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第六章──信(たより)の愛し人、裏切りを超えて
84話
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心をすでに清により折られていた笹道に蒼真を押し返すだけの力はなかった。
「退けぇ──退けぇ──全軍、退却じゃ──!」
笹道の軍は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。馬上からそれを見届けると蒼真は馬を降り、常影の元で片ひざを付き頭を下げた。
「遅参仕り、まこと申し訳なきこと……すべては我が殿、文綱《ふみつな》さまの策、成るを待ちしゆえ……みな、無事でござるか……」
常影は蒼真に対する仕打ちに心を痛み、土下座にて誠意を示した。
「すまぬ、すまぬ……蒼真殿……儂は里を護らんがため、大義を楯に西嶺ノ国に与し、そなたを貶め陥れた……これは万死に値すべし……その代わり、この里だけは……どうか……そっとしておいてくださらぬか……お願い申す……」
縋るような目で蒼真に頼み込んだ。額は地についたままだ。
「何を申す……面を上げられよ。常影殿は高杜を護らんがための所業……咎める道理など、ありはせぬ……」
「そ、そんな……なんとありがたきお言葉……平に、平にお許しくだされ……」
「かまわぬ……それに、この里が狙われたは、高杜の背後にある鷹司家の隠し兵糧庫を西嶺が探りおったがため。拙者はその動向を探るべく、この地に至ったのじゃ。その折、西嶺に見つかり奇襲を受け……命を救われしは、むしろ此方よ……礼を申すは我なり」
常影は蒼真の懐の深さにただ感謝する他なかった。
「そして、東洲ノ国も、この地に踏み入る所存、毛頭これなし。これすべて、我が主君、文綱さまの御心ゆえ。殿が執り行われしは、悠前《ゆうぜん》ノ国の逆矢間熙剣《さかやまきつる》殿との和睦の儀。もしや西嶺ノ国の背後なる悠前ノ国と和を結ばんかぎり、この高杜に迂闊に手出し致すこと能わぬ。ゆえに……安心召されよ」
「なんと……なんと、畏れ多きお言葉……」
蒼真は辺りを見渡した。
「して、秋架殿はいずこに? お姿が見えぬが……この地は、秋架殿をお預かりせし地ゆえ……」
常影、一同影を落とし俯いた。
「秋架さまは……西嶺の矢に胸を射貫かれ……この高杜を護るため……そのまま……」
それ以上、涙で喉が詰まる。
「な……なんと……秋架殿が……い、命を……」
頭の中が真っ白に染まる蒼真。
「どこじゃ……どこにおわす? 秋架殿は……」
「屋敷の奥に……」
蒼真の顔はみるみる血の気が引いていく。しかし、足は屋敷に向く。走り出した。それは限りなく希望の薄い想いだった。
「秋架殿……秋架殿、この鷹司家の加護の証、絹綾の御守にかけて……生きておられよ……!」
蒼真は自身の絹綾の御守りを握り締め、血相を変え秋架の元へ向かった。
ガタン──
襖を勢いよく開ける。そこには──
見知った女と子どもが二人座っていた。そして……
手に絹綾の御守を両手で抱えるように大切に従え、祈るように目を閉じ、安らかな表情の秋架の亡骸が美しく横たわっていた。そこには清の時留《ときどめ》の花飾りが美しく、花を供えるが如く、添えられていた。
「退けぇ──退けぇ──全軍、退却じゃ──!」
笹道の軍は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。馬上からそれを見届けると蒼真は馬を降り、常影の元で片ひざを付き頭を下げた。
「遅参仕り、まこと申し訳なきこと……すべては我が殿、文綱《ふみつな》さまの策、成るを待ちしゆえ……みな、無事でござるか……」
常影は蒼真に対する仕打ちに心を痛み、土下座にて誠意を示した。
「すまぬ、すまぬ……蒼真殿……儂は里を護らんがため、大義を楯に西嶺ノ国に与し、そなたを貶め陥れた……これは万死に値すべし……その代わり、この里だけは……どうか……そっとしておいてくださらぬか……お願い申す……」
縋るような目で蒼真に頼み込んだ。額は地についたままだ。
「何を申す……面を上げられよ。常影殿は高杜を護らんがための所業……咎める道理など、ありはせぬ……」
「そ、そんな……なんとありがたきお言葉……平に、平にお許しくだされ……」
「かまわぬ……それに、この里が狙われたは、高杜の背後にある鷹司家の隠し兵糧庫を西嶺が探りおったがため。拙者はその動向を探るべく、この地に至ったのじゃ。その折、西嶺に見つかり奇襲を受け……命を救われしは、むしろ此方よ……礼を申すは我なり」
常影は蒼真の懐の深さにただ感謝する他なかった。
「そして、東洲ノ国も、この地に踏み入る所存、毛頭これなし。これすべて、我が主君、文綱さまの御心ゆえ。殿が執り行われしは、悠前《ゆうぜん》ノ国の逆矢間熙剣《さかやまきつる》殿との和睦の儀。もしや西嶺ノ国の背後なる悠前ノ国と和を結ばんかぎり、この高杜に迂闊に手出し致すこと能わぬ。ゆえに……安心召されよ」
「なんと……なんと、畏れ多きお言葉……」
蒼真は辺りを見渡した。
「して、秋架殿はいずこに? お姿が見えぬが……この地は、秋架殿をお預かりせし地ゆえ……」
常影、一同影を落とし俯いた。
「秋架さまは……西嶺の矢に胸を射貫かれ……この高杜を護るため……そのまま……」
それ以上、涙で喉が詰まる。
「な……なんと……秋架殿が……い、命を……」
頭の中が真っ白に染まる蒼真。
「どこじゃ……どこにおわす? 秋架殿は……」
「屋敷の奥に……」
蒼真の顔はみるみる血の気が引いていく。しかし、足は屋敷に向く。走り出した。それは限りなく希望の薄い想いだった。
「秋架殿……秋架殿、この鷹司家の加護の証、絹綾の御守にかけて……生きておられよ……!」
蒼真は自身の絹綾の御守りを握り締め、血相を変え秋架の元へ向かった。
ガタン──
襖を勢いよく開ける。そこには──
見知った女と子どもが二人座っていた。そして……
手に絹綾の御守を両手で抱えるように大切に従え、祈るように目を閉じ、安らかな表情の秋架の亡骸が美しく横たわっていた。そこには清の時留《ときどめ》の花飾りが美しく、花を供えるが如く、添えられていた。
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