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第八章──悌(したしみ)の絆、隠された友情の証
116話
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「さることが……」
清は深いため息をつき、兵之助を見た。
「それより後、何ゆえか話はうまく運ばず……理はわからずとも、仲間は一人抜け、また一人抜け……気づけば事は頓挫いたし申した。儂は失意のうち、その場を去るほかなかった……じゃが、伝八ばかりは違うた。弟子どもと共に、立派な礼尊寺を築きあげおった。……儂は何を見誤ったのか……やはり仏を軽んじし罰かもしれぬ。若気の至りと言うには、あまりに天狗となりすぎておった……」
清は目を伏せた。
「契にございますか……その契は、かくも容易く切れるものか……なんと脆き契にてございましょうな……兵之助殿」
清は含み笑いを見せた。
「清殿……? な、なんと……」
「まこと、軽すぎて……笑いが止まりませぬわ」
徐々に笑い声が出だす。
「清殿……愚弄なさる気か?」
先ほどまでと雰囲気が変わる清に異常さを感じとり、兵之助ら顔を赤らめ怒りを顕にした。
「兵之助殿、契の理をわきまえておられまするか? 契とは、決して断たれるものにあらず。手前はそれをよく存じておりまする。宿家《やどりやけ》一族に伝わる契──『花切の契』こそ、その証……」
「花切の契……と申すか?」
聞き耳にしたことのない詞に呆気に取られる兵之助。
「左様……久遠の契にて候。それは如何なることあろうとも、決して切れぬものにてござる。手前の契は断絶の契にてございますが……」
おもむろに清が兵之助に手のひらを向ける。
「届け──花文!」
兵之助の心に直に清の想いが伝わる。想いと言うには生ぬるい。清の憎悪が流れ込む。
「な、なんじゃこれは……花切の契……これが……」
兵之助のまなうらにありありと浮かぶ。
──そこは宿家の惨劇。黒髪の女性が母親らしき人物に刃を突き刺し、そして笑いながら清殿の胸にその刃を突き刺していく。清殿は「姉さま」と読んでいる。刃は清殿の華奢な身体をほどなく貫いている。そして清殿が目覚めると目の前の地獄絵図。伏せたまま喉を切られ背中を貫かれた母親、喉を横一文字に切られ心の臓を穿たれ絶命した父親。その父親が手にする『花切の契の舞』と書かれた書。
「永遠の断絶を望む者に舞えば永劫に心は縛られる。解く術なし。死の先にすら交わることは断じてなし……今一度心に問え、一時の感情に惑わされるなかれ。それが許せる存在ならば我を呼び出すことなかれ」それを何度も口にする清殿。そして決心した清殿は舞っている。舞い始める清殿は闇に包まれ、そこから異形の存在が姿を現す。現世の者ではないことはすぐわかる。顔は髑髏そのまま、しかし瞳はぎょろりと目玉を浮かべる。言葉を発している。
「我は花切。未来のそなたらの姿……この姿になったとしても断たれた気持ちは巻き戻らない。この花切鋏を使いすべてを断ち切れ……」
花切は漆黒の色をした鋏を手渡した。清殿の目の前に赤い糸のような光が線引かれる。手渡された花切鋏をその光に鋏で挟んでいる。
「さぁ……切れ……断絶を願う者……」
清殿はゆっくりと鋏を動かしている。
シャキン──
「ここに花切の契、締結。これにて永遠の断絶成立なり……」──
そこで、まなうらに映った姿は消えた。そして目の前には三つ指をつき、畳に額をこすりつける清。
「これぞ久遠の契、『花切の契』……姉、静との永遠の断絶。……契とは、かくも覚悟ある者のみが交わすものにて候」
清は静かに言葉を紡いだ。
清は深いため息をつき、兵之助を見た。
「それより後、何ゆえか話はうまく運ばず……理はわからずとも、仲間は一人抜け、また一人抜け……気づけば事は頓挫いたし申した。儂は失意のうち、その場を去るほかなかった……じゃが、伝八ばかりは違うた。弟子どもと共に、立派な礼尊寺を築きあげおった。……儂は何を見誤ったのか……やはり仏を軽んじし罰かもしれぬ。若気の至りと言うには、あまりに天狗となりすぎておった……」
清は目を伏せた。
「契にございますか……その契は、かくも容易く切れるものか……なんと脆き契にてございましょうな……兵之助殿」
清は含み笑いを見せた。
「清殿……? な、なんと……」
「まこと、軽すぎて……笑いが止まりませぬわ」
徐々に笑い声が出だす。
「清殿……愚弄なさる気か?」
先ほどまでと雰囲気が変わる清に異常さを感じとり、兵之助ら顔を赤らめ怒りを顕にした。
「兵之助殿、契の理をわきまえておられまするか? 契とは、決して断たれるものにあらず。手前はそれをよく存じておりまする。宿家《やどりやけ》一族に伝わる契──『花切の契』こそ、その証……」
「花切の契……と申すか?」
聞き耳にしたことのない詞に呆気に取られる兵之助。
「左様……久遠の契にて候。それは如何なることあろうとも、決して切れぬものにてござる。手前の契は断絶の契にてございますが……」
おもむろに清が兵之助に手のひらを向ける。
「届け──花文!」
兵之助の心に直に清の想いが伝わる。想いと言うには生ぬるい。清の憎悪が流れ込む。
「な、なんじゃこれは……花切の契……これが……」
兵之助のまなうらにありありと浮かぶ。
──そこは宿家の惨劇。黒髪の女性が母親らしき人物に刃を突き刺し、そして笑いながら清殿の胸にその刃を突き刺していく。清殿は「姉さま」と読んでいる。刃は清殿の華奢な身体をほどなく貫いている。そして清殿が目覚めると目の前の地獄絵図。伏せたまま喉を切られ背中を貫かれた母親、喉を横一文字に切られ心の臓を穿たれ絶命した父親。その父親が手にする『花切の契の舞』と書かれた書。
「永遠の断絶を望む者に舞えば永劫に心は縛られる。解く術なし。死の先にすら交わることは断じてなし……今一度心に問え、一時の感情に惑わされるなかれ。それが許せる存在ならば我を呼び出すことなかれ」それを何度も口にする清殿。そして決心した清殿は舞っている。舞い始める清殿は闇に包まれ、そこから異形の存在が姿を現す。現世の者ではないことはすぐわかる。顔は髑髏そのまま、しかし瞳はぎょろりと目玉を浮かべる。言葉を発している。
「我は花切。未来のそなたらの姿……この姿になったとしても断たれた気持ちは巻き戻らない。この花切鋏を使いすべてを断ち切れ……」
花切は漆黒の色をした鋏を手渡した。清殿の目の前に赤い糸のような光が線引かれる。手渡された花切鋏をその光に鋏で挟んでいる。
「さぁ……切れ……断絶を願う者……」
清殿はゆっくりと鋏を動かしている。
シャキン──
「ここに花切の契、締結。これにて永遠の断絶成立なり……」──
そこで、まなうらに映った姿は消えた。そして目の前には三つ指をつき、畳に額をこすりつける清。
「これぞ久遠の契、『花切の契』……姉、静との永遠の断絶。……契とは、かくも覚悟ある者のみが交わすものにて候」
清は静かに言葉を紡いだ。
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