本当はあなたを愛してました

涙乃(るの)

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第三部

ダーニャ③

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✳︎✳︎✳︎

「んん、また眠ってしまったわ。あとどのくらいかしら」


かなりの速いペースで馬車は進んでいた。
今は争いもなく国同士は友好関係にあるので、遠方の国までの道も整備されている

私達は急いでいたので、通過する国は宿に泊まるくらいで観光もせずにひたすら馬車道を進んでいた


必然的に窓から見える景色も単調で退屈だった


「みんな、長旅に付き合ってくれてありがとう。体調が悪くなったりしたら遠慮なく言ってちょうだい。」


馬車の窓を開けて護衛の者達に聞こえるように声をかけた


「明日には辿り着けると思います。お嬢様」


「そう、あと少しの辛抱ね」


前方の御者からの返答を聞き、もう少しで目的地に着くことを知り、皆も安堵の表情を浮かべる


車内ではマリがうつらうつらと眠っている


もうすぐお姉さまの暮らしていたところに着くのね

✳︎✳︎✳︎


「レナルドお兄様、何の本を読まれているのですか?」

「あぁサラか、また木登りでもしていたのかい?ほら、髪に葉っぱがついてる」

「えぇっ?」

中庭のベンチで読書をしていた兄は、私に気がづくと髪の毛にそっと手を伸ばす

「ははっ、可愛い奴め」

ガシガシっと私の頭を撫でると、またベンチに腰をおろした

エミリアお姉さまと違って大きな手だけれど、こうして撫でられるのが好きだった


「もう、子供扱いしないでくださいお兄様
木登りをしていたのは昔のことですわ」

「はいはい、サラはもう子供ではないのか~」

2つ年上のレナルドお兄様は、我が家の待望の男児とあって、父も後継者教育を熱心に行なっていた

母が亡くなり、エミリアお姉さまとローラお姉さまも嫁いでいき寂しさを埋められないでいた私は、なんとか兄に構ってもらおうと必死だった

父は兄に商会の勉強を教えるために、付きっきりだし、マリも忙しいし、必然的に私は1人の時間が多かった

「お兄様、それは何の本ですの?
経営…」


「勝手に覗きこむのは淑女としてどうかと思うよ?もう子供でないサラお嬢さん」

バタンと本を閉じた兄は私の鼻をつまむ

「お兄様、やめてください」

「はは、サラは、そうやって笑っている方が可愛いよ。サラは女の子なんだし、きっと父上がサラのことを幸せにしてくれる殿方を探してくれるから。」


「お兄様は、私に早く結婚してほしいのですか?」

「あぁ、できればね、姉上達もそう望んでる。それがサラの幸せだから」

「なぜそう言い切れる?」

私達は一斉に声のした方を振り向いた



「ダーニャお姉さま!いつこちらにいらしたの?」

「やぁ、サラ、久しぶりだね、今着いた所だよ。レナルド、相変わらず君は固定観念の塊みたいなことを言っているんだね」

ダーニャお姉さまの姿を見て、ぱぁっと顔を綻ばせた私とは対照的に、お兄様は眉間に皺を寄せていた

「ようこそダーニャ嬢。
聞き捨てなりせんね
私は至極常識的なことを言っているだけですが?」

「常識…まぁこの国ではそうかもしれないか。
結婚したからと言って幸せとは限らない。相手が浮気するかもしれないし、浪費癖があるかもしれない。暴力を振るうかもしれない。なのにこの国では女性は簡単に離婚することもできない。」


「まぁごく一部にそういう人がいるかもしれないが。細心の調査をするから間違ってもサラの相手にはそんな人はありえない。それに簡単に離婚できないと言うのは、女性は庇護されるべき存在だからだ。」

「まるで女性が何も出来ないみたいに言うんだね?自立して働けばいいじゃないか。誰かに頼る訳ではなく」

「働く?それは庶民では、いや、君の国では許されることかもしれないが、この国では、まして貴族の令嬢であるサラには、関係のない話だ。あまり変なことをサラに吹き込むのはやめてくれないか?姉上は随分と君に心酔していたみたいだけど、結局は姉上も普通の幸せを選んだ。失礼する」


立ち去るお兄様の後ろ姿が妙に記憶に残っている


最初はお兄様も仕事をすることに反対していたわね

レナルドお兄様、私は間違っているのでしょうか

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