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第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心
105話
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「すべからく、ここに契りを皆々に示さん……」
花誓が宣言すると幸吉の身体がゆっくりと消えていく。花誓が花契筆ノ詞綴を天に掲げてすべての終わりを告げる。
すべての舞が終わると今まで火花を散らした線香花火がゆっくりと玉を作り最後の輝きを放つ。それはまるで幸吉の最期を伝えるように……。
清が最後に姿を現す。そして舞の終演を示す、花結を告げる。
──忘れられても、与えしものは消えはしない。育むとは、孝む見返りなき祈りなりは永遠と知れ──
「これにて花結、締結……」
幸吉がゆっくりと、消滅していく。それはこの世に未練が晴れ、希望を残すように。
線香花火から玉が落ちる。そしてその玉ははじけ、灯火が消える。
「届け──花文!」
清が花文を唱え、幸吉に想いを届ける。そして清に跳ね返り胸に幸吉の想いが清に宿る。幸吉の最期の言葉がその想いに綴られている。
「……これは……左様にござるか……幸吉殿、しかと心得申した。これ、われがみにてのみ成せる所業……この返りし想い、今一度、お朱鷺さまとその御腹に宿る稚児へ……届け──花文!」
幸吉のありのままの想いを朱鷺とその宿る命に届ける。そこには愛に包まれた朱鷺の表情、そしてその身籠った腹を優しく抱え、まるで応えるように温もりが朱鷺の身体全身に広がった。
「これぞ幸吉殿の切なる御想いにて候」
全身全霊で舞う清の心に幸吉の『孝』が新たに宿った。
「これにて七つの徳、漸く半ば……姉さまに、また一歩、近づき申した……」
清は片膝をつき、拳を握り締めた。
一刻の間──
「清殿……誠にありがたき幸せ。最期に幸吉の声、直に胸に響き申した。おそらくは、この子にも届きしことと存ずる……」
軽く自らの腹を撫でる朱鷺。疲れの中、清は肩で息をし、微笑む。
「われにもはや使命ができ申した。ひとつは、幸吉の想いを父、兵之助に伝え、『仁巡孝院、恩雪庵』を建立し、その悲願を果たすこと……そして、この稚児を無事この世に迎え出すこと……幸吉なき今、容易きことにあらねど……」
天を見上げ、涙を流す朱鷺。
「お朱鷺さま……落ち着かれし折には、ゆるりと京へお戻り下され……幸吉殿の悲願、我らもまた共に願い奉る」
清は振り向く。幼子の姿に戻った根音と根子が優しく頷いた。
幸吉が消滅した後に転がるあるもの……朱鷺はそれを拾い上げ、懐にしまった。
「時留の花飾り……まこと、あの御方の言のごとし……漆黒の衣を纏いたるおなごと、煌びやかなる花魁の……」
朱鷺は聞こえぬような声でぼそりと呟いた。
──第七章 終幕──
花誓が宣言すると幸吉の身体がゆっくりと消えていく。花誓が花契筆ノ詞綴を天に掲げてすべての終わりを告げる。
すべての舞が終わると今まで火花を散らした線香花火がゆっくりと玉を作り最後の輝きを放つ。それはまるで幸吉の最期を伝えるように……。
清が最後に姿を現す。そして舞の終演を示す、花結を告げる。
──忘れられても、与えしものは消えはしない。育むとは、孝む見返りなき祈りなりは永遠と知れ──
「これにて花結、締結……」
幸吉がゆっくりと、消滅していく。それはこの世に未練が晴れ、希望を残すように。
線香花火から玉が落ちる。そしてその玉ははじけ、灯火が消える。
「届け──花文!」
清が花文を唱え、幸吉に想いを届ける。そして清に跳ね返り胸に幸吉の想いが清に宿る。幸吉の最期の言葉がその想いに綴られている。
「……これは……左様にござるか……幸吉殿、しかと心得申した。これ、われがみにてのみ成せる所業……この返りし想い、今一度、お朱鷺さまとその御腹に宿る稚児へ……届け──花文!」
幸吉のありのままの想いを朱鷺とその宿る命に届ける。そこには愛に包まれた朱鷺の表情、そしてその身籠った腹を優しく抱え、まるで応えるように温もりが朱鷺の身体全身に広がった。
「これぞ幸吉殿の切なる御想いにて候」
全身全霊で舞う清の心に幸吉の『孝』が新たに宿った。
「これにて七つの徳、漸く半ば……姉さまに、また一歩、近づき申した……」
清は片膝をつき、拳を握り締めた。
一刻の間──
「清殿……誠にありがたき幸せ。最期に幸吉の声、直に胸に響き申した。おそらくは、この子にも届きしことと存ずる……」
軽く自らの腹を撫でる朱鷺。疲れの中、清は肩で息をし、微笑む。
「われにもはや使命ができ申した。ひとつは、幸吉の想いを父、兵之助に伝え、『仁巡孝院、恩雪庵』を建立し、その悲願を果たすこと……そして、この稚児を無事この世に迎え出すこと……幸吉なき今、容易きことにあらねど……」
天を見上げ、涙を流す朱鷺。
「お朱鷺さま……落ち着かれし折には、ゆるりと京へお戻り下され……幸吉殿の悲願、我らもまた共に願い奉る」
清は振り向く。幼子の姿に戻った根音と根子が優しく頷いた。
幸吉が消滅した後に転がるあるもの……朱鷺はそれを拾い上げ、懐にしまった。
「時留の花飾り……まこと、あの御方の言のごとし……漆黒の衣を纏いたるおなごと、煌びやかなる花魁の……」
朱鷺は聞こえぬような声でぼそりと呟いた。
──第七章 終幕──
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