花仕舞師

RISING SUN

文字の大きさ
105 / 159
第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心

105話

しおりを挟む
「すべからく、ここに契りを皆々に示さん……」
 花誓が宣言すると幸吉の身体がゆっくりと消えていく。花誓が花契筆ノ詞綴はなちぎりふでのことばつづりを天に掲げてすべての終わりを告げる。
 すべての舞が終わると今まで火花を散らした線香花火がゆっくりと玉を作り最後の輝きを放つ。それはまるで幸吉の最期を伝えるように……。
 清が最後に姿を現す。そして舞の終演を示す、花結はなむすびを告げる。

 ──忘れられても、与えしものは消えはしない。育むとは、いつくしむ見返りなき祈りなりは永遠と知れ──

「これにて花結、締結……」
 幸吉がゆっくりと、消滅していく。それはこの世に未練が晴れ、希望を残すように。
 線香花火から玉が落ちる。そしてその玉ははじけ、灯火が消える。
「届け──花文!」
 清が花文を唱え、幸吉に想いを届ける。そして清に跳ね返り胸に幸吉の想いが清に宿る。幸吉の最期の言葉がその想いに綴られている。
「……これは……左様にござるか……幸吉殿、しかと心得申した。これ、われがみにてのみ成せる所業……この返りし想い、今一度、お朱鷺さまとその御腹に宿る稚児へ……届け──花文!」
 幸吉のありのままの想いを朱鷺とその宿る命に届ける。そこには愛に包まれた朱鷺の表情、そしてその身籠った腹を優しく抱え、まるで応えるように温もりが朱鷺の身体全身に広がった。
「これぞ幸吉殿の切なる御想いにて候」
 全身全霊で舞う清の心に幸吉の『いつくしみ』が新たに宿った。
「これにて七つの徳、漸く半ば……姉さまに、また一歩、近づき申した……」
 清は片膝をつき、拳を握り締めた。

 一刻の間──

「清殿……誠にありがたき幸せ。最期に幸吉の声、直に胸に響き申した。おそらくは、この子にも届きしことと存ずる……」
 軽く自らの腹を撫でる朱鷺。疲れの中、清は肩で息をし、微笑む。
「われにもはや使命ができ申した。ひとつは、幸吉の想いを父、兵之助に伝え、『仁巡孝院、恩雪庵めぐみめぐるいつくしみのかこいおゆきあん』を建立こんりゅうし、その悲願を果たすこと……そして、この稚児ややこを無事この世に迎え出すこと……幸吉なき今、容易きことにあらねど……」
 天を見上げ、涙を流す朱鷺。
「お朱鷺さま……落ち着かれし折には、ゆるりと京へお戻り下され……幸吉殿の悲願、我らもまた共に願い奉る」
 清は振り向く。幼子の姿に戻った根音と根子が優しく頷いた。
 幸吉が消滅した後に転がるあるもの……朱鷺はそれを拾い上げ、懐にしまった。
時留ときどめの花飾り……まこと、あの御方の言のごとし……漆黒の衣を纏いたるおなごと、煌びやかなる花魁の……」
 朱鷺は聞こえぬような声でぼそりと呟いた。



 ──第七章 終幕──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...