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第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
147話
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紅花が千種座に戻るとひとり稽古に励む緋美がいる。そこには数刻前の緋美とは似ても似つかぬ様。妖艶増した緋美。その姿に魅入られる己がいたことがわかる。
──人の情とは、これほどまでに演者をも変ずるものか……あらためて、情こそ芝居の本質にて候──
紅花は、それが今の緋美を動かす力、そして芸の本質と思い背を向けた。
──今は台帳を清殿に見せることが先決なり──
台帳を楽屋から拝借すると清の元に戻る紅花。
「これが台帳にござる」
「げに申し訳ござらん、紅花殿……」
清が表紙を見ると『綴り人 花識』の文字に目がいく。
「『花識』……これは……いつぞや『忠』の徳、現路殿に会いし折、花傀儡の花化従と共におった者と同じ名……やはり姉さまが何やら仕掛けを……」
憎悪が心の中で渦巻く。
──姉さまは何がしたいのだ? 緋美殿に『罰』の心を持たせ……──
心の内思いながら綴られた台帳を静かに捲る。それを見守る紅花。清が読み終える。
フウッ……
清は深く息をついた。
「やはり……この物語、秋架殿と『信』の物語……酷似しておる……否、あの折の有様そのもの……」
「あの時とは……?」
清の呟きに咄嗟に言葉を挟む紅花。
「紅花殿……この台帳……すべて事実……そしてここに記されし端女の姫、秋姫とは……秋架殿……いや、紅花殿が恩を受けし鷹司弓定さまの御子、現、東洲ノ国領主、文綱さまの御息女にてござる……」
「なんと……あの鷹司家の……姫……」
紅花は驚きが隠せなかった。
「そして……この台帳に現れし花仕舞師……手前のことでござる……」
「なっ、そなたなこととな……」
すべてが繋がっていく縁。
「ならば……緋美殿は誤れる心にて秋姫を演じておる……されど秋姫……否、秋架殿はそのやうな御心の御方にあらず……あのお方は『信』を貫かれた慈悲深き御方……いかなる困難あろうとも、契りを結ばずとも、ただ信じ抜き、深く……深く……海のごとき広き御心を持たれておった……ゆえに緋美殿も、その御心にて演じねば秋架殿の恥となろう……ゆえに、知っていただきたい……紅花殿も……届け──花文!」
清は紅花に花文を使い秋架の『信』を紅花に届ける。
「これは……凄まじきほどの『信』なり……かくも御方がおられたとは……」
紅花は秋架のまことの心を知る。
「そして……この想ひを緋美殿に届けられるは……母なる紅花殿、そなたにしか成し得ぬこと……やれまするか?」
清は問う。紅花は決意する。
「できる、できぬではなき……やらねばならぬ……緋美の父として……母として……」
──人の情とは、これほどまでに演者をも変ずるものか……あらためて、情こそ芝居の本質にて候──
紅花は、それが今の緋美を動かす力、そして芸の本質と思い背を向けた。
──今は台帳を清殿に見せることが先決なり──
台帳を楽屋から拝借すると清の元に戻る紅花。
「これが台帳にござる」
「げに申し訳ござらん、紅花殿……」
清が表紙を見ると『綴り人 花識』の文字に目がいく。
「『花識』……これは……いつぞや『忠』の徳、現路殿に会いし折、花傀儡の花化従と共におった者と同じ名……やはり姉さまが何やら仕掛けを……」
憎悪が心の中で渦巻く。
──姉さまは何がしたいのだ? 緋美殿に『罰』の心を持たせ……──
心の内思いながら綴られた台帳を静かに捲る。それを見守る紅花。清が読み終える。
フウッ……
清は深く息をついた。
「やはり……この物語、秋架殿と『信』の物語……酷似しておる……否、あの折の有様そのもの……」
「あの時とは……?」
清の呟きに咄嗟に言葉を挟む紅花。
「紅花殿……この台帳……すべて事実……そしてここに記されし端女の姫、秋姫とは……秋架殿……いや、紅花殿が恩を受けし鷹司弓定さまの御子、現、東洲ノ国領主、文綱さまの御息女にてござる……」
「なんと……あの鷹司家の……姫……」
紅花は驚きが隠せなかった。
「そして……この台帳に現れし花仕舞師……手前のことでござる……」
「なっ、そなたなこととな……」
すべてが繋がっていく縁。
「ならば……緋美殿は誤れる心にて秋姫を演じておる……されど秋姫……否、秋架殿はそのやうな御心の御方にあらず……あのお方は『信』を貫かれた慈悲深き御方……いかなる困難あろうとも、契りを結ばずとも、ただ信じ抜き、深く……深く……海のごとき広き御心を持たれておった……ゆえに緋美殿も、その御心にて演じねば秋架殿の恥となろう……ゆえに、知っていただきたい……紅花殿も……届け──花文!」
清は紅花に花文を使い秋架の『信』を紅花に届ける。
「これは……凄まじきほどの『信』なり……かくも御方がおられたとは……」
紅花は秋架のまことの心を知る。
「そして……この想ひを緋美殿に届けられるは……母なる紅花殿、そなたにしか成し得ぬこと……やれまするか?」
清は問う。紅花は決意する。
「できる、できぬではなき……やらねばならぬ……緋美の父として……母として……」
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