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42.緊急招集されました

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 混乱する人々をかき分け、冒険者ギルドへたどり着く。
 多くの冒険者が揃っており、慌ただしい雰囲気だ。
 すでに説明を聞き終わった冒険者の話が耳に入る。
 どうやら『海辺の洞窟』というこの町の近くにあるダンジョンの魔素濃度が急激に上がり、スタンピードが起きてしまったそうだ。
 
「ギルドに到着された方は、まず1階の窓口で冒険者証をご提示ください! その後説明および配置決めを行いますので、指示された部屋へご移動願います!」

 入り口付近にいたギルド職員が大声で案内をしている。
 聖女時代も緊急要請で呼ばれることはあったが、基本的に『現場に転移魔法陣で移動』その後『仰々しい魔法で魔物退治または上級回復魔法で治癒』を行い、すぐに王都の神殿に戻る。
 そういうに過ぎない。
 こんな風に先の見えないものではなく、何をすればいいか明白だった。
 言いようのない不安が襲う。
 思わず、ジルコの服をつかんだ。

「大丈夫だ。何度かスタンピードの緊急招集に参加したが、全部大事になる前に解決してる。 今回もそうなるから、落ち着け」

 騒がしいギルド内でも聞こえるように、少しかがんで耳元で話してくれた。
 ジルコが『大丈夫』というなら、きっと大丈夫だ。

「はい。 やれることをやって、早く出国しましょう!」

 気合を入れ、窓口へ向かった。
 冒険者証を提示すると、謎の腕輪を渡され、銅級冒険者が集まる2階の講義室へ行くよう指示される。
 指定された部屋に行くと、ぱっと見でも数十人は人がいた。
 装備や顔つきから、半分は初心者冒険者、もう半分はベテランだが昇級に興味ないかできない雰囲気の人々だ。
 初心者冒険者たちは明らかに緊急招集に不安そうな顔をしている。
 そのなかに泣き出しそうなほど緊張している少女がいた。
 周囲にはパーティーメンバーだと思われる少年たちの姿もあるが、うまく落ち着かせられないようだ。
 人は自分より不安そうな人を見ると、不思議と冷静になる。

「私、ちょっと行ってきます」

 思わずその少女のもとへ近づいた。
 前世で中学時代によく面倒を見ていた後輩に似ていたからだ。

「おい、アンタ……お人好しが過ぎるだろ」

 そういうジルコだって、実はやさしい人だ。
 でも指摘すると怒りそうなので、心の内に留めておく。

「あの、私初めての緊急招集で緊張していて……。 つい最近、銅級の冒険者証手に入れたんです。 よかったら、少しお話しませんか」

 いきなり話しかける不審者に見られないよう、できるだけ優しい声、優しい顔で話しかけた。
 青い顔をしていた少女と目が合う。

「あ、わ、私も緊急招集は初めてで……。まだダンジョンに行ったのも数えるくらいしかないのに、場違いな気がして……」

「たしかに、俺たちが一番最年少っぽいよな。 でも、飛紙とがみ無視するわけにもいかないし、来るしかないだろ」

 少女によく似た少年が困り顔を浮かべつつ話した。
 黄色と黒のツートンカラーの髪が目立つ少年だ。
 少女は同じ髪型だが黄色一色だった。
 顔が本当によく似ている。
 間違いなく双子だろう。

「……うん。来るしかない」

 双子より頭一つ大きい少年がゆっくりな動作で頷いた。
 とても大きな男の子だ。
 よく見れば短いが頭に二本の角がある。
 褐色の肌に白髪だ。
 おそらく、鬼人族という角のある亜人だろう。
 プレシアス王国では滅多に見かけないので、外国からやってきたのかもしれない。

「私もそうですよ。 冒険者証もらってから入ったダンジョンは、シラディクス山の洞窟だけの超初心者です!」

 後ろでジルコが呆れている気がするが、嘘は言っていない。
 グラメンツに行く途中で入ったダンジョンは、冒険者証をだし、シラディクス山の()洞窟だ。
 そして、まだまだ経験の浅い初心者である。
 ほら、嘘はひとつもない。
 そう心の中でジルコに弁明した。

「私たち以外にもそういう方がいるんですね。 なんか、ちょっと安心しました」

 少女の緊張が少し和らいだようだ。
 話しかけてよかった。

「そうだ!まだ名乗ってなかったですね。 私、エリアーナっていいます。 最近17歳になりました。 魔法使いなんですけど、魔法陣はからっきしで水魔法専門です」

 おそらく、彼らはエリアーナより年下だろう。
 少女と少女はエリアーナより背が低い。
 160センチはない気がする。

「私はニーナと申します。 12歳です。 弟と幼馴染と一緒に母国を出て、船できたばかりなんです。雷魔法と、一応弓が使えます」

 びっくりした。
 12歳って子どもじゃないか。
 前世の感覚なら小6か中1だ。
 
「俺はニコ。 俺たちのいた村だと、村長の子どもは12になったら冒険者登録して旅をするんだ。 で、プレシアス王国に来てまだ1週間くらいか? 行ったことあるダンジョンは『海辺の洞窟』だけだ! 魔法は苦手だけど、早さとダガーの扱いは誰にも負けないぜ!」
 
 ビシッと宣言してくれた。
 彼はすごく小学生男子のにおいがする。
 目がキラキラしてる。

「……自分はゲオです。歳は15。大剣、使ってます。 冒険者登録したのは去年です。 二人のお守りで一緒に旅してます」

「お守りって、ひどい! 私たち二人だけでも問題なく旅できます!」

「そうそう。お守りってか、ただ異国を旅してみたかっただけだろ? 旅費は俺の親父が全部持ってくれるんだし、実質無料ってやつだな!」

 三人はとても仲良さそうだ。
 ゲオの存在にホッとする。
 ちゃんと引率者の役割の人がいるなら、旅も成立するのかもしれない。

「そうだ!私の仲間のジルコさん、彼は私と違って旅とかダンジョン慣れてるので、困ったことがあったら教えてくれると思うよ」

 ジルコの方を振り向けば、面倒くさそうな顔をしつつ隣にきてくれた。
 無視しないでくれるのだがら、やっぱり彼はやさしい。

「……ジルコだ。このポンコツと旅をしている。 歳は18。 魔法剣士だ。 12の時から冒険者をやってる」

 冒険者歴6年のベテランだ。
 それを聞いて目の前の三人があからさまに安心したような気がする。
 頼れるし、強いし、かっこいい。
 そんな仲間を持てて思わず自分がドヤ顔をしてしまう。

「アホ。アンタがドヤるな。 ……まぁ、何かあれば聞いてくれ。 分かる事なら教える」

 ジルコもさすがに12歳の冒険者を放っておくことはできないのだろう。
 やはり、彼の半分はやさしさでできているかもしれない。
 一人頷いていたら、肩をつかまれた。

「説明始まる。 適当に座るぞ」

 ジルコに促され、近くに席へ腰を下ろす。
 ニーナたちもそばに座ったようだ。
 扉が開くと、坊主頭、サングラス、顔や体が傷だらけという筋肉が歩いてきた。
 いや違った、シワも素敵なオジサマだった。
 強面過ぎて近づけないが、遠くから見る分には眼福だ。
 壇上に立つと、声が響いた。
 おそらく、拡声の魔導具かなにかだろう。

「緊急招集にお集まりいただき感謝する。 冒険者ギルド、ノーガス支部代表のロックスだ。 手短に言う。この町の近くにある『海辺の洞窟』というダンジョンでスタンピードが起きた。 諸君はそれの鎮圧に、全力を尽くしてもらいたい。 詳細については――」

 ギルド長の言うことには『海辺の洞窟』で突如、魔素濃度が上昇したらしい。
 そのせいで魔物がダンジョンからあふれ出るスタンピードが起きた。
 原因は不明。
 領の騎士は町の安全が第一なため、洞窟から外に出てきた魔物のみ対処するとのこと。
 洞窟内の鎮圧、原因の究明は冒険者ギルドに一任された。

「海辺の洞窟は迷路のように入り組んでおり、広大なダンジョンだ。 中には大小様々な汽水湖が存在し、出現する魔物は水属性の魔物ばかり。 そのため、火魔法使いは最初から省かせてもらった。 また、水魔法使いで回復魔法が苦手なものも、今回は不参加で構わない。 銅級冒険者の諸君らは出現魔物が比較的低級の、入り口付近の討伐を行ってもらう。 なお、討伐した種類や数をもとに、諸君らに配った腕輪型魔導具へ点数が加算される。 随時点数に合わせてギルドで報酬を支払う。 さらに、自身が倒した魔物の素材や魔石は自由にしろ。 拾ってもその場に残しても構わん。 ただ、それに気を取られて魔物にやられるなんてことになるなよ。 あと、攻撃魔法が苦手な光魔法使い、および回復魔法を得意とする水魔法使いは、洞窟の外に設置する救護用の天幕内でやってきたものを全て治せ。 治した数が腕輪に加算される。 三部制で交代しながら、昼夜問わずの討伐となるだろう。 以上、健闘を祈る」

 つまり、先に進むほど魔物は強くなるということだろうか。
 おそらく奥の探索は白銅級や銀級が行うのだろう。
 我々銅級はやれることをやるしかない。

「どの時間の担当になるかくじ引きらしい。 混雑してるから、アンタはここにいろ」

 ジルコのくじ運がいいことを祈る。
 できれば、夜はいやだ。
 眠気とも戦わなくてはいけなくなる。
 
(くじ引きの神よ! ジルコさんの右手に力を分けてください! 朝か昼でお願いします!)

 さて、その願いは届くのか。
 それは神のみぞ知る。




 
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