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第ニ部
ルーカス ②
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私達は、しばらく淀みなく流れる川のせせらぎを一緒に眺めていた。
水の流れる音は、どうしてこんなにも心地良いのだろう。
荒んだ心も、ここで綺麗に洗い流せるるといいのに。
ただ黙って、寄り添うように二人で眺めている。こんなにもすぐ近くにいるのに、私達の間には、見えない壁がある。その壁は、決して傷つけてはいけない壁。壊してはいけない大切なもの。
あれから、私達がそれぞれ別の人生を歩んで、築いてきた証でもあるから。
決して超えてはいけない壁。
どのくらい経った頃だろう。ルーカスが訥々と話し始めた。
「今日は……カオリちゃんは一緒じゃないの?」
「うん。」
「一人では心配じゃない?」
「エミリオが……いるから。」
その言葉を聞いて、ルーカスがはっと息をのんだ。
ルーカスとは、ただの幼馴染。
一線を引かなきゃ。
サラお嬢様の件で、今は混乱しているだけ。
あえてエミリオの名を口にすることで、自分の気持ちを再確認する。
「今日は休みなの?それじゃあリナも、こんなところにいないで帰らないと。って、僕のせいか……。
せっかくの家族の休日を…邪魔してごめん」
「ううん、謝らないで。」
邪魔だなんて思っていない。どちらかというと私がいる方がエミリオには邪魔だと思うから。
「なにかあった?
変装してることと関係ある?」
咄嗟に、頭から被ったスカーフの上に手を載せる。
上手く顔を隠せていると思ったのに。すぐに見破られたことが恥ずかしい。
きっと、ルーカスだから私だと気づいたのよね。
こんな時でも、自分のことよりも私のことを気にかけてくれる。思いやりのある人。
でも、どうして?
どうして、あの時裏切った私なんかにも優しいの?
ルーカスは、もっと自分のことを大事にしてほしい。幸せになって欲しい。
自分の人生を歩んでほしい。サラお嬢様に振り回される人生ではなく。
もしかしたら、ルーカスの人生を取り戻せる機会なのかもしれない。サラお嬢様が商会を退く時なら。
だから、ルーカス諦めないで。お願いだからそんな辛そうな顔をしないで。
でないと私、自分が許せない……。
ルーカスをこのまま一人残していけない。
本当は、全部話してしまいたい。
サラお嬢様に言われたこと、
エミリオとギクシャクしていること、
街を出て行くべきなのか悩んでいることも。
ルーカスと私は、そんなこと相談できる関係ではないのに。
一方的に頼ってしまいたくなる。
私は、なんて自分勝手なんだろう。
こんなことでは、ルーカスを苦しめてるあの人と同じだわ。
これ以上、ルーカスを苦しめてはいけない。
「わ、わたしのことよりも、ルーカスは?
どうしてるの?」
返答に困ってしまい、あまりにも抽象的すぎる質問をした自分に驚く。
よりにもよって、どうしてるの?とか
答えにくすぎる。
コミュ力のない自分が情けない。
「僕は━━どうしてるのかな。自分でも分からない。
あの日、リナに再会してから、
ずっと、考えてる」
はやる気持ちをぐっと堪えて、ルーカスの言葉に耳を傾けた。
「ふっ、自分が情けなくて笑える。
リナにカッコつけて、リナを遠ざけることが正しいんだ。
そうすることが、まるで美徳だ、と思ってあんな態度をとったのに。
リナに結局、全部知られていたなんて……。カッコ悪すぎだよ。
あの時の僕は、完全に自分に酔っていたんだ。
自惚れていたんだ
リナを‥… 守るためだと。
それにどんなことがあっても、リナの一番が自分だと思ってた。
どんなに離れたとしても、それは決して変わることはないだろうと。
おかしな奴だよね。
ひどい言葉で傷つけて、突き放しておきながら、それでも一番の存在でいたいだなんて。
でもあの日、リナと再会した日、現実を突きつけられてショックだった。
リナの幸せを、誰よりも願っていたはずなのに。
リナとカオリちゃんが……、一緒にいるのを見て、
その隣に自分がいられない現実が許せなかった。
日向の道を歩んで欲しいと、望んでいたはずなのに!
歪んでるだろ僕?」
自嘲気味に語るルーカス。
なかば、自暴自棄になっている。
そんなルーカスの淀んだ瞳をみつめて、私はただ黙って、ルーカスの続きの言葉を待った。
水の流れる音は、どうしてこんなにも心地良いのだろう。
荒んだ心も、ここで綺麗に洗い流せるるといいのに。
ただ黙って、寄り添うように二人で眺めている。こんなにもすぐ近くにいるのに、私達の間には、見えない壁がある。その壁は、決して傷つけてはいけない壁。壊してはいけない大切なもの。
あれから、私達がそれぞれ別の人生を歩んで、築いてきた証でもあるから。
決して超えてはいけない壁。
どのくらい経った頃だろう。ルーカスが訥々と話し始めた。
「今日は……カオリちゃんは一緒じゃないの?」
「うん。」
「一人では心配じゃない?」
「エミリオが……いるから。」
その言葉を聞いて、ルーカスがはっと息をのんだ。
ルーカスとは、ただの幼馴染。
一線を引かなきゃ。
サラお嬢様の件で、今は混乱しているだけ。
あえてエミリオの名を口にすることで、自分の気持ちを再確認する。
「今日は休みなの?それじゃあリナも、こんなところにいないで帰らないと。って、僕のせいか……。
せっかくの家族の休日を…邪魔してごめん」
「ううん、謝らないで。」
邪魔だなんて思っていない。どちらかというと私がいる方がエミリオには邪魔だと思うから。
「なにかあった?
変装してることと関係ある?」
咄嗟に、頭から被ったスカーフの上に手を載せる。
上手く顔を隠せていると思ったのに。すぐに見破られたことが恥ずかしい。
きっと、ルーカスだから私だと気づいたのよね。
こんな時でも、自分のことよりも私のことを気にかけてくれる。思いやりのある人。
でも、どうして?
どうして、あの時裏切った私なんかにも優しいの?
ルーカスは、もっと自分のことを大事にしてほしい。幸せになって欲しい。
自分の人生を歩んでほしい。サラお嬢様に振り回される人生ではなく。
もしかしたら、ルーカスの人生を取り戻せる機会なのかもしれない。サラお嬢様が商会を退く時なら。
だから、ルーカス諦めないで。お願いだからそんな辛そうな顔をしないで。
でないと私、自分が許せない……。
ルーカスをこのまま一人残していけない。
本当は、全部話してしまいたい。
サラお嬢様に言われたこと、
エミリオとギクシャクしていること、
街を出て行くべきなのか悩んでいることも。
ルーカスと私は、そんなこと相談できる関係ではないのに。
一方的に頼ってしまいたくなる。
私は、なんて自分勝手なんだろう。
こんなことでは、ルーカスを苦しめてるあの人と同じだわ。
これ以上、ルーカスを苦しめてはいけない。
「わ、わたしのことよりも、ルーカスは?
どうしてるの?」
返答に困ってしまい、あまりにも抽象的すぎる質問をした自分に驚く。
よりにもよって、どうしてるの?とか
答えにくすぎる。
コミュ力のない自分が情けない。
「僕は━━どうしてるのかな。自分でも分からない。
あの日、リナに再会してから、
ずっと、考えてる」
はやる気持ちをぐっと堪えて、ルーカスの言葉に耳を傾けた。
「ふっ、自分が情けなくて笑える。
リナにカッコつけて、リナを遠ざけることが正しいんだ。
そうすることが、まるで美徳だ、と思ってあんな態度をとったのに。
リナに結局、全部知られていたなんて……。カッコ悪すぎだよ。
あの時の僕は、完全に自分に酔っていたんだ。
自惚れていたんだ
リナを‥… 守るためだと。
それにどんなことがあっても、リナの一番が自分だと思ってた。
どんなに離れたとしても、それは決して変わることはないだろうと。
おかしな奴だよね。
ひどい言葉で傷つけて、突き放しておきながら、それでも一番の存在でいたいだなんて。
でもあの日、リナと再会した日、現実を突きつけられてショックだった。
リナの幸せを、誰よりも願っていたはずなのに。
リナとカオリちゃんが……、一緒にいるのを見て、
その隣に自分がいられない現実が許せなかった。
日向の道を歩んで欲しいと、望んでいたはずなのに!
歪んでるだろ僕?」
自嘲気味に語るルーカス。
なかば、自暴自棄になっている。
そんなルーカスの淀んだ瞳をみつめて、私はただ黙って、ルーカスの続きの言葉を待った。
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