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第四章──智(さとし)の学び舎、深き迷いの医学者
38話
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「花化従……すまぬ。迷惑をかけて……」
静が寝床で身体を無理に起こし頭を下げた。障子越しの陽が陰を落とす。静の表情をも曇らす。
「!? 静さま……もったいのうござりんす。頭をお上げなされませ……」
花化従は慌てて静の元に寄り添う。静はふっと笑う。
「このような有様でおぬしらに詫びねばならぬとは……何が本懐か……笑うほかあるまい……案外、脆きものよ、妾が身は……」
静は悔しさを滲ませ唇を噛む。
「静さま……よろしゅうござりんす。わちきらは静さまの本懐を遂げるため、ともに在る身にござりんすゆえ……」
「礼を申す、花化従。……ところで、花徒影は戻りおるか?」
すると花化従の影からするすると花徒影が姿を現した。
「花徒影、そちに偵べ人の役ばかりを課してしもうて、すまぬな……」
「と、とんでもなきことでござりまする、静さま! もったいなき御言葉……さりながら、我らいついかなる折も静さまの御手足にて候。静さまの御命とあらば……」
いつも目を細め世界を見ている花徒影は頭を下げる静の姿に目を目一杯に開き慌てた。
──ためらひは此の者らを惑はす……いかにせん! 妾、この程の痛みに屈して何とせん。久遠の地獄に比ぶれば、まこと風のごときものなり……!──
陰を落とした部屋に突然の光が突き刺してくる。静の顔を照らす表情は一編の曇りなし。それは自らの意思で振り払った強き心。宿す瞳は神々しさを増す。
「何を驚く、花徒影よ。妾はそなたらが主ぞ……本懐を求めぬ者に、そなたら主は務まらぬわ……!!」
──足はわななき、膝は力を失へども、それがし、なお立たねばならぬ。妾が誇りを支ふるために──
静は震える脚を掴み立ち上がる。気高くそれでいて美しく……。弱気己を打ち払うごとく……。
「静さま……相も変わらず、敵わぬ 御方にござりんす……」
花化従は三つ指を立て礼をつくす。
「花徒影よ、あのでき損ないは如何なした……? 我が愚妹、清は……? くたばるほどやわではあるまいが、きっと痛みも知らず息づいておろう……」
「はい……花護人たち、かの花根孖の二人に護られ、此方へ向かっております……」
「やはり、そうか……次は……因果、知れぬものよ。先ほどまでぼやけておったが……やはり、そうか。『智』に『惑』の者……皮肉なりな……ねぇ……先生……」
静は丸眼鏡をかけた男──孤風のいる書斎を指差した
「孤風先生、感謝こそすれ……その枯れし花の痣、そは御身に終わりの刻を告げる兆しにて候……」
書斎で書物を読み、静の病を探る孤風の左手の甲には花紋様の痣が浮かびあがっていた。
静が寝床で身体を無理に起こし頭を下げた。障子越しの陽が陰を落とす。静の表情をも曇らす。
「!? 静さま……もったいのうござりんす。頭をお上げなされませ……」
花化従は慌てて静の元に寄り添う。静はふっと笑う。
「このような有様でおぬしらに詫びねばならぬとは……何が本懐か……笑うほかあるまい……案外、脆きものよ、妾が身は……」
静は悔しさを滲ませ唇を噛む。
「静さま……よろしゅうござりんす。わちきらは静さまの本懐を遂げるため、ともに在る身にござりんすゆえ……」
「礼を申す、花化従。……ところで、花徒影は戻りおるか?」
すると花化従の影からするすると花徒影が姿を現した。
「花徒影、そちに偵べ人の役ばかりを課してしもうて、すまぬな……」
「と、とんでもなきことでござりまする、静さま! もったいなき御言葉……さりながら、我らいついかなる折も静さまの御手足にて候。静さまの御命とあらば……」
いつも目を細め世界を見ている花徒影は頭を下げる静の姿に目を目一杯に開き慌てた。
──ためらひは此の者らを惑はす……いかにせん! 妾、この程の痛みに屈して何とせん。久遠の地獄に比ぶれば、まこと風のごときものなり……!──
陰を落とした部屋に突然の光が突き刺してくる。静の顔を照らす表情は一編の曇りなし。それは自らの意思で振り払った強き心。宿す瞳は神々しさを増す。
「何を驚く、花徒影よ。妾はそなたらが主ぞ……本懐を求めぬ者に、そなたら主は務まらぬわ……!!」
──足はわななき、膝は力を失へども、それがし、なお立たねばならぬ。妾が誇りを支ふるために──
静は震える脚を掴み立ち上がる。気高くそれでいて美しく……。弱気己を打ち払うごとく……。
「静さま……相も変わらず、敵わぬ 御方にござりんす……」
花化従は三つ指を立て礼をつくす。
「花徒影よ、あのでき損ないは如何なした……? 我が愚妹、清は……? くたばるほどやわではあるまいが、きっと痛みも知らず息づいておろう……」
「はい……花護人たち、かの花根孖の二人に護られ、此方へ向かっております……」
「やはり、そうか……次は……因果、知れぬものよ。先ほどまでぼやけておったが……やはり、そうか。『智』に『惑』の者……皮肉なりな……ねぇ……先生……」
静は丸眼鏡をかけた男──孤風のいる書斎を指差した
「孤風先生、感謝こそすれ……その枯れし花の痣、そは御身に終わりの刻を告げる兆しにて候……」
書斎で書物を読み、静の病を探る孤風の左手の甲には花紋様の痣が浮かびあがっていた。
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