想っていたのは私だけでした

涙乃(るの)

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 「どういうことですか…?」

はやる気持ちを抑えて言葉を絞り出して、院長先生の続きの言葉を待った

「スミレ、ガヴェインはな、引き取られたのじゃ」

「養子に…ということですか?」
エリックも男の子にしてほかわいらしい顔立ちだし、容姿で選ばれたのかしら

「院長先生?」

「すまないスミレ…わしの力だけでは…どうにもできんのだ…みすみす売るような…」

「売るってどういうことですか?ガヴェインは家族として迎え入れられたのですよね?」

「突然のことでな。エリックを見かけて気に入ったからと、さるお貴族の奥方様が引き取りたいと押しかけてきたのじゃ。エリックの人生に関わることじゃ。むろん慎重に調べて相談してからと伝えたのだ。だが、今すぐに連れていきたいと。お金ならいくらでも出すと。多額の金額を提示してきてな。」

「そんな…」

修道院が困窮している現状では…断りきれない部分もあったのかもしれないそれでも

「だが、様子がどうも…気になってな…とてもエリックを養子に迎えたいという風には…。従者との会話が気になってな…」

「会話が?どんな風にですか」

「ふむ、その…嗜好…趣味…とか…
エリックを見る目つきがなんとも。エリックは怖がっていてな。
詳しくは分からんが見かねたガゥェインが何か話しをしておった。そして自分が行くことになったと。わしは…」

「名前は?どこに行ったのですか?ガゥェインは?いつ出たのですか。ガゥェイン!」

「スミレ!待ちなさいもう遠くに行って…」

院長先生の言葉を待たずに孤児院を飛び出した
ガヴェイン!ガヴェイン!

お願い!置いてかないで

私を一人にしないで!

せめて望んで出て行ったなら
ガヴェインがどんな目にあうか分からない
走って走ってとにかくひたすら走り続けた

当てもなくただただ気持ちばかり焦って

「痛っ」
はぁはぁはぁはぁ
転んで地面にうつ伏せになって泣き叫ぶ

「ガヴェインーーーー!」

泣き腫らした顔、服は土で汚れて酷いありさまだった

ここにいてもガヴェインは戻ってこない

もう一度会いたい

落胆して孤児院の部屋に戻ると倒れ込むようにベッドに突っ伏した

スー大丈夫か?

と声をかけてくれるガウェインはもういない

「ガウェイン…ガウェインの…ばか…」

寝返りを打つとガサッと音がして何かの感触があった

「これは…手紙?」


ベッドの上に折り畳まれた1枚の便箋があった

広げてみると紫色の何かがこぼれ落ちた

「スミレ?」


手に取ると1輪のスミレの花だった

手紙に目をやると、そこには見慣れたガウェインの文字が綴られていた


一緒にいれなくてごめん

ポタポタッと雫がこぼれおちる

もう枯れてしまったと思ったのにまだこんなに残っていたのかと自分でも驚くほど、涙が溢れてくる

便箋にはその一文の下に、小さく文字が綴られていた


大好きだよ スミレ

「うっ」



「ガウェイン!」

そうして呪文のように名前を呟きながらいつの間にか泣きつかれて眠っていた


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