口下手だからとパーティから追放されましたが、俺がちゃんと喋ったらあなた達全員死にますよ? 

志鷹 志紀

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6話 初心者女剣士、ボスに挑む 【ピリカ視点】

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【ピリカ視点】


 開かれた扉の先にいたモノ、それは──

「ボゴブラァアアアア!!」

 2メートルを超える長身と、それに比例するかのような筋骨隆々の肉体。
 右手には巨大な肉斬り包丁を装備していて、腰にはイノシシの皮でできた腰巻。
 緑色の皮膚と醜悪なその顔から、わたしの拙い知識でも魔物の種族名が理解できた。

「……ホブゴブリン、ですか」

 ゴブリンの進化種、ホブゴブリン。
 その強さは単純にゴブリンを強くしただけ……には留まらない。
 単純に身体能力が上昇し、知能も上がっている。
 ゴブリンの時のような愚直な攻撃だけではなく、考えられた嫌らしい攻撃も行ってくる……らしいです。

「ボゴブラァアアアア!!」

 ホブゴブリンの咆哮に、思わず身体がすくんでしまいます。
 今すぐ逃げ出したい。アルレ様に任せたい。
 もう……帰りたい。

 そんな臆病な考えが脳裏をよぎりますが、何とか気合で自分を振り立たせます。
 1層でゴブリンに怯え、アルレ様の手を煩わせた醜態を……わたしは二度と味わいたくないのです。
 あの時のような無力感を、二度と味わいたくないのです。

「そうです……。身体が大きくなっても、所詮はゴブリンです!!」

 この程度の魔物も倒せなければ、アイツ・・・を倒すことなど一生叶いません。
 わたしにとって、このホブゴブリンはただの通過点に過ぎません。
 この程度の魔物、軽く倒さなければ!!

「行きますよ!!」

「ボゴブラァアアアア!!」

 銅の剣を構え、わたしは駆けました。


 ◆


「ボゴブラァアアアア!!」

 わたしの想像を遥かに超えて、ホブゴブリンは強力でした。
 発達した筋肉から繰り出される、肉斬り包丁の斬撃。
 それを躱しても、次の斬撃がやってきます。
 さらにそれを躱しても……と、キリがありません。

「やぁあああああ!!!!」

 対して、わたしの攻撃は……あまり聞いていない様子。
 筋肉に阻まれ、わたしの斬撃は深く傷つけることができません。
 こんなことなら、もっと高い剣を買えばよかったです。
 こんな店で一番安かったナマクラなんかではなく。

「ハァ……ハァ……」

 いったん距離を取り、息を整えます。
 去年まで村で過ごし、戦闘の経験なんて皆無なわたしは……悔しいですけれど体力が人並程度です。
 村がアイツ・・・に焼かれてからは特訓をしましたが、それも数か月前と浅いのでまだ効果はそれほど出ていません。

「ボゴブラァアアアア!!」

 疲弊しているわたしとは違い、ホブゴブリンは元気いっぱいといった様子。
 見栄えだけを意識した情けない筋肉ではなく、しっかりと鍛えこまれた筋肉なようですね。
 ……いえ、褒めている余裕なんてありませんね。

「どうすれば……勝てるのでしょう」

 わたしは残念なことに、魔法が使えません。
 それに加え、戦闘技能スキルも持っていません。
 元々ただの農民だったわたしは、戦闘のすべを何一つ有していないのです。

 アルレ様に手伝ってもらえば、きっと一瞬で勝てるでしょう。
 ですが……それはわたしが望んでいません。
 そんな形で勝利しても、わたしは……何一つ成長できないのですから。

「結局……地道に削るしかありませんね」

 ホブゴブリンを見たところ、傷が言えている様子はありません。
 つまり、再生系の戦闘技能スキルを有していないのでしょう。
 これはわたしにとって、この上ない朗報です。
 それはつまり、時間をかけて傷つければ、いずれ必ず勝てるということなのですから。

「ふぅ……地味ですね」

「ボゴブラァアアアア!!」

「うるさい……ですよ!!!!」

 わたしはまたしても、駆けだします。
 そしてまたしても、銅の剣でホブゴブリンを傷つけます。
 ズタズタと何回も、素人丸出しの剣術を駆使して。

「ボゴブラァアアアア!!」

 ホブゴブリンも焦っているのでしょう。
 緑色の皮膚が裂け、血が滴り……どうやら魔物も、恐怖や生命の危機を感じる心はあるようですね。

 そのおかげもあってか、だんだんと動きが単調になってきました。
 最初のころは嫌らしい斬撃を繰り出していたのですが、今となっては線のわかりやすい攻撃ばかり。
 いくら素人のわたしでも、どこに攻撃が来るか予想ができれば、容易く避けることができます。

「そろそろ──終わりにしましょう!!」

 銅の剣を振るい、ホブゴブリンの首を斬りつけにかかります。
 いくら筋肉で守られているとしても、首を斬られれば致命傷を与えることができるでしょう。
 如何に魔物といえど、首や頭は弱点なのですから。

「やぁあああああああああ────!?」

 しかし、この時わたしは失念していました。
 この銅の剣が、安物ナマクラだということを。

「そ、そんな────」

 耳に響いたのは、パキリッという軽快な音。
 目に飛び込んできたのは、絶望的な状況。
 
 わたしの銅の剣は、ホブゴブリンの首に当たった時、半分に折れてしまいました。

「ボゴブラァアアアア!!」

 わたしにとっての絶望的な状況を、好機と捉えたホブゴブリンは肉斬り包丁を振り下ろします。
 意趣返しとばかりに、わたしの首を狙って。

「ごめんなさい──」

 村の仲間たちに、世話になった人たちに、そしてアルレ様に、謝罪を送ります。
 わたしが弱いばかりに、迷惑をかけてごめんなさい。
 みんなの仇のアイツ・・・に復讐できなくて、ごめんなさい。
 ……無力でごめんなさい。

 包丁が首に届く時が、近くなって──

「『燃えろ』」

 そんな時、アルレ様の声が聞こえました。
 次に、ホブゴブリンが燃えました。
 最後に……わたしは生きていました。

「ぴ、ぴ、ぴ、ピリカ!!」

 わたしの元へ駆け寄ってくれるアルレ様。
 その必死な表情から、ようやく現状を呑み込めました。
 わたしは──

「──ごめんなさい」

 燃え死ぬホブゴブリンの横で、わたしは……泣き崩れてしまいました。

 もっと強くならないと。
 弱いままでは、迷惑をかけるだけです。
 もっと……もっと強くならないと。

 わたしは……己の弱さを、ひどく恨みました 
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