの剣がマジリスクに斬りかかり、フィリップはシャーロットを抱き起して後方に下がった。
そしてローズは、「ポポガーディアン」の発動により舞い飛ぶ “ちっちゃ可愛い” ポポリスに守られ、シュリの腕の中という幸福の蜜に浸されながら、前回の「ポポガーディアン」発動時と同じように、コトンと気を失った。
――急がなければ。ゆっくり食べたいもん。
ローズはまたもや、過去の夢を見ていた。それは「木下蕾」だったころの、前世の記憶。
会社の昼食時間。蕾は持参した弁当を持って、ひと気のない屋上へと向かって階段を駆け上っていた。休憩室の衆人環境で食事するのは、対人恐怖症を持つ蕾には辛すぎるのだ。だから社員の駐車場になっている本棟屋上の、誰もいない柱の陰に座り込み弁当を食べることにしている。人といるのが苦手な蕾にとって、この昼休みは唯一リラックスできる憩いの時間だった。
やっといつもの場所に持参したレジャーシートを敷いて弁当を広げたとき、誰かが近付いてくる気配を感じた。
「木下さん、これ、落としたよ」
蕾はビクッと体を震わせた。すぐ傍に千宮司護が立っていたのだ。
体力気力ともにチャージされた一行は、再びシャーロットの先導で森の奥へと進んだ。何やら彼女の足取りが早くなってきたところ、フィリップが心配気に言った。
「そろそろ引き返さないと、暗くなるまでに森から出られないぞ……」
「でももう少し、もう少しなんです、フィリップ殿下! 気配が、もうすぐ、そこに……しっ!!」
シャーロットは背をかがめて前方の藪の中を見つめている。そろそろと、斧を振りあげながら。
そして次の瞬間。
立ち上がったシャーロットの服の下で上腕二頭筋が唸り、斧が振り下ろされた。
そこには小振りなマジリスク――長い尻尾を除いて体長15cmほど――がいて、シャーロットの一刀両断で尻尾の先を切り取られたそれは、悲鳴を上げて前方の藪の中に逃げて行った。
シャーロットは素早く尻尾の断面を紐で縛って血が零れないようにすると、持参してきた瓶に入れて封をした。そしてその瓶を掲げ持ち、喜びの声を上げた。
「やった! やりましたよ!! 二番目の材料も無事に手に入りました!!」
ローズは一緒に喜ん――だりできなかった。なぜならさっきのマジリスクが逃げ帰った藪の中から、大きなマジリスクが飛び出してきたのだから。藪に背を向けているシャーロットは気付いていない。ローズはとっさにシャーロットの体を横に突き飛ばした。マジリスクは攻撃対象を一瞬見失い勢いを失くしたが、すぐに対象をローズに変えて向かってきた。
「あっ……!!」
ローズはしまった、と思った。正面からまともにマジリスクの邪眼を見てしまったのである。その赤い目と視線を交わした者はたちまち石化するといわれている。
ローズは体が硬直してゆくのを感じた。
(そんな! 世にも美しい石像が出来てしまうわ! 最高の芸術品として美術館に飾られてしまう!)
冗談ではなく真剣にそう思ってしまった自画自賛なローズは、自分の思い付きに笑ってしまった――更に、「石像のタイトルは『永遠の微笑――高貴なる美しき乙女』かしら……いいえイマイチね。もっと魂を抉るような強烈な美を感じるタイトルでないと、私に相応しくありませんわ!」などと思い悩む。そしてすぐさま、「なんでやねん! 悩むとこ、そことちゃうやろ!」とセルフツッコミを入れた。
ローズの脳内にそんな一人コントが炸裂する間も、状況は目まぐるしく展開していた。
持ち主の危機を察したローズの右耳のイヤリングが弾け、「ポポガーディアン」の魔法が発動する。シュリはローズを抱きかかえて後方に下がると共に、「マジリスク避け」の笛を吹きならした。それらと同時にギルバートの剣がマジリスクに斬りかかり、フィリップはシャーロットを抱き起して後方に下がった。
そしてローズは、「ポポガーディアン」の発動により舞い飛ぶ “ちっちゃ可愛い” ポポリスに守られ、シュリの腕の中という幸福の蜜に浸されながら、前回の「ポポガーディアン」発動時と同じように、コトンと気を失った。
――急がなければ。ゆっくり食べたいもん。
ローズはまたもや、過去の夢を見ていた。それは「木下蕾」だったころの、前世の記憶。
会社の昼食時間。蕾は持参した弁当を持って、ひと気のない屋上へと向かって階段を駆け上っていた。休憩室の衆人環境で食事するのは、対人恐怖症を持つ蕾には辛すぎるのだ。だから社員の駐車場になっている本棟屋上の、誰もいない柱の陰に座り込み弁当を食べることにしている。人といるのが苦手な蕾にとって、この昼休みは唯一リラックスできる憩いの時間だった。
やっといつもの場所に持参したレジャーシートを敷いて弁当を広げたとき、誰かが近付いてくる気配を感じた。
「木下さん、これ、落としたよ」
蕾はビクッと体を震わせた。すぐ傍に千宮司護が立っていたのだ。
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