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第八章──悌(したしみ)の絆、隠された友情の証
108話
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「いかに致せば……?」
朱鷺は半死の意味がどれほど恐ろしいものか頭を巡らせた。そしてそれは幸吉が半死になり苦しむ姿だった。
「これを……」
静から渡されたのは簪。花の模様がいくつもあしらわれいくつかはゆらゆらと揺れるように細工されている。
「それは『時留の花飾り』と申す。舞ひ終えし後、しばしその者の死を留むること能ふ。これをこの者に持たせよ。そして今より、妾が舞を舞はん。そののち、あの未熟者に舞わせるべし……さすれば、この者は徳を抱き、安らかに旅立たん。それに……」
「それに……?」
「必ずや、あやつはそちに花文を遣ふであらう。それはあやつのみぞ操る特異の力。そちが生きる限り、その詞は胸より消ゆることなし……心にて、この者の想ひを抱き続けられん」
「さるほど……清殿もお雪殿の折、それを用ゐられた……ゆえに幸吉殿は安らがれた……お雪殿の想ひが直に心に届いたがゆえ……」
朱鷺はすべて疑問がほどけてゆく気分だった。
「……承知仕った……」
静はその言葉を受け、立ち上がり花化従に命を出す。
「花化従……舞支度を」
「御意でありんす」
花化従は白い花断の面をかぶり、唐笠の花傘を差す。
静が線香花火を取り出すと辺りが一面暗闇に包まれる。
「いざ、仇花霊々の舞にて候。花傀儡筆頭、花化従、此れに」
静の取り出した線香花火に息を吹き掛ける花化従……。
線香花火に火が灯る。朱鷺の目の前では幻想的な執り行いが始まる。突如暗闇から現れた笠をかぶり屈強な体格の仇花灯の籠の番人左手が線香花火を預かると、あの重たい下駄を履いたまま軽やかに舞う花化従。そして身体から枝分かれするような枝が地中に突き刺さると、そこから漆黒の蕾が五つ現れる。
──その手を拒めば、我が影も消ゆ。求めしは愛ゆえに、されど手を取らず──
静が舞の開幕を告げる花現身を告げた。
そこからは次々に現れる舞手に朱鷺は圧倒される。
──愛を拒み、声を閉ざし、名をも疎んだ。されど、その拒絶こそ、心の叫びであり『孝』という名の幻──
「これにて花尽──」
静により舞の終わりを告げる花尽が宣言された。
朱鷺は知らず涙を流していた。
「さあ、あの未熟者の許へ参れ……この『時留の花飾り』あらば案ずるに及ばず。ただし……妾がことは決してあの未熟者に告ぐるな……告げれば、あやつの舞は乱れよう。この者を天へ導くことのみ、胸に刻め……」
静と花化従の後ろ姿を見ていた朱鷺。その漆黒の着物と花魁の姿がやけに目に焼き付いた。
朱鷺は半死の意味がどれほど恐ろしいものか頭を巡らせた。そしてそれは幸吉が半死になり苦しむ姿だった。
「これを……」
静から渡されたのは簪。花の模様がいくつもあしらわれいくつかはゆらゆらと揺れるように細工されている。
「それは『時留の花飾り』と申す。舞ひ終えし後、しばしその者の死を留むること能ふ。これをこの者に持たせよ。そして今より、妾が舞を舞はん。そののち、あの未熟者に舞わせるべし……さすれば、この者は徳を抱き、安らかに旅立たん。それに……」
「それに……?」
「必ずや、あやつはそちに花文を遣ふであらう。それはあやつのみぞ操る特異の力。そちが生きる限り、その詞は胸より消ゆることなし……心にて、この者の想ひを抱き続けられん」
「さるほど……清殿もお雪殿の折、それを用ゐられた……ゆえに幸吉殿は安らがれた……お雪殿の想ひが直に心に届いたがゆえ……」
朱鷺はすべて疑問がほどけてゆく気分だった。
「……承知仕った……」
静はその言葉を受け、立ち上がり花化従に命を出す。
「花化従……舞支度を」
「御意でありんす」
花化従は白い花断の面をかぶり、唐笠の花傘を差す。
静が線香花火を取り出すと辺りが一面暗闇に包まれる。
「いざ、仇花霊々の舞にて候。花傀儡筆頭、花化従、此れに」
静の取り出した線香花火に息を吹き掛ける花化従……。
線香花火に火が灯る。朱鷺の目の前では幻想的な執り行いが始まる。突如暗闇から現れた笠をかぶり屈強な体格の仇花灯の籠の番人左手が線香花火を預かると、あの重たい下駄を履いたまま軽やかに舞う花化従。そして身体から枝分かれするような枝が地中に突き刺さると、そこから漆黒の蕾が五つ現れる。
──その手を拒めば、我が影も消ゆ。求めしは愛ゆえに、されど手を取らず──
静が舞の開幕を告げる花現身を告げた。
そこからは次々に現れる舞手に朱鷺は圧倒される。
──愛を拒み、声を閉ざし、名をも疎んだ。されど、その拒絶こそ、心の叫びであり『孝』という名の幻──
「これにて花尽──」
静により舞の終わりを告げる花尽が宣言された。
朱鷺は知らず涙を流していた。
「さあ、あの未熟者の許へ参れ……この『時留の花飾り』あらば案ずるに及ばず。ただし……妾がことは決してあの未熟者に告ぐるな……告げれば、あやつの舞は乱れよう。この者を天へ導くことのみ、胸に刻め……」
静と花化従の後ろ姿を見ていた朱鷺。その漆黒の着物と花魁の姿がやけに目に焼き付いた。
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