結婚記念日

涙乃(るの)

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◇   ◆  ◇


夕方、夫が帰ってくると、開口一番に問いかけられた。


「ねぇ、荷物届かなかった?」

「いいえ」

「そうかい?おかしいなぁ」

私は、荷物が届かなかったと嘘を突いた。



背中と脇にじっとりと汗が滲む。

嘘をついてごめんなさい、亘さん。

「ねぇ、まみちゃん、騙されたかもしれない……。指定したのに!大事な荷物なんだ。今日届かないと間に合わない。注文先に連絡してみるよ」


「あっ!と、ちょっと待って!もしかしたら不在票が届いてたような…うん、届いてたかも!今日は遅いし明日の朝連絡するわ、ね?」

「うーん……そうかい?まあ、連絡するのは面倒だし、まみちゃんに任せる」

翌日、猛スピードで昨日行った場所へと向かった。
亘さんにバレないように、小箱を部屋の前に置く。


慌てて走ったので、息がまだ乱れている。
呼吸を整えると、亘さんへと声をかけた。


「ねぇ、亘さん、部屋の前に荷物置いておくわね」

休みの日は、夫は昼過ぎまで寝ている。

目をこすりながら寝室から出てきた夫は、
ドシンドシンと足音響かせて、私の元に駆け寄ってきた。

手には、あのアクセサリーケースを大事そうに持っている。

「まみちゃん、今日が何の日か覚えてる?」

照れ笑いを浮かべる亘さんに、ちょっと意地悪をしてみたくなった。

「今日? あ、クリスマスね」

「あぁ!そうだけども!僕達の記念日だよ!はい、これ……」


ふふ、全くこの人は、不器用な人ね。


早く、早く受け取って、と差し出される小箱を黙って受けとる。


「何かしら?開けてもいい?
わぁ、綺麗!ありがとう!亘さん!
私からもプレゼントがあるの、腕時計よ」

初めて見ました、という演技がちゃんとできたかしら?

指輪は、すっぽりと薬指に綺麗にはまった。

「わぁぴったり!亘さんもつけてみて」

「腕時計、嬉しいな。あぁ、ピッタリだ、ありがとう、まみちゃん」


10年前、婚約指輪のお返しに、私は亘さんへ腕時計をプレゼントした。


時計のベルトがきつくなったからと、いつの頃からかつけなくなったのよね。カバンにつけてくれてたけれど。あの頃は今よりもほっそりとしてたものね。もう少し余裕を持ったサイズに調整してもらえば良かったわね。

だから、今回は調整可能な腕時計をプレゼント
したかったの。


亘さんは、気づいてないでしょう?
私も結婚指輪をはめていないことに。


サイズがきつくなって、嵌めれなくなったのよ。


男の人って、髪型を変えても気づいてくれないのよね。

まぁ、そういうところもかわいいのだけれど。

10年前よりもふくよかな指に、ピッタリとはまっている指輪。

喜んでくれて良かったと安堵する夫。

ねぇ、亘さん、いつか気づくかしら?

昨日、指輪のサイズ直しをお願いしに行ったのよ。

明細書不要欄にチェックするのも面倒だったのね。 明細書があって助かったわ。

おかげで、あなたに気まずい思いをさせなくて済んだのだから。

だって、指輪がはまらなかったら、あなたが私以上に悲しむでしょう?

あなたの悲しむ顔をみたくなくて……。

こんな私だけど、これからもよろしくね、亘さん。
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